記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子

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第一章 記憶喪失の転生幼女〜ギルドで保護され溺愛される

冒険者ギルドで保護します

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ーー翌日。


アリシアが目覚めると、腕の中ではまだアイリが眠っていた。
その穏やかな寝顔を見て、アリシアは何とも言えない気持ちに胸を締め付けられていた。


それは昨夜の入浴を手伝った時の事。
アイリの服を脱がすと、左胸⋯丁度心臓の辺りに大きな傷跡が残っていたのだ。傷はもう治っているが、その部分だけ皮膚の色が新しくなっていた。
魔法による傷でもナイフ等の切り傷とも違うその傷跡は、こんな幼い子供がつけているにはあまりにも不釣合だった。
こんなにも可愛くて愛らしい子が、一体どんな目に合わされていたのか⋯

アリシアはすっかりアイリの母代わりのような気持ちで、この後に控えるシリウスとルークの話し合いにも参加することにした。



「アリシアしゃん、おはよーごじゃいましゅ。」

「アイリちゃん、おはようございます。」

ニコニコ顔で朝の挨拶をすると、昨日ですっかり打ち解けたアイリとアリシアはギルド内の食堂で朝食を一緒に取った。

「わぁ、このパンふわふわしてりゅ。このスープもとってもおいしいでしゅ。」

「ふふっ、ギルドうちは特に料理に拘ってるから何でも美味しいのよ。アイリちゃんも気に入ってくれて良かったわ。」

昨日の夕食でもそうだが、アイリは野菜の好き嫌いもなく何でも食べてくれる。アリシアからしたら、手が掛からな過ぎて逆に心配になる程だ。

「今日はこの後、ギルド長と昨日アイリちゃんを連れてきたルークさんが来るから、そこでアイリちゃんの事少しお話しさせてくれる?アイリちゃんは私が話してて何か思い出したことがあれば教えてね?」

「あいっ」

元気に返事をするアイリを愛しげに見つめると、先程の部屋に戻って時間までアイリを少し休ませる事にした。
その間にアリシアも自身の準備をし、通常業務は今日は他の人に引き継ぎ、アイリに付き添えるようにした。
そうしている間に時間になり、ルークがギルドに現れた。

「ギルド長、失礼致します。ルークさんがお見えになりました。」

「ありがとう。ではアリシアを呼んできて下さい。ルークはこちらにどうぞ。」

ルークは昨日と同じ席につき、どこか落ち着かない様子でアリシアと女の子を待つ。



「ギルド長、ルークさんお待たせしました。彼女の名前はアイリちゃんです。アイリちゃん、あちらがギルド長のシリウスと、こちらに座っているのが貴方を連れてきたルークさんよ。」

アリシアが二人を紹介すると、アイリは真っ先にルークに駆け寄った。

「あなたがルークしゃん?わたちはアイリでしゅ。ここに連れてきてくれてありがとぉ。」

満面の笑みでそう言ってペコリと頭を下げたアイリに、ルークは面食らった様に固まってしまった。
そんなルークの様子に不思議そうに頭を傾げてアイリが見つめると、ほんのり顔を赤らめたルークが慣れない手つきで頭を撫でた。

「元気そうで良かった。どこか怪我したり身体に不調はないか?」

「あい。どこも痛くないし元気でしゅよ。ご飯もいっぱい食べました。おいしかったでしゅ。」

「そうか⋯ここのご飯は美味しいからな。口にあって良かった。」

二人のそんなやり取りを見て、シリウスもアリシアも驚いていた。まずあのルークが、少し照れながらもアイリの頭を撫でたこともそうだが、ルークの問いかけに自然と返すアイリに驚愕していた。

アイリの見た目的にも、恐らくは4~5歳ぐらいだろう。そのくらいの子が調等と言われても、普通は意味が分からないだろう。
アリシアも、幼い子が分かりやすい様に噛み砕いた言い方をしていた為気付かなかったが、恐らく子供相手にこんな風に話すのはルークぐらいだろう。



