上 下
3 / 6

親心

しおりを挟む
深夜になったらお酒に酔った人は家族に家まで運んでもらっていたり、道端で寝てしまっている人もいた。

中にはもう酔ってふらふらなのに飲むのをやめない人もいた。

その人たちは昔から僕を可愛がってくれていた人が多くて、少しだけくすぐったいような感じがした。

まだお酒を飲んでいた人たちに挨拶をして家に帰った僕はお母さんたちと話していた。

「ブラン。本当に勇者になるの?今まで拒否した人はいないというだけで、拒否することはできるのよ?」

お母さんはそう神妙な面持ちで言ってきた。

「何、言ってるの、お母さん。勇者になるのは僕の小さいころからの夢だって知ってるでしょう?」

小さいころから、お母さんに勇者について書かれた本を読んでもらうたびに、勇者になりたいと話していたから、知らないはずがない。

「俺たちはブランには悪いと思っているが、勇者にはなってほしくないとおもっているんだ」

頭を何か固いもので叩かれたような感覚だった。

引っ込み思案だった僕の勇者になりたいという言葉を友人たちは少し馬鹿にしたように「なれるわけがない」と言ってきた。

そんな僕に両親は僕の話を聞いて「ブランは優しい子だからきっとなれる」と言ってくれていた。
なのに、なんで。

「なんで、そんなこと言うの?今まで僕が勇者になりたいって言った時にはきっとなれるって言ってくれてたのに」

「ブラン、私たちはあなたに危険な目にあってほしくないだけなの。あなたの夢を否定するつもりは今までもこれからも無いのよ?でも、」

そこまで言ってお母さんは俯いてしまった。

夢を否定しない?なってほしくないってことは『勇者になりたい』っていう僕の夢を否定しているじゃないか。

お母さんたちは絶対喜んでくれると思ってたのに。

誰よりも喜んで、誰よりも祝福してくれると思ってたのに。

「お母さんやお父さんがなってほしくないって言っても、僕は勇者になるよ。もう決めたんだ」

二人の息をのんだ音と息を詰まらせた音が嫌に鮮明に聞こえてきた。

外でまだ騒いでいる人たちの声のほうが大きいのに。

まるでこの世界には僕たちの三人しかいないかのように、この部屋だけが切り取られた空間かの様に嫌に静かだった。

「どれだけ言われても僕は意志を変える気はないよ。おやすみなさい」

「お休み、ブラン」

いつもよりも暗い声に胸が痛んだ気がした。

でも僕は昔からの夢を叶えたいんだ。

お母さんたちを悲しませてしまうのは僕も悲しいけどせっかく巡ってきたチャンスを手放したくない。

きっと魔王を倒して無事に帰ってくることができればお母さんたちも喜んでくれる。

ぐっと握りしめてしまって詰めの跡が残った少し痛む手のひらをさすりながら部屋に戻った。

それに、もう村のみんなには『勇者になる』って言っちゃったんだ。

今から『やっぱりならない』なんて言えるわけがない。

布団を頭までかぶってぎゅっと目を瞑った。

二人の悲しげな顔が浮かんできてなかなか眠れなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幻想美男子蒐集鑑~夢幻月華の書~

紗吽猫
ファンタジー
ーー さぁ、世界を繋ぐ旅を綴ろう ーー 自称美男子愛好家の主人公オルメカと共に旅する好青年のソロモン。旅の目的はオルメカコレクションー夢幻月下の書に美男子達との召喚契約をすること。美男子の噂を聞きつけてはどんな街でも、時には異世界だって旅して回っている。でもどうやらこの旅、ただの逆ハーレムな旅とはいかないようでー…? 美男子を見付けることのみに特化した心眼を持つ自称美男子愛好家は出逢う美男子達を取り巻く事件を解決し、無事に魔導書を完成させることは出来るのか…!? 時に出逢い、時に闘い、時に事件を解決し… 旅の中で出逢う様々な美男子と取り巻く仲間達との複数世界を旅する物語。 ※この作品はエブリスタでも連載中です。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

死んだと思ったら異世界に

トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。 祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。 だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。 そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。 その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。 20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。 「取り敢えず、この世界を楽しもうか」 この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司
ファンタジー
 目つきが悪く、口も悪いため高校では周りから誤解を受けやすい優月 輪(ゆうづき りん)。  いつもの学校からの帰り、リンは突如出現した穴に吸い込まれてしまう。 訳もわからないまま、吸い込まれた先の異世界で自分と同じ顔の聖剣の英雄と間違えられてしまい──?  目的は聖剣に魔王討伐。  苦難や葛藤、そして様々な経験をしながら、リンは元の世界への帰還を目指す。

処理中です...