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第一章 記憶喪失の転生幼女〜ギルドで保護され溺愛される
陛下に会いに行く
しおりを挟むアイリはポカポカ暖かい気配に包まれて目を覚した。
「んみゅ~⋯??」
まだ寝起きで頭も口も動かないアイリは、ぼんやりとその温もりを求めて寝返りを打った。
「ん?アイリ起きたのか?」
ポカポカ暖かい気配は、隣で一緒に寝ていたルークのものだった。
「ルークしゃん?おはよ~ごじゃいましゅ。」
アイリがそう言ってふにゃりと笑うと、ルークは嬉しそうに目尻を下げ、頭を撫でた。
あれからルークは、何かしら理由をつけてはアイリと一緒にいるようになり、遂には「いずれは後見人だ」と言い張り、アイリのお世話を覚えるという名目でギルド内に与えられたアイリの部屋で一緒に生活を始めた。
「今日はこの国の陛下に会いに行く。アイリも一緒に。」
「へいか?」
「あぁ。この国と国民を守る為に一番頑張っている人だ。俺の兄上なんだ。」
「ルークのお兄さんなのっ!?しゅごいね~!!」
アイリはキラキラした目でルークを見つめて、凄い凄いと感心している。
ルークは今まで散々王弟として褒めそやされ相手の下心に嫌気が差していたが、アイリの純粋な賞賛の言葉は素直に嬉しいと感じた。
「じゃあ朝ご飯を食べに行こう。顔を洗って準備しておいで。」
そう言ってベッドから降ろすと、アイリは自分で洗面台へと向かいアイリ専用の踏み台に上り顔を洗って歯磨きをして、簡単な身支度を一人で済ませた。
当初はアリシアが全てお世話をしていたのだが、不慣れなルークが手伝うよりも先に、アイリが一人で出来るように覚える方が早かった。
そして着替えも、頭からすっぽり被るタイプのワンピースならアイリ一人でできてしまう。
何とも手の掛からない子供だった。
その分、他の所でルークはアイリを甘やかすことにした。
「アイリ、これ好きだろう?」
「こっちも食べるか?」
ギルドの食堂では、既に日常になりつつあるルークがアイリを膝抱っこしてご飯を食べさせる光景が広がっていた。
初日は、あれは本当にあのルークなのか?と遠巻きに見ていた冒険者達も、今では生温かい眼差しで見守っている。
「アイリちゃん、おはよー」
「今日も相変わらず可愛いわね~」
ギルドのお姉さん達にも人気のアイリは、モグモグと口の中の物を飲み込むとニッコリ笑って挨拶を返した。
「おはよーごじゃいましゅ。おねえしゃんたちも、今日もきれーなのー。」
どこで覚えたのか、幼女であるアイリは女心を良く分かっていた。ルークにはとても真似出来ない芸当である。
綺麗と言われたギルドのお姉さん達も嬉しそうにしている。
「これ、後でオヤツの時にでも食べてね。」
そう言ってお菓子を渡されれば、アイリも満面の笑みでお礼を伝えた。
賑やかな食事も終えると、今日は王都に向かい陛下に会う為二人はいつもとは違う服に着替えた。
アイリは今日の為に用意された綺麗なドレスに着替え、その着付けはアリシアがしてくれた。
髪型も整えられて可愛らしいピンクのドレスを着たアイリは、正しく妖精かと見間違うほどに愛らしくて可愛かった。
「こんなに可愛くては外に連れ出せない。攫われてしまう。しかし連れて行かなくては⋯いっそ認識阻害の魔法をかけておくか⋯?」
ブツブツと思案顔で呟いているルークにコテン?と首を傾げるアイリ。
アリシアもルークの言動に呆れつつも、アイリの可愛さが危険だという認識は同じだった。
「ルークさん、アイリちゃんには護衛が二人付いてますので少し落ち着いて下さい。でも絶対アイリちゃんから目を離したら駄目ですよ。あと魔法は護衛にも分からなくなるので駄目です!」
今回はアイリもいる為王宮までは馬車に乗って向かうことになり、その護衛に冒険者二人が付くことになっていた。
そして護衛達には、アリシアがくれぐれもアイリを守るよう言い聞かせてあった。
何でも「最強冒険者のルークさんを守る必要ないでしょ」と言うなんともしようがない理由だ。
ルークとアイリの用意もできた所で、今日護衛にあたる二人が紹介された。
リーフグリーンの明るい緑髪に翡翠色の瞳をした、冒険者にしては優しそうな雰囲気のサニアさん。歳はルークよりも若そうだが、兄妹が多くて子供の面倒を見る事に慣れているらしい。
次に言葉遣いがちょっと悪い大柄な男性はアレクさんで、燃えるような真っ赤な髪にオレンジの瞳をしていた。
「アイリでしゅ。サニアしゃん、アレクしゃん。宜しくおねがいしましゅ。」
そう言って、陛下の前で披露する為頑張って覚えた“カーテシー”をしてニコニコと笑うアイリに、ルークも良くできたなと褒めて頭を撫でる。
ルークが溺愛してる噂は聞いていたが、そんな姿を目の当たりにして驚愕する二人。しかしそれ以上に⋯
((て、天使だーーー!!))
