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第一章 記憶喪失の転生幼女〜ギルドで保護され溺愛される
魔法のお勉強始めます
しおりを挟むアイリの治癒魔法が発動されてから数日後⋯
カンザックの冒険者ギルドに、元王宮魔道士ジーニア・ロディマスがやって来た。
「先日振りですね、ルーク殿。アイリ様も、この老人を覚えておいででしょうか?」
流石に先日王宮で見たような真っ白なローブは着ていないが、質のいい紺色の、一目で魔道士と分かるローブを身に着けた老紳士がいた。
「あいっ!ジーニャしゃん。」
「そうです、そうです。ジーニャですぞ。アイリ様は、今日もまた愛らしいですな~」
デレデレと相好を崩すジーニアに半目のルークだが、確かに能力とアイリの属性魔力に関して知っている事を考えれば、一番の適任者だ。適任⋯ではあるのだが⋯
「⋯⋯」
今目の前にいるのは、ただ孫を溺愛するお祖父ちゃんにしか見えない。
これが本当にあの歴代最高と言わしめた元天才魔道士長ジーニア・ロディマスと同一人物なのか⋯
ジーニアはひとしきりアイリを堪能すると、今回の目的を果たす為場所を変えて、ギルドの一画にある鍛錬場へと向かった。
この鍛錬場は、主に冒険者達が己の魔法や剣術、体術を磨く為に誰にでも使えるよう開放された場所だ。
鍛錬場は主に魔法を扱う場所と、剣術や体術、新しい武器の練習などに使う場所と大きく二ヶ所に分けられている。
ルークたちはその中の魔法鍛錬場へと向かうと、周りに人がいない事を確認し認識阻害魔法と防音結界を張った。
「これでアイリの魔法が外部に見られることはない。」
「ルーク殿は相変わらず魔力の扱いが上手ですな。このように、結界を一瞬で張られるとは。」
以前にも軽く話に出たが、魔法の発動には繊細な魔力コントロールが必要となってくる。その為、人によって発動時間がバラバラなのだ。
しかしルークはそれを何事もなくやってのける。ルークもまた天才と呼ばれる部類だろう。
そして規格外なのがアイリだ。
そもそも魔力コントロールの練習なんてしていない筈のアイリが、高等とされる治癒魔法を使ったのだ。そしてミリーナの傷跡を跡形もなく消し去った。
あの話し合いの後、ルークはその時どうやってミリーナを治したのか尋ねたが、アイリ自身もよく分かっていなかった。
「では、まずこの花で試してみましょうか。1つは三日程水を与えずに萎びれた花。もう1つはポッキリと折れてしまった花です。こちら両方共、それぞれにアイリ様がミリーナさんにしたようにして頂けますか?」
鉢に入ったお花を見て、ん~?とアイリは考えてから、そっと折れた花に手で触れた。
すると、折れて頭を垂れるようにしていた花がみるみると元気を取り戻し、真っ直ぐ天に向かって頭を上げた。折れてた箇所はすっかり治っている。
「ほぉ⋯速いですね?⋯では次に、こちらもお願い致します。」
そう言ってジーニアが萎びれた花をアイリに見せると、同じ様に手を伸ばして花に触れたアイリの指先から、魔力が流れていってるのが分かった。
そして萎びれて枯れかけていた花は、瑞々しさを取り戻して綺麗な花を咲かせていた。
その様子を見て、ジーニアはふむふむと頷きながら何か納得した表情で言った。
「やはり、アイリ様の魔力コントロールは抜群ですな。そしてアイリ様は治癒魔法だけでなく回復魔法も扱えております。」
その言葉にキョトンとしているアイリだが、ルークは驚愕に目を見開いていた。
「まさか⋯これ程だったとは⋯」
ルークも聖属性を持っている為、治癒魔法は扱える。しかし治癒や回復魔法には流石のルークでも魔力コントロールを慎重に行う程繊細なのだ。
それをこうもアッサリと短時間でやってのけてしまうアイリは、魔力コントロールに抜群のセンスを持っていた。
「ええ、これはもう魔力コントロールについては教える事はないかと。その分、魔法の扱い方を練習された方が身に付くでしょう。」
ジーニアはそう言うと、アイリにお花に触れた時どんな事を思ってたのかを聞いた。
