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第一章 記憶喪失の転生幼女〜ギルドで保護され溺愛される
闇魔法
しおりを挟むさて、ジーニアがカンザックに居住を移して来て3ヶ月程経った。
その間、アイリは週に3日は午後から魔法の練習、合間の時間に一般常識の勉強をして過ごした。
勿論、食事と睡眠と遊ぶ時間はきちんと確保し、アイリの体調には細心の注意を払って組まれた教育課程だ。
アイリは既に、水魔法はほぼ習得していた。
今日はジーニアが連れてきた、闇魔法を扱う魔道士との初対面だ。
「アイリ様、アレク殿、ミリーナさん。この子が闇魔法の使い手シークと言います。希少な属性ですので私が王都で保護していたのですが、この度の移住で一緒に連れてくることにしました。手続きの関係でこっちにくるのが遅れてしまいまして、先日やっとこちらに着いたんですよ。今日は早速、闇魔法の扱い方を学んでいきましょう。」
「あいっ。アイリでしゅ。シークしゃん、よろしくおねがいしましゅ!」
アイリはシークと紹介された少年に挨拶をすると、ペコリと頭を下げた。
「⋯ょろしく⋯」
シークはボソリと小さな声で返事をすると、俯いておずおずと隠れてしまった。そんなシークにジーニアは苦笑を浮かべる。
「この通り、シークはちょっと人見知りでしてね。ですが闇魔法の扱いに関しては一流なので安心して大丈夫ですよ。今日はルーク殿がいませんので、私が認識阻害と防音結界を張りましょう。」
そう、今日はいつもアイリと一緒のルークは後見人の手続きの件で王宮に行っているのだ。なので、代わりにアレクとミリーナが付き添っている。
「まずは闇魔法についてですが⋯実はあまり詳しくは解明されていないのです。希少という事もありますが、精神に影響を与える魔法等もあり、人々に忌避されやすいのです。しかし扱い方をきちんと学んで正しく扱えば、怖いものではありません。」
ジーニアはあえて闇属性のデメリットをアイリに伝えた。
これはきちんと知っておかなければ、アイリのように『想い』に大きく力が左右される場合、闇属性は一番厄介だからだ。
「では、まずはシークの『影使い』を見てみましょう。シーク、お願いします。」
「⋯『シャドーウルフ』『シャドーバード』」
シークが呟くと、地面から黒い影の狼と同じく黒い影の鳥が現れた。
影の狼はシークの隣でお座りをし、影の鳥は羽ばたいてシークの肩に止まった。動きはまるで生きている動物みたいだ。
アレクもミリーナも闇魔法は初めて見たらしく、目を丸くして驚いていた。そんな中アイリはと言うと⋯
「シークしゃんしゅごいのー!!ワンワンと、とりしゃんも可愛いー!」
どうやら影で出来た動物に興味津々みたいだ。
「⋯っ!?」
「ね?だから大丈夫だと言っただろう?」
アイリの反応に僅かにたじろぐシークに、ジーニアが優しく話しかける。
シークの両親は、シークに闇属性の魔力があると分かるや否や、シークを捨てた。
「気持ち悪い。こんな子産まなければよかった⋯」最後に母親にそう言われて。
それから人に心を開かなくなったシークを、ジーニアが見つけ出し引き取ることになった。希少な闇属性だった為、当時まだ王宮魔道士長として働いていたジーニアの元に情報が上がっていたのだ。
それから少しずつ心を通わし、魔力コントロールや闇魔法の扱い方を教えていった。
その中でも、シークは『影使い』と名付けた影を操る魔法が得意だった。
想像した生き物を影で創り出し操るというもので、本来の生き物と同じ特徴を活かすことができる。先程の鳥で例えるなら、空を飛ぶことができるので偵察などにはもって来いだ。
今回ジーニアがアイリに闇魔法を見せて欲しいとシークに伝えた時は、母親の言葉を思い出したのかあまり乗り気ではなかった。
また「気持ち悪い」と言われるのではないかと不安になったのかもしれない。
今までも「闇魔法は忌むべきものではない」とジーニアは伝えてきたが、やはり心の奥底では信じきれなかったのだろう。
しかし、アイリから予想外すぎる反応が返ってきて驚くシークに、ジーニアは思わず笑みが溢れた。
アイリとの出会いで、シークにも愛される喜びを感じてほしい。アイリの属性を知る皆からも変わらずに愛されて、のびのびと過ごすアイリは、忌むべき存在か?
