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最終章 それぞれの道

003 返り討ちに

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「え? アリスさんは光の巫女の力を持っていて、お姫様なんじゃないの?」
「それはまぁそうなんだけど、あのアリスって人は、人を呪い殺そうとして、国から追放されたお姫様なんだ。オレの母さんの弟とその奥さんがアリス姫の力を誓約で縛って、人を呪うことと入国を魔法で禁じたらしい」
「そんな。アリスさんはいい人よ。ミールさんが倒れた時も助けてくれたし、このロウソクだってくれたのよ」

 リックはロウソクを手に取ると真っ二つにそれをへし折った。ヒスイもロウソクを凝視し、二人とも真剣な表情で顔を見合わせている。

「これは普通のロウソクだな。良かった」
「そうですね。関係しているかは分かりませんが、注意が必要ですね」
「普通のって……二人ともどうしたの?」
「もしかしたら毒でも入ってるんじゃないかって思ったんだよ。今は呪いの力は使えない筈だけど……。あの人何してる人? 教会の講師って何教えてるんだよ」

 リックはロウソクをシュヴァルツの口に放り込むと、ヒスイとルーシャに交互に目を向けた。

「それは聞いたことがないわ。お従兄様なら調べられると思うけど」
「じゃあ、レイス様に会いに行こう。別件でも用があるから」
「分かったわ。でも、アリスさんはどうしてリックに名乗ったりしたの? 国の人に追われるかもしれないんじゃ」

 リックは髪をかき上げ、溜め息交じりに窓の外へと視線を伸ばした。

「多分だけど……宣戦布告かな。自分の力を奪った奴の血縁者を人質に取ったぞって」
「人質?」
「ああ。さっきアリスに髪の毛取られたかも。相手の名前と身体の一部があれば、呪いを行使することができる。叔父さんの誓約は強力だけど、もし解かれているとすれば……オレの命をすぐ奪えるってこと」
「そ、そんな。どうにかして防げないの!?」
「これがあるから。でも、何度もかけられたら……耐えられないかも」

 リックは笑い話のようにネックレス片手に説明したが、その瞳は不安と自信が入り雑じり、ルーシャには強がっているように見えた。

「リック。国へ帰ったら? そのアリスさんと誓約をした叔父さんに助けを求めた方がいいわ」
「叔父さん忙しいしなぁ」
「じゃあ。魔法使いのお母さんは?」
「妹の世話があるし」
「なんでそんな悠長なこと言ってるのよ! 命が狙われてるんでしょ」

 冗談っぽく即答していたリックはルーシャの怒声に一瞬だけ言葉を詰まらせるが、直ぐにはにかんだ笑顔を見せた。

「そうだけど、まだオレひとりでも対処できる状況だなって。まぁ、正確には一人じゃないしな。ヒスイ殿もいるし、オレの為に本気で怒ってくれる同盟員もいる。さっきアリスと遭遇した時はちょっと焦ったけど、もう平気だ。むしろ返り討ちにしてやるよ!」

 ギラギラと瞳を輝かせるリックは、ドラゴンに会いに行く時と同じ目をしていた。

 ◇◇◇◇

 夕食はとても豪華でロイとミールが奮発してローストビーフやステーキ、それからグラタンなどなど、食べきれないほど用意してくれた。
 食事はもちろんリックの分も用意され、カルロは上機嫌でみんなのお酌までしてくれていた。

「明日は王都へパンを売りに行く日ですよね。リックが王都へ戻るついでに幌馬車で送ってくれるそうなので、お言葉に甘えようかと思っています」
「それはありがたいな。だが、少し休んでも良いんだぞ。今日帰ってきたばかりなんだからな」

 当たり前のように帰ってきたという言葉を使うロイに、ルーシャは胸がジンとした。

「ロイさん。ありがとうございます。実は従兄に相談したいことがありまして」
「それなら仕方ないわね。気をつけて行ってきてね」
「俺が店番しとくから、適当に会いに行ってこいよ」
「ありがとうございます」

 ブランジェさん家の人々の温かさに触れ、三人は許容範囲を越える程にお腹を満たし部屋へ戻った。

 リックにはルーシャの部屋を貸してあげた。
 アリスのことが気になるが、リックはすっかりいつも通りに戻っていた。意地を張っているようにも見えないし、ルーシャの知らない秘密の便利アイテムでも思い出したのかもしれない。

 いつもの二段ベッドの上に寝転び身体を伸ばす。
 下からはヒスイの寝息が規則正しく聞こえてくる。

 ここでの生活も大分慣れた。お帰りと言われることが心地よくて、ずっとずっとここで暮らせたらいいのにと思う。

 しかし、偽装婚約は破棄したし、レイスが見合い話を持ってきてもおかしくはない。お見合い、結婚、そんな言葉ばかり考えていたら、ヒスイの顔が浮かんできた。
 ルーシャがこの先ずっと一緒にいたいのはヒスイだ。

 でも、ヒスイはどうするつもりだろう。
 ルーシャが守護竜の花嫁になることを決意した時、ヒスイも守護竜になりたいと思ったと言っていたが、あれは結局どういう意味だったのだろう。
 勘違いだと嫌で、心臓がもう持たなそうではぐらかしてしまったけれど、あれは──。


 

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