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第一章 記憶喪失の転生幼女〜ギルドで保護され溺愛される
お勉強します
しおりを挟む大人達の話し合いが終わって、ルークが部屋に戻ってきた。
ミリーナに寄りかかって眠るアイリを穏やかに見つめるミリーナは、傍から見ると本物の姉のようだ。
「ミリーナ、お世話ご苦労だった。アイリは眠ったのか?」
「はい、少し前に⋯。でもそろそろお昼ですし、アイリちゃんも楽しみにしてたので起こさないとですね。」
「⋯⋯」
「お昼食べれなかったら、アイリちゃん悲しむと思いますよ?」
「⋯⋯仕方ない。起こそう。」
眠るアイリを起こす事に葛藤していたルークだが、悲しむアイリは見たくない。
背に腹は替えられぬ。
「アイリ、楽しみにしてたお昼だぞ。食堂で料理人達も待ってるぞ。」
「⋯ふにゅ~?⋯ルークしゃん⋯?」
「あぁ、ほらお昼を食べに行こう。その前に顔を洗っておいで。」
まだ寝起きでぼんやりしているアイリを、ミリーナが抱っこして顔を洗う手伝いをする。漸く目が覚めたアイリは、既にお昼ご飯に意識が向けられていた。
「ルークしゃん、お昼たのしみだね~♪」
ルークに抱えられ食堂に向かい、いつもの場所に座ると厨房から声をかけられた。
「ルークさん、アイリちゃん。そっちに持っていくからそのまま待っててくれ。」
暫く待つと、とても食欲を誘ういい匂いが食堂中に広がった。
くうぅぅ~~~
アイリの可愛い腹の虫が鳴いて、それを聞いた周りの人も釣られてお腹が鳴っている。
お待たせ、とばかりに持ってこられたのは何やらご飯に茶色い液体のかかったものだった。
見た目も色も「大丈夫か?」と聞きたくなるが、先程から食堂に広がっている食欲をそそる匂いはここから発せられている。
中々手を出せないルークの代わりに、アイリは自分用の小皿に盛られたソレをスプーンで掬い、躊躇う事なくパクッと口にした。
「~~!!おいちぃの~!ルークしゃんも、あいっ。」
アイリ用の小さいスプーンであーんされれば、ルークには勿論断る理由などない。
パクッと食べれば、鼻から抜ける香辛料の香りと深みのある味。野菜の甘みも感じられ、今まで食べたことのないものだった。
「あぁ、本当に美味しいな。アイリの分がなくなってしまうから、後は自分のを食べるよ。ありがとう、アイリ。」
アイリのあーんをもっと堪能したかったルークだが、それではアイリのご飯が無くなってしまう⋯名残惜しくも自身の皿から食べだした。
「ん?こっちは少し辛みがあって刺激があるな?」
二人の様子を見ていた料理人ウルドが教えてくれる。
「これは『カレー』と言って、リューン帝国の一部の地域で食べられているもんなんです。今回アイリちゃんがお土産にくれた中に、カレー粉とスパイスがあったから作ってみたんです。甘さも調整できるんで、大人用には少し辛みを足してあるんですよ。」
「そうか⋯確かに、この辛さだとアイリにはちょっと食べ難いだろうな。だが大人には丁度いい。」
そんな二人の会話を聞いていたアイリは不思議そうに尋ねた。
「リューンていこく?」
ここで豆知識。この世界は、一つの大陸を大きく四つの国が分かれて治めており、西のオブザーク王国。南のリューン帝国。北のセイラン王国。東のライオネル公国となっている。
そしてアイリがいた魔の森は、北のセイランから西のオブザーク、南のリューンにかかって広がる大森林なのだ。
その為各国の冒険者ギルドでは、この森での魔獣管理を連携して行っている。その中枢を担っているのが、このカンザックの冒険者ギルドなのだ。以上。
アイリの疑問の声に、ルークは少し考えて答えた。
「あぁ、そうだな⋯折角だからリューン帝国だけじゃなく他の国や人種についても少し勉強してみるか?」
「あいっ、しましゅ。」
こうして美味しい昼食を食べたあとは、ルークと勉強会をすることになった。
余談だが、あの後カレーは冒険者達にも大好評で、直ぐに完売してしまったそう。珍しい調味料なので今後どうやって手に入れるか悩んでいた料理人たちは、シリウスに相談してみた。
「あ、それならきっと大丈夫ですよ。今後ある所から毎月贈られてくると思いますので。」
料理人達は頭に?を浮かべたが、次の仕入れでしっかりとカレー粉とスパイスが届けられた。
後から詳しく聞いてみれば、どうやらルークが「アイリの好物だ」と陛下に手紙を送ったところ、アイリの為ならと定期的に王宮から届けてくれることになったらしい⋯⋯
こうして食堂では週に一回『カレーの日』が設けられた。
