勇者は称号で職業ではありません!

水月架奈

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オリバの森

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 城壁からタイルというかレンガみたいなもので舗装された道を少しそれて左手の方角に向かえばそこそこ広い森があった。
 確かオリバの森だっけ?そう思い浮かべると何故かよく分からないが鑑定さんが仕事をした。

▷▷▷オリバの森
   オリーブの木が生い茂る森
   川縁や開けた場所には薬草も分布して
   いる

 ……って、まんまじゃん。
 新芽が生え揃うオリーブらしき木を見るとこれまた鑑定さんが発動。

▷▷▷オリーブの木
   新芽が伸びあとひと月もすれば開花す
   る

 確かさっき露天商でもオリーブの実の塩漬けやワイン漬けが売っていたなと思い出す。
 あ、薬草だ。

▷▷▷ルミエ草
   HPポーションの材料

▷▷▷マナグラス
   MPポーションの材料
   ※根ごと採取が必要

 これはパッシブなのかという程の仕事っぷり……

「あ、ちょっと待ってて下さい」

 小走りに木陰に向かう一ノ瀬さん。トイ……お花詰みってやつか?とか思っていたら、すぐさまくるりと反転して帰って来た。よく分からん。

「入谷くん……そこに座って絶対動かないで下さい」

 それから森の中を歩いて腰掛けられるような切り株のある少し開けた場所に辿り着くと、そこに座るように指示する一ノ瀬さんの有無を言わさぬ口調に俺は大人しく従ってしまう。何ていう体たらくだ。え?ヘタレっぷりがひどい?世の中の大半のモブは美少女の微笑みスマイルに逆らえないんだ、仕方ないだろ。

 買ってきた布地と針金みたいなものであっという間に子供が家で散髪する時に使うような物を簡易的に作成した一ノ瀬さんは、それを俺にすっぽり被せ──マジックテープなんてないから──首元の布を結ぶと、切れ味の良さそうなはさみでジャキンと俺の長すぎる前髪を目のラインあたりで断ち切った。ぱらりと髪の毛が布に広がる。
 その後は前髪を持ち上げたりしながら縦にはさみを入れ横の髪も長い襟足も器用に整えていく。

「出来ましたよ」

「……おぉ、すげぇ」

 写りは日本製と比べるとそんなに良くないけれど、手渡された手鏡と背後で広げられた鏡──三面鏡とかいう三方から姿を見るものらしい──で、整えられた髪型を見ると色彩は違うもののエタブレではお馴染みのの俺が写っていた。…………ゲームはキャラメイクした時のまんま髪の毛なんて伸びないからな。現実では伸びっぱなしでボサボサになっていた俺の髪の毛は一ノ瀬さんの手によってスッキリした。

「入谷くん、次は私の髪の毛を切ります」

「へ?俺髪なんて切れないよ」

「そのための三面鏡です。後ろで鏡を持っていて下さい」

 腰まである艶やかな髪をサイドが少し長めの肩口で切りそろえる。

「…………器用だなぁ」

「さてと、カラーチェンジのアイテムは持っていますか?」

 ???
 からーちぇんじのあいてむ?
 一ノ瀬さんをよくよく見ると、どこかで見た事があるような、色彩は違うもののその面影は…………

「セイ……なのか……?」

「漸く気づきましたの?イリヤ様」

 そして、まったく気付くのが遅いんですから……と、ちょっと拗ねた口調でポソリと呟く。

 次の瞬間、濡れ羽色の黒は青みがかった銀の髪に、そして灰紫の瞳は一ノ瀬聖良の名残を見せつつも紫水晶の瞳に…………
 俺の目の前にはエタブレの課金アイテムを使い、カラーチェンジをしたパーティーメンバーであるセイがいた。










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