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最終章 それぞれの道
005 先生
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アリアは心からルーシャに謝罪した。
レイスの近くにいることが気に入らず、身体を壊させてシェリクス領へ送り返したかったのだと告白し何度も頭を下げた。
アリアの想いはヒスイやリックにも伝わった。
しかし、はいそうですかで終われる話ではない。
アリアに聞きたい話があるのだ。
「ところで、先ほど先生と言っていましたが、それは誰のことですか?」
「皆から先生と呼ばれていて、名前は知りません。先生の講座は紹介制で、私も知り合いから誘われました。先生は薬草やハーブに詳しい方で、私や他の婦人達の悩み事も聞いてくださって、心に寄り添って処方をしてくださるんです」
「アリア様にはどんな処方を?」
「私は……主人の義妹の存在に悩んでいることを話しました。先生は義妹は主人に頼りすぎだって慰めてくださいました。それから、特別講座に招待してくださって、このアロマをくださったのです」
「これで、どうなる手はずだったんですか?」
アリアはテーブルの上の白い粒に視線を落とし、怖くなってレイスの手をギュッと握り返した。
「アリア。君はその先生に唆されていたのかもしれない。大丈夫だから、話してごらん」
「は、はい。……これをひと月も使えば、身体を弱らせることができると。それで、弱らせた相手に呪術を使えば、普段の何倍も効くって……自分の思い通りに、相手の生死をコントロール出来るだろうって」
ヒスイとリックはお互い顔を見合わせ頷き合った。
レイスは目を見開きアリアに詰め寄る。
「アリア。それはまさか、王都で起きていた病は──」
「わ、私はそんなことしてないわよ。実は、最近分かったの。王都で流行っていた病は、これが原因なのではないかって。お亡くなりになった方のご家族が、あの講座に参加されていたと聞いて……」
ヒスイは動揺するアリアに率直に質問した。
「その先生とはどんな方ですか?」
「とても美しい金色の髪の女性です。仮面を付けているので顔はわかりません。いつもお付きの騎士の方がいらっしゃって、その人はクレスと呼ばれていたと思います」
「クレスってことは……」
リックの頬に笑みが浮かぶ。
嘘泣きも芝居ももうすっかり忘れていた。
「アリスさんですね。──レイス様。その女性に心当たりがあります。王都に住んでいるのですが、教会で週に一度講義をしている女性です。探しだして捕まえてください」
「分かった。すぐに手配しよう」
レイスが立ち上がると、アリアは袖を掴み引き止めた。
「待って。先生はもう王都にいらっしゃらないと思います。先日お会いした時におっしゃっていました。この国で新しい力が芽生えると。その力を借りれば更に強力な力で私たちを導くことが出来るのだと。しばらくここを留守にするけれど、信じて待っていて欲しいと、おっしゃっていました」
「新しい力とは何のことだろうか。陛下に国内全域を捜索するように進言してこよう」
ヒスイの瞳に鋭い光が宿り、リックに緊張が走った。レイスは眉間にシワを寄せるも見当がつかず、行動へ移すことを選んだ。
◇◇◇◇
レイスの屋敷を出た後、三人は今後の事について話し合った。ルーシャが見守る中、ヒスイとリックはどんどん話を進めていく。
「前回ルーシャに呪いをかけたのはアリア様が最有力候補でした。ですが、全て明るみになり謝罪してくださったので、彼女はもう何もしないでしょう。もし他の線があったとしても、リック君がくれたネックレスがあるので、その辺は大丈夫でしょう」
「ですね。ただアリア様の話からヤバいことが分かりました。アリス=オースルンドが誓約を破る方法を見つけ、それがもうすぐ成就しそうだってことです。多分ですけど、守護竜の力を借りようとしているんだと思います。衰退している今代の守護竜ではなく、次の代の守護竜の力を」
「アリスが捕まればいいのですが」
「レイス様なら陛下の力を借りられるだろうし、時間の問題じゃないか?」
「でも、そんなに簡単に陛下の力なんて借りられるのかしら。王様ってこの国で一番偉い方でしょう?」
やっと話に入れたと思ったルーシャだが、二人から微妙な視線を向けられた。言っては不味いことだったのだろうか。
「ルーシャも会ったことあるだろ。陛下に」
「えっ? お城へは転移陣で行ったことがあるけれど、陛下になんてお会いしたことがないわ」
「あ。知らないのか。さっきもいただろ。店の前に。食パン一杯買い込んでた黒いローブの怪しいおっさん」
「それってヘイゼルさん?」
そこまで言っても首をかしげるルーシャに、リックは呆れつつも教えて上げた。
「それ偽名。ルーシャ、鈍いな」
「偽名? ぇ、ええっ!? ヒスイも知らなかったわよね?」
「知ってましたよ。今この国を誰が治めているかぐらい一般常識ですから」
涼しい顔でそう告げるヒスイにルーシャは言葉を失った。確か、初めてヘイゼルと出会った時、ヒスイはヘイゼルを猫みたいに捕まえていた。
その後も何度も何度も。
不敬罪で捕まったりしないだろうか。
「ルーシャ。取り敢えず帰りますよ。カルロさんも待たせてますから」
「そ、そうね。分かったわ」
それから、リックとブランジェさん家に戻り、レイスの知らせを待つことにした。