それはさておき、部屋に戻ってお勉強だ。
先生はルークとアリシアで、生徒はアイリとミリーナだ。
ミリーナは冒険者として知っていて損はないし、きっとこれからA級に昇格すれば自ずと国外からも指名依頼が入ってくるだろう。女性冒険者で実力もありメイドの技術もあるミリーナは、高位貴族の奥様や令嬢などの護衛にもぴったりなのだ。
「まずはさっき料理人のウルドが言っていたリューン帝国から話そう。この国は周りの地域をどんどん侵略して大きくしていった武力国家だ。だから多種族が暮らす大国だ。」
ルークの最初の講義に、アリシアは溜息をついて呆れた目を向けた。
「ルークさん、初っ端からそれですか⋯。流石にアイリちゃんには難しいですよ。そうですね⋯とりあえず、この国と同じで色んな種類の人達がそれぞれの町で暮らしているんですが、この国よりもその町が多くて、大きな国だと言う事です。」
「あいっ、わかりました!」
「⋯⋯」
「ルークさん、私にはそのままの説明で大丈夫です。」
ちょっぴり落ち込んだ様子のルークをフォローするミリーナ。
「では、ルークさんの説明を私が掻い摘んで、分かりやすくアイリちゃんに伝えていきますね。分からないことは何でも質問して下さい。」
「あいっ、アリシアしぇんしぇ。」
「アイリ⋯俺にも言ってくれ。」
「あいっ、ルークしぇんしぇ。」
アイリのスマイル付きで先生と呼ばれたルークは、口元を手で覆い天を見上げて幸せを噛み締めていた。
「⋯⋯早く続きを始めますよ。」
アリシアとミリーナには呆れた目で見られ、アリシアに続きを催促される。
「ん゛っ⋯⋯えーでは次にこの国、オブザーク王国についてだ。この国も多くの種族が住んでいて、亜人も多く見られる。ここで種族について教えていこう。まずは俺達人族、そして先程言った亜人とは人族と他の種族のハーフを纏めてそう呼ぶ。それからエルフ、ドワーフ、龍人、獣人などがいる。エルフは風と水魔法に特化していて長寿だ。ドワーフは力が強く、地と火の魔法に特化している。獣人は獣型と人型になれるが魔力が少ない者が多い。その分、身体能力に優れている。龍人は身体能力という面では実は獣人に劣るが、魔力が多い。そして身体が丈夫だ。」
ルークの言ったことを、分かりやすくアリシアがアイリに説明している。
それをアイリは一生懸命うんうん、と頷きながら聞いている。
ミリーナもルークの話しに耳を傾け、たまに分からない所は隣のアリシアの話を聞いている。
「⋯続けるぞ。オブザーク王国もリューン帝国も人種差別があまりないから、比較的どの種族にも住みやすい国だ。そして次はセイラン王国だ。この国は獣人達が暮らしていて、国の王もライオンの獣人が務めている。少し前までは閉鎖的だったが、今の王になって外交に力を入れだした。そのお陰で商人の交流も増えて、珍しい食材なども手に入るようになってきたんだ。そして最後にライオネル公国だ。この国はリューン帝国から独立した国で、他種族を受け付けない人族のみが暮らす。特に獣人に対して差別が強いんだ。あまり関わることがない国ではあるが、一応知っておいてくれ。」
それから獣人の種類やそれぞれの国の文化なども簡単に話しを聞き、たまに質問したりして楽しく勉強の時間は過ぎていった。
ルークが「まぁこんな所か?」と話しを纏めた所で、おやつ休憩を挟む。
今日のおやつは、先日王都で食べた揚げドーナツの蜂蜜がけをアイリが気に入り、似たものを作れないか厨房に頼んだ所、早速試しにと作ってくれたものだ。
「キャー!!あのお菓子なのー!」
ほっぺに両手を当てて嬉しさに叫ぶアイリを、皆が微笑ましく見つめている。
幸せそうに一口一口噛み締めるアイリは、後で料理人達にお礼をしたいと、手紙を書く事にした。
アリシアに教えて貰いながら、小さな便箋に見様見真似で同じ文字を書くアイリ。
『いつも、おいしいごはんとおかしを、ありがとう。
アイリ』
この手紙は直ぐに厨房に届けられ、料理人達は泣いて喜んだ。
こうして厨房の一画には、アイリの初めての手紙が写真立てに入れられ、飾られている。
盗難防止魔法を厳重にかけられて⋯⋯
※ ここまでご覧頂きありがとうございます。
先にお伝えをしておきます。今回の設定が今後の展開次第では自分の首を締める可能性がある為、微調整が入るかもしれません。(種族とか⋯魔法設定とか⋯その他諸々)
その時はさらーっと流して見てください。なるべく気を付けます。笑
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