記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子

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第一章 記憶喪失の転生幼女〜ギルドで保護され溺愛される

記憶喪失の幼女

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『今度はアナタの人生を生きて⋯』



誰かが私に囁く。

聞いたことあるような、どこか懐かしさも感じる優しい声。


貴方は一体誰ーーー?





風が吹き、さわさわと草木が揺れる。
木の隙間から射し込む光が突然翳り、直ぐ近くで誰かの声が聞こえた。
呼び掛けに応えたいけど、瞼が重くて⋯まだ眠っていたい。
温かい手に優しく髪を梳かれたかと思ったら、突然身体が宙に浮き温もりに包まれた。
誰かに抱えられたみたいで、何とか目を開けて確認しようとする私を労るように背中をトントンと宥められ、安心した途端に意識が遠のいていく⋯


「もう大丈夫だ。」

耳に届いた低く甘やかな声を最後に、私は再び意識を手放した⋯。




◇◇◇◇◇◇◇◇


ここはオブザーク王国に近い魔の森の入口近く。

冒険者として数多くの者がこの森で腕を磨くが、突如魔獣が現れなくなったと報告が上がった。
ある一定の魔獣が生息するこの森で全く現れないと言うのもおかしな話で、その原因を調べる為に冒険者であるルークが調査に向かった。

そこでルークは不思議な光景を目にした。


まるでそこだけ時間ときが止まったかのように穏やかな光が差し、幼い女の子を照らしていたのだ。
木の根元に丸まるようにして眠る女の子は、森の妖精を思わせる儚さと愛らしさを持っており、どこか幻想的な姿にルークは息を呑んで一瞬動けなかった。

漸く我に返り女の子に近づくと、そっと覗き込む。微かに寝息を立てており呼吸をしているのが確認できた。どうやら眠っているだけのようだ。

「よかった、寝ているだけか⋯。怪我もなさそうだが、どうしてこんな所に⋯」

ルークはホッと胸を撫で下ろし眠る女の子を見つめ、その珍しい色彩の髪を無意識に梳いていた。
女の子は白銀に一筋の黒が混じった髪色をしており、少し顔に掛かった髪を耳にかけると、まだあどけなさの残る表情には涙の跡が残っていた。

(捨て子か⋯はたまた何処かから逃げてきたのか⋯?)

服装はシンプルなワンピースに靴もきちんと履いている。見た目も汚れてはおらず、白く透き通った肌は何処かの貴族の子と言われても納得いくだろう。
兎にも角にも、こんな所に幼い子供を置いていくわけにはいかない。
ルークはそっと女の子を抱きかかえると、腕の中で女の子の瞼がピクピクと震え始めた。どうやら気配に気付き目を覚ましそうだ。
ルークは背中をあやすように叩くと、安心させる為声をかけた。

「もう大丈夫だ。」

すると落ち着いてきたのか、再び腕の中で寝息を立て始めた女の子を抱えて、ルークはひとまずギルドに戻ることにした。




冒険者ギルドでは、数人の冒険者とギルド職員がルークの帰りを待っていた。
今まで魔の森に魔獣が現れなくなるという事例はなく、何かが起こる前触れなのではないかと皆が不安になっていたのだ。

そこへ漸く調査を終えてルークが戻ってきたと知らせが入り、ギルド長のシリウスは自らルークを出迎えた。

「ルーク、お帰りなさい。お疲れ様でした。私の部屋で報告を聞きましょう。⋯ところで、その抱えているものは⋯?」

シリウスはルークがローブに隠すように抱えているものに気付くと、訝しげに尋ねた。

「あぁ⋯についても纏めて報告をする。」

「わかりました。ではこちらへどうぞ。」


二人がギルド長の執務室へと入ると、念の為ルークは防音の結界魔法をかけた。

「防音結界⋯それ程に重要な案件なのですね?」

シリウスは緊張の面持ちで、ルークからの報告を待つ。

「まず魔の森の異常だが⋯恐らくが関わっていると思われる。」

そう言うと、おもむろにローブを捲り腕の中で眠る幼い女の子を見せた。

「この子が魔の森の入口近くにいたんだが、実はこの子の周りだけ魔物が寄り付かないよう結界がされていた。恐らくその影響で魔物達が森の奥に隠れてしまっていたんだろう。」

「結界ですか!?この子が自分でしたのでしょうか⋯?」

「分からない。俺が見つけた時この子は眠っていて、魔法を行使した様子はなかった。無意識だとしても、こんな幼い子が数日もの間結界を張り続けるのも難しいだろう。誰かがこの子が無事見つかるまで、結界を張って守っていたとも考えられるが⋯」

「一体誰が⋯?」

その問いかけには、ルークも首を横に振るだけだった。

「俺が見つけた時には、近くには誰もいなかった。」

シリウスとルークは、すやすやとあどけなく眠る女の子を見つめ今後の事を話し合った。

「まずはその子が起きてから事情を聞くとして、今日の所はギルドで保護しましょう。魔の森の件は、明日また別の冒険者に確認に行かせます。結界がなくなったのなら、また魔獣が現れるかもしれませんしね。」

「わかった。それと、この子から話しを聞くときは俺も同席していいか?」

「えぇ⋯構いませんが⋯」

シリウスはルークの言葉に驚きを隠せなかった。
と言うのも、ルークは基本一匹狼タイプで人に興味を示さない。
そのルークが、自ら連れてきたとはいえ一番関わりを避けそうな幼い子供に関心を示しているのだ。

「それでは、この子はアリシアに預けて、明日起きてから話しを聞くことにしましょう。」

そう言ってシリウスは女性ギルド員アリシアを呼び、女の子のお世話を任せた。そしてシリウスとルークは一時解散し、明日また話し合うことになった。

「アリシア、この後この子が起きて少し話が聞けそうだったら聞いておいて下さい。あと、様子も後で報告を。」

「分かりました。私も今日は念の為このままギルドに泊まらせて頂きますね。」

アリシアと呼ばれた中年女性はこのギルドに長年勤めており、自身の子供達を立派に成人させた言わば子育てのプロフェッショナルだ。

そんなアリシアによってギルド内の一室に寝かされた女の子は、それから暫くして目を覚ました。
特に暴れたり泣き出す事なくアリシアに保護された経緯を聞かされると、拾ってくれたルークに感謝を伝えた。

「ルークしゃんの抱っこ、温かあったかかったでしゅ。優しい人でしゅね。」

アリシアは普段の寡黙なルークを知っている為何とも言えない表情になったが、確かに女の子を抱いていた姿はどこか大切な物を守ろうとしているようだった。

そして先ずは食事をと、念の為胃に優しいミルク粥を食べさせた。そこから少しずつ話しを聞き、女の子は自分の事をアイリと名乗った。しかし他の事は何も覚えておらず、両親や以前どこにいたのかのみならず、この国のことや魔法や魔獣の存在、ギルドや冒険者等の一般的な事に関しても何も知識がなかったのだ。

(この子はどんな育てられ方をしていたのかしら?こんな常識さえ知らないなんて⋯記憶が無いのもあるかもしれないけど、まさか⋯⋯!?)

アリシアはアイリの状態に胸を痛めながら、親身にお世話をした。
そしてその日はアイリと一緒に眠りについた。
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