白銀に一筋の黒が交じる髪は、今はサイドを綺麗に編み込まれて毛先はふわふわに巻かれていた。
そしてパッチリとした漆黒の瞳にほんのり赤く色付く唇、その全てを際立たせるように濃いめのピンクのレースが重なったドレスを着ている姿は、正にこの世のものとは思えない程に可愛かった。
これは、あのルークさんも溺愛する筈だ。
「アイリちゃん、こちらこそ宜しく。しっかり君を護衛するからね。」
「おう。俺も守ってやるから安心して王都を楽しめよ!」
サニアとアレクはそれぞれアイリに返事をすると、嬉しそうにニッコリ笑うアイリに心臓を鷲掴みにされた。
こうして小さなお姫様の愛らしさに、新たなアイリ信者が増えたのだった⋯
「アイリ、王都には沢山の美味しいものや珍しいものがある。明日帰りに街を見て回るか?」
王都には様々な国からの珍しい食べ物や人気の屋台も多く立ち並ぶため、美食家達も足繁く通う。ルークは特段食事にそこまで拘ってはいなかったが、アイリには美味しいものを沢山食べさせてあげたい欲が湧き上がり、アイリが準備をしている間にギルド職員にオススメの店をいくつか教えてもらっていたのだ。
アイリの体力も考えて、今日は王都に一泊して明日帰る予定だ。
そんな事は知らないアイリは、ルークの言葉に嬉しそうにはにかみながら「楽しみ♪」と満面の笑みで感謝を告げた。
次の日、王都で爆買いをしているルークを街の人が驚愕して見ていたとかなんとか・・・
それはさておき、王都までは単身で馬を走らせれば1時間程で着くが、馬車だとおよそ2時間程かかる。
初めて馬車に乗るアイリは、恐らくこちらも初めて目にするだろう馬に挨拶をしていた。御者が馬の好物であるリンゴをアイリに渡すと、アイリの手から嬉しそうにリンゴを食べる馬にアイリも喜んでいた。
そんな姿を皆温かい目で見守り、いよいよ出発だ。
ルークはアイリを抱いて馬車に乗り、それを前後に挟むようにしてサニアとアレクがそれぞれ馬に乗って警護している。
当のアイリは、普段とは違う景色に興味深そうに窓から外を見ながら楽しそうにはしゃいでいた。途中休憩を挟みながら、朝ギルドのお姉さんから貰ったお菓子を美味しそうに食べて、そのまま順調に馬車は進んだ。
途中ではしゃぎ疲れて寝てしまったアイリを膝に抱いたルークは、その天使の寝顔を満足気に眺めていた。
そうこうしているうちに、馬車は目的地である王宮に着いた。
ルークはこれから兄でもある陛下に会う事に、一抹の不安と気の重さを誤魔化すため眠るアイリの柔らかな頬を撫で、名残り惜しそうにアイリを起こすと抱いて馬車を降りた。
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