とりあえず話しを聞くため、テーブルを挟んで向き合う形で片側にシリウスとルーク、もう片側にアリシアとアイリが座った。
ふわふわのソファーにバランスを崩し転がりそうになるアイリを、クッションで挟んで落ち着かせた所で漸く本題に入った。

「ではアリシア、アイリちゃんについて分かったことを教えてください。」

「はい。⋯まずこの子は自分の名前以外、何も覚えていませんでした。以前どこにいたのかも、親や兄妹がいるのかも⋯それどころか、この国の事や魔法や魔獣の存在等、生活していて常識で知り得る事すら何も知りませんでした。」

「まさか⋯記憶がないと言う事ですか?」

「恐らく、私も同じ考えに至りました。それと⋯⋯」

アリシアは少し言葉を濁らせると、チラッとアイリを見つめて言いにくそうに続きを話した。
これは事前にアイリにも話す事を確認していたが、それでも本人に記憶がない以上は憶測でしかない。

「もしかすると、この子は世間から隔離されて育てられていた可能性もあります。それならば外の世界についての知識が無いことも説明がつきます。」

「それは⋯監禁されていたと?」

「分かりません。ですが⋯⋯アイリちゃんの左胸には、大きな傷跡がありました。」

「「っ⋯!?」」

アリシアの言葉に、ルークとシリウスは息を呑んだ。
こんなに幼い子が、どんな理由であろうと跡が残る程の怪我を負わされたというのだ。
そしてそんな傷を負った者は、男であればまだ何とかなるかもしれないが、女の子であれば⋯⋯
嫁ぎ先にも恵まれず、修道院に身を寄せて生活出来ればいい方だろう。
身体に治らない傷を負った者はもれなく「キズモノ」と言われ、殆どの「キズモノ」は、奴隷として売られたり捨てられたりと酷い扱いを受けている。

そう考えると、アイリがあの森に一人でいた事も頷ける。
だが、アイリはそれなりに大切に育てられていたんだろう。体格は年相応であるし、身なりも綺麗にされていた。そして魔獣に襲われないように結界で守られていた。
何かしらの事情があったのか⋯それは分からない。


大人達が悲痛な思いでアイリを見つめると、当の本人は何も知らず貰ったお菓子を美味しそうに食べて、ほっぺたを膨らませていた。
その姿に先程までの悲痛な思いは癒され、同時に三人はこの子の笑顔を守らなければと強く思った。

「アイリちゃんの傷の事は、私達だけの秘密としておきましょう。そしてこのままアイリちゃんは記憶喪失としてこのギルドの保護下に置きたいと思います。成長して独り立ちできる様になったら、その後どうしたいか本人の意思に委ねましょう。」

「私も賛成です。ギルドにいる間は、このまま私が身の回りのお世話をしましょう。それからもう一人お世話係として信頼出来る者をつけますね。」

「俺も出来る限りの事はしよう。そうだな⋯俺がアイリの後見人となれば、変な奴がアイリにちょっかい出す事もないだろう。」

「それは安心ですね。万が一ギルドで対応出来ない相手でも、流石にルーク相手に喧嘩を吹っかけることはしないでしょうし。」


そう、実はこのルーク⋯本名ルーフェスト・オブザークといい、国内外合わせても数人しかいないS級冒険者であり、現在この国の王であるリンカルト・オブザークの実の弟でもある。
王位継承権は手放して一冒険者として生計を立てているが、兄であるリンカルトはかなりのブラコンとして有名だ。
その弟が後見人になったとあれば、必然的にその子も王の庇護がついたと言っても過言ではない。

そしてそんなルークが拠点を置いてるこの冒険者ギルドも、実はかなりの実力者揃いで王も一目置いている。
そんなギルドを纏めるシリウスも、優しそうな見た目に反して実はかなりの切れ者だ。



アイリは、知らず知らずのうちに最強冒険者ルークの庇護と最高の環境ギルドに保護されていた。
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