「んっとぉ~⋯ポキッてなってたお花しゃんはいたくてかわいしょうだったから、いたいのなおりましゅようにって思ったの。しょれから⋯ぐったりしてたお花しゃんは元気になぁれって思ったの。」
「そうですか⋯アイリ様は本当にお優しいですね。ではミリーナさんの時は、どんな事を思ってましたか?」
「ミリーナおねえちゃん?おねえちゃんのときは、しぇなかがとってもいたそうで、きれいなお肌にもどりぇーって思ってたら、きれいになったの。」
アイリのその言葉を聞いて、ジーニアはある仮説を立てた。
「あくまで仮説ですが⋯恐らくアイリ様の魔法は、本人の『想い』が大きく関わってくるのだと思います。ミリーナさんの件で言うと、傷を治そうというよりも綺麗な肌に戻したいという想いが強かった。だから跡形もなく消え去ったのだと思います。」
「⋯では、もし片腕がなくなったりしても、アイリがそう願えば⋯⋯いや、待て、それすらも可能にしてしまったら、まさかっ!?」
言いながら途中で気付いたのか、ルークの焦ったような声にジーニアは眉を顰めて苦々しい表情のままゆっくりと頷いた。
「⋯えぇ、やはり気付きましたか。恐らく禁術と言われる『蘇り』すらも、叶えてしまう可能性があります。⋯アイリ様の力はあまりに強すぎて危険です。これは本格的に魔法の扱い方を教えて差し上げなければなりませんね⋯」
ただでさえこんなに可愛くて目が離せないのに、こんな能力まで知られてしまったらますますアイリの身の危険が高まってしまう。ルークの過保護に拍車がかかった。
アイリには治癒や回復魔法は人前で絶対に使わないように言い聞かせて、他の身を守る為の魔法を教える事にした。
こうしてルークとジーニアの教えの元、恐らく最強と思われる防御結界を身に付けたアイリ。
物理攻撃にも魔法攻撃にも耐え得る、これなら聖獣と言われる伝説の生き物が襲ってきても恐らく跳ね返されるであろう強度を誇る結界だ。
⋯魔法に関して天才と言われる二人は、加減を知らなかった。
そうして魔法の特訓は終わりを告げ、気付けば夕食前の時間だ。ジーニアはどうやらこのまま数日こちらに滞在するらしい。
⋯陛下の羨ましそうにしてる顔が浮かぶが、アイリに呼び掛けられて一瞬にして消し去ったルーク。
「ルークしゃん、今日のよるご飯、なんだろね~♪」
今日はいっぱい魔法を使って疲れているだろうアイリは、ご飯の途中から眠気と闘いだしたがデザートだけはしっかりと完食していた。
ルークの腕に抱かれて、部屋に戻る頃にはすっかり寝てしまったアイリをミリーナに預け、ルークはシリウスの元へと向かった。
最近定例報告のようになってきているアイリについて話し合う為だ。
昼間ジーニアと話したアイリの魔法の見解を伝えると、やはりと言うか、皆驚愕しながらもアイリの身の危険を察して治癒魔法や回復魔法は使わせないようにしようと意見が一致した。
そして水魔法をメインに教えていくことにしたのだが、これはもう一つの属性、闇魔法の扱いに長けた者が中々いないのと、こちらも希少属性なのであまりおおっぴらに扱えないからだ。
しかしジーニアに心当たりがあるらしく、今度その者も連れてきてくれるという。
ジーニアが滞在する数日の間は、ほぼ毎日少しずつだがアイリに水魔法を教えていった。きちんとおやつタイムも取りつつ、魔法を使える事が余程嬉しいのか、アイリはぐんぐん教わる事を吸収していった。
そうして数日カンザックに滞在したジーニアが王宮に戻る日の朝、アイリは寂しくて泣きそうな表情をしていた。
「ジーニャしゃん⋯かえっちゃうのぉ⋯?」
「うっ⋯帰りたくない⋯⋯もう残りの人生、ここで暮らそう。アイリ様の側でスローライフ⋯最高。」
そう呟くと、ジーニアは泣く泣くアイリにお別れを言って一旦王都に戻った。
そして諸々の手続きを取って正式にカンザックへと居住を移したのだ。
王都ではかなりの引き止めにあったが、そのまま強引にアイリの専属魔道講師となり、ギルドではお祖父ちゃんと孫のほのぼの光景がよく目にされることになった。
ギルド職員には知らされていたが、冒険者の誰も、あれが元天才魔道士長と呼ばれた男とは気付いていない⋯
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