すっかりシークの創り出した影の動物に興味を持ったアイリは、狼狽えるシークに更に爆弾を落とした。
「このワンワンたち、しゃわってもいいでしゅか?」
「!!?」
どうしたらいいか分からなくなって、シークは助けを求めるようにジーニアを見上げてきた。
そんなシークの代わりに答えてあげる。
「触っても大丈夫ですよ、アイリ様。」
アイリはそっとシークに近付くと、隣で大人しく座っているワンワン⋯もとい狼の影に触れた。
触られるのが嬉しいのか、尻尾が左右に揺れている。
(本当はシークの気持ちが現れただけなのだが、それは誰にも分からない)
「ふわぁ~ちょっとちゅめたいけど、ふんわりちてるの!」
アイリの様子を見ていたアレクとミリーナも交ざって、一緒に狼や鳥の影に触れてみる。
「わぁっ、確かにアイリちゃんの言った通りね。それに動きも本当に生きてるみたい⋯お手。」
「あっ、おいこの鳥俺の頭の上で寛ぎだしたぞ!?」
それぞれが楽しそうに触れ合う姿に、アイリは自分もシークと同じ魔法をやってみたいと言い出した。
「⋯これ、難しいかも⋯大丈夫?」
心配そうなシークだが、アイリは俄然やる気満々だ。そしてジーニアとシークの教えの元特訓し、夕食前には一匹の影を創り出せるようになっていた。
「わんわんっ!」
アイリが叫んだと同時に小さな影の子犬が地面から現れた。
アイリの元にテトテトっと走ってくると、尻尾をブンブン振って構って欲しそうに見ている。
魔法が成功した事に喜んで影の子犬と戯れるアイリの姿を、皆ほっこりして見ている。
その姿に、シークもローブの陰で自然と口角が上がっていた。
今日の所はここまでとして、また後日シークの闇魔法を見せてもらう事にした。
ジーニアとシークは帰ろうと踵を返したが、そこでアイリが呼び止める。
「ジーニャしゃん、シークしゃんも、よるご飯いっしょにたべよー?」
ギルドの食堂は一般開放されているので、基本誰でも利用する事ができる。
アイリの誘いに否やはないジーニアは、躊躇うシークを連れて一緒に食堂に向かった。
食堂内でも中々フードを取ろうとしないシークに、ジーニアは「大丈夫だよ」と声をかける。
おずおずとフードを取った少年は、黒髪で毛先にかけて赤がグラデーションのように入った綺麗な髪で、瞳はルビーのように赤く煌めいていた。
中性的な顔立ちにまだ幼さを残していたた為、ミリーナよりも年下かもしれない。
見られることに慣れないシークは、俯いてそわそわと落ち着かなそうだったが、今日は週に一度の『カレーの日』だった為、食堂には例のごとくいい匂いが充満していた。
途端に食欲を刺激され、シークのお腹が鳴る。
恥ずかしそうに更に縮こまってしまったが、そこにくぅ~っと小さな音が聞こえ顔を上げると、お腹を押さえるアイリと目があいニコッと笑われた。
シークも釣られて笑ってしまい、久し振りに沢山の人と一緒にご飯を食べた。
「美味しい⋯ですね。」
シークの呟きは、隣で食べていたジーニアにはしっかりと届いていた。
そしてすっかり『カレー』にハマってしまったジーニアに連れられ、度々シークもこの食堂を訪れるようになり、自然と人と一緒に笑いあってご飯を食べれるようになっていた。
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