ルーシャ達を送ると、リックは一度実家に帰ると言って王都に引き返していった。
レイスの近くにいることが気に入らず、身体を壊させてシェリクス領へ送り返したかったのだと告白し何度も頭を下げた。
アリアの想いはヒスイやリックにも伝わった。
しかし、はいそうですかで終われる話ではない。
アリアに聞きたい話があるのだ。
「ところで、先ほど先生と言っていましたが、それは誰のことですか?」
「皆から先生と呼ばれていて、名前は知りません。先生の講座は紹介制で、私も知り合いから誘われました。先生は薬草やハーブに詳しい方で、私や他の婦人達の悩み事も聞いてくださって、心に寄り添って処方をしてくださるんです」
「アリア様にはどんな処方を?」
「私は……主人の義妹の存在に悩んでいることを話しました。先生は義妹は主人に頼りすぎだって慰めてくださいました。それから、特別講座に招待してくださって、このアロマをくださったのです」
「これで、どうなる手はずだったんですか?」
アリアはテーブルの上の白い粒に視線を落とし、怖くなってレイスの手をギュッと握り返した。
「アリア。君はその先生に唆されていたのかもしれない。大丈夫だから、話してごらん」
「は、はい。……これをひと月も使えば、身体を弱らせることができると。それで、弱らせた相手に呪術を使えば、普段の何倍も効くって……自分の思い通りに、相手の生死をコントロール出来るだろうって」
ヒスイとリックはお互い顔を見合わせ頷き合った。
レイスは目を見開きアリアに詰め寄る。
「アリア。それはまさか、王都で起きていた病は──」
「わ、私はそんなことしてないわよ。実は、最近分かったの。王都で流行っていた病は、これが原因なのではないかって。お亡くなりになった方のご家族が、あの講座に参加されていたと聞いて……」
ヒスイは動揺するアリアに率直に質問した。
「その先生とはどんな方ですか?」
「とても美しい金色の髪の女性です。仮面を付けているので顔はわかりません。いつもお付きの騎士の方がいらっしゃって、その人はクレスと呼ばれていたと思います」
「クレスってことは……」
リックの頬に笑みが浮かぶ。
嘘泣きも芝居ももうすっかり忘れていた。
「アリスさんですね。──レイス様。その女性に心当たりがあります。王都に住んでいるのですが、教会で週に一度講義をしている女性です。探しだして捕まえてください」
「分かった。すぐに手配しよう」
レイスが立ち上がると、アリアは袖を掴み引き止めた。
「待って。先生はもう王都にいらっしゃらないと思います。先日お会いした時におっしゃっていました。この国で新しい力が芽生えると。その力を借りれば更に強力な力で私たちを導くことが出来るのだと。しばらくここを留守にするけれど、信じて待っていて欲しいと、おっしゃっていました」
「新しい力とは何のことだろうか。陛下に国内全域を捜索するように進言してこよう」
ヒスイの瞳に鋭い光が宿り、リックに緊張が走った。レイスは眉間にシワを寄せるも見当がつかず、行動へ移すことを選んだ。
◇◇◇◇
レイスの屋敷を出た後、三人は今後の事について話し合った。ルーシャが見守る中、ヒスイとリックはどんどん話を進めていく。
「前回ルーシャに呪いをかけたのはアリア様が最有力候補でした。ですが、全て明るみになり謝罪してくださったので、彼女はもう何もしないでしょう。もし他の線があったとしても、リック君がくれたネックレスがあるので、その辺は大丈夫でしょう」
「ですね。ただアリア様の話からヤバいことが分かりました。アリス=オースルンドが誓約を破る方法を見つけ、それがもうすぐ成就しそうだってことです。多分ですけど、守護竜の力を借りようとしているんだと思います。衰退している今代の守護竜ではなく、次の代の守護竜の力を」
「アリスが捕まればいいのですが」
「レイス様なら陛下の力を借りられるだろうし、時間の問題じゃないか?」
「でも、そんなに簡単に陛下の力なんて借りられるのかしら。王様ってこの国で一番偉い方でしょう?」
やっと話に入れたと思ったルーシャだが、二人から微妙な視線を向けられた。言っては不味いことだったのだろうか。
「ルーシャも会ったことあるだろ。陛下に」
「えっ? お城へは転移陣で行ったことがあるけれど、陛下になんてお会いしたことがないわ」
「あ。知らないのか。さっきもいただろ。店の前に。食パン一杯買い込んでた黒いローブの怪しいおっさん」
「それってヘイゼルさん?」
そこまで言っても首をかしげるルーシャに、リックは呆れつつも教えて上げた。
「それ偽名。ルーシャ、鈍いな」
「偽名? ぇ、ええっ!? ヒスイも知らなかったわよね?」
「知ってましたよ。今この国を誰が治めているかぐらい一般常識ですから」
涼しい顔でそう告げるヒスイにルーシャは言葉を失った。確か、初めてヘイゼルと出会った時、ヒスイはヘイゼルを猫みたいに捕まえていた。
その後も何度も何度も。
不敬罪で捕まったりしないだろうか。
「ルーシャ。取り敢えず帰りますよ。カルロさんも待たせてますから」
「そ、そうね。分かったわ」
それから、リックとブランジェさん家に戻り、レイスの知らせを待つことにした。
ルーシャ達を送ると、リックは一度実家に帰ると言って王都に引き返していった。
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