婚約者に騙されて守護竜の花嫁(生贄)にされたので、嫌なことは嫌と言うことにしました

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第五章 守護竜の花嫁

006 シェリクス家

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 シェリクス家に着くと応接室に通された。
 ヒスイとリックをそこに残し、ルーシャはテオドアに案内されクラウディアの部屋を訪ねた。

「ルーシャ様ぁ!?」

 クラウディアはルーシャに泣きながら抱きついた。
 目は真っ赤に腫れ、ずっと泣いていたようだ。

「クラウディア様。ご心配をおかけしてしまいましたね。申し訳ありません」
「無事で良かったですわ。お兄様がグズグズしてるから。でも、これでお兄様のこと、少しは見直して下さった?」
「へ?」
「だって、お兄様がルーシャ様を助けてくださったのでしょう? 今日からルーシャお姉様って呼んでもいいかしら?」
「それはちょっと……困ります」

 テオドアに目をやるも、扉の前で腕を組みずっと下を向いていた。クラウディアに会わせる顔がないのだろう。

「ルーシャ様、何故お困りになるのか教えていただけますか?」

 ルーシャはちょっと嘘も織り混ぜながら、簡潔にここまで来た成り行きを説明した。

 ヒスイがドラゴンに拐われ、それは守護竜の悪戯だったことにして、リックと二人で迎えに行き、竜谷から戻った後、テオドアと合流したことを。
 それから、守護竜の花嫁の儀式は既に終わり、テオドアとの婚約はもう解消したことを説明した。

 クラウディアは話を聞くと酷く落ち込み、テオドアを愚図と罵ると部屋から追い出してしまった。

「でも、どうして婚約を解消してしまうの? 今回もお兄様は何の役にも立たなかったかもしれませんけど、ルーシャ様を守護竜の花嫁にしないで済むように、毎日毎日、苦悩していらっしゃったのよ」
「それは、感謝しております。ですが、シェリクス家から守護竜の花嫁を輩出するために私を婚約者に選び、生贄にしたら私は役目を終えて、家柄のよい別のご令嬢をお招きする予定でしょうから、解消するのが筋ですよね」

 クラウディアは頭を抱えたまま暫く黙り込むと、ルーシャに視線を戻した。

「……ごめんなさい。こんな最低な男共しかいない公爵家に嫁ぐなんて嫌ですわよね。しかも、お兄様のこと……」
「お慕いしておりません」
「ですわよね。よし、もうこの話はおしまい。お兄様なんてどうでもいいですわ! ルーシャ様の手助けをして下さったそのリックさんと、ヒスイさんにご馳走しますわ」
「ありがとうございます。クラウディア様」

 ◇◇◇◇

 その後、クラウディアとルーシャ、それからヒスイとリックでランチをいただいた。
 クラウディアの配慮でテオドアは排除され、ルーシャも、そしてテオドアも顔を会わせ辛かったので良かったと思う。

 リックはこれはチャンスだと思ったのか、自分が商人であることを物凄くアピールしていた。クラウディアはリックに話しかけられる度に、終始困った顔をしていたが、リックは負けじと口説き続けた。
 その甲斐もあって、リックはシェリクス領への通商許可証を発行してもらっていた。


 食事を終えると、クラウディアはこっそりルーシャを部屋の隅に招いた。

「ルーシャ様。あのリックという方は……」
「ごめんなさい。仕事熱心な上に、ドラゴンが大好きでね。どうしてもシェリクス領に通いたいのだと思うわ。嫌な思いをさせてしまったわね」
「い、嫌だなんて! どうしてルーシャ様の周りには私好みのイケメンばかり集まるのかしら」
「はい?」

 クラウディアは頬を紅く染め、ルーシャ越しにリックを視界に入れると気持ちを吐露した。

「だって、ヒスイさんだって素敵だし。リックさんなんて可愛すぎるの!」
「そう……ですか?」
「見て。琥珀色の瞳と紅い瞳が印象的なのにタレ目で可愛いの。気さくで頭の回転が早くて、それに異国の商人兼魔法使いだなんて凄いじゃない! も、もしかして。本当は何処かの国の王子様だったりして。ね、ルーシャ様?」
「さぁ? それはないと思いますけど」
「まさか。母国に彼女がいるの!?」
「あ、それはないと思います」

 ルーシャはキッパリ否定した。
 リックは母親一筋だ。口には出せないけれど。

「ルーシャ様。リックさんがシェリクス領へいらした際は、必ず私のところに寄るように伝えておいて下さいね!」
「はい。承知いたしました」

 ◇◇◇◇

 幌馬車に乗り込み馬車が出発すると、ルーシャはさっそくクラウディアのことをリックに話した。

「クラウディア様がね、リックのこと、とっても気に入って下さったみたいなの。だから、シェリクス領に来たら絶対にクラウディア様のところに顔を出してあげれてね」
「流石ルーシャ。宣伝どうも~。色んな商品取り揃えてお伺いしますよ~」

 リックはご機嫌で手綱を握るが、ルーシャの意図とはずれた解釈をしている。それでも良いかなと思っていたが、ヒスイが口を挟んだ。

「クラウディア様が欲しいのは、珍しい商品ではなくて、それを運ぶリックと過ごす時間の方だと思いますよ」 
「な、何言ってるんですかヒスイ殿~」
「歳も近くていいんじゃないかしら?」
「またまた~。ってマジで言ってます!?」

 リックは振り向き、何度も頷く二人を見るとすぐに前へ顔を戻した。

 それ以降なにも話さなくなったが、シュヴァルツがずっと尻尾を振っているので、多分喜んでいるのだと思う。
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