婚約者に騙されて守護竜の花嫁(生贄)にされたので、嫌なことは嫌と言うことにしました

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第三章 ブランジェさん家

013 お見合いしないか?

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 翌朝、カルロは朝食をロイと同じ時間に起き、ルーシャの願い通りパンを焼いた。

 一ヶ月以上も探し続けた幻のキノコをふんだんに使って出来上がったのは、『トリュフのグラタンパン』だ。

 フワフワのパンの真ん中にグラタンがあって、その上に薄く切った黒い物が乗っているのだが、それが香りのよいトリュフというキノコらしい。

「さぁ、食え。そして俺に惚れろ」
「馬鹿孫が……」

 ロイは悪態をついた後、パンを口に運び、言葉を失った。皆も続いてパンを口へ。

「美味しい! 何かしらこの香り」
「それが高級食材のトリュフだ。どうだ。最高だろ?」
「カルロ。ひとついくらするのかしら?」
「んー。金貨一枚だな」
「ええっ! そんなの誰も買いませんよ。高すぎます!」
「カルロ。因みにこのキノコは今後どうやって仕入れるのだ?」
「んー。商人に頼むと倍の料金がかかっちまうから、俺が採りに行くしかないかな。また一ヶ月ぐらい出ることになる。従業員増えたし良いだろ?」

 ロイは頭を抱えてプルプル震え出すと、テーブルを思い切り叩きぶちギレた。

「そんなに店を空けておいて言い訳ないだろうが! それに、こんな物売れん!」
「はぁ!? 今は皆、高級志向なんだよ! 明日王都で売ってくるから首洗って待っとけよ!」

 そんな啖呵を切って、カルロは翌日王都へパンを売りに行ったのだが、結果は散々だった。

 夕方帰宅し、店の喫茶スペースで独りグラタンパンを食べるおじさんの背中は哀愁が漂っていて、見ていられない。
 みんな口を揃えて放っておけばいいと言うが、ルーシャは声をかけずにいられなかった。

「カルロさん。私もグラタンパンをいただいてもいいですか?」
「……ん」
「美味しいです。値段が高くて売り物にはなりませんが、味は最高です」
「最後の一言だけでいいだろ。余計なことばっか付け加えるな」
「カルロさんだって、余計なことばっかり言うじゃないですか。店なんか潰れてしまえって言ったり、惚れろとか言ったり」
「それは余計なことじゃない。本心だ。──ルーシャ。お見合いしないか? 俺と」
「しません。結果は見えているので」
「それって……俺の嫁になるってことか?」
「へっ?」

 ルーシャが呆れてカルロに目を向けると、カルロは夕日を見ながら頬を赤はく染めていた。
 レイスが初めてアリアを紹介した時と同じ顔だ。
 あれだけ惚れろとか言っておいてシャイなのかと思うと、かける言葉が見つからない。

「ルーシャが、そこまで言うならいいぞ。嫁にもらってやるよ」
「私、何も言ってません。このお店に嫁ぐことは嫌ではないですが、カルロさんのお嫁さんは嫌です」 
「は?」 
「だから、嫌だって言ってるんです! カルロさんは口が悪いし強引だし、すぐ怒ります。私はそういう方は苦手です。──で、でも。本当はお店を大事に思ってるところとか、パンを作ることに関しては熱心で素敵だなって思います」
「は? 結局なんなんだ? 俺と結婚するってことか?」

 カルロは立ち上がり大声で聞き返すと、後ろで聞いていたヒスイが割って入った。

「あー!! そんな訳ないじゃないですか。横で聞いていたんですけど、カルロさんって馬鹿ですか? 馬鹿ですよね。ちゃんと聞いてましたか? パン職人としては素敵ですけど、男性としては生理的に無理って言ってるんですよ!」

 ヒスイがそう怒鳴ると、後ろでミールが笑いだした。お腹を押さえて肩をひくつかせている。

「ひ、ヒスイ君ったら。そんなにハッキリ言ったら、カルロがちょっと……可愛そうじゃない」
「ミル婆。そんな笑いながら言うなよ。あんたの孫、これ以上無いぐらい悪く言われてんだぞ」
「いいじゃない。パン職人としては素敵って言われたのだから。男性として、ちょっとアレな事は、お嫁さんが来ない段階で分かってたことじゃない」
「…………」

 カルロは絶句した。ヒスイが顔の前で手をヒラヒラさせても瞬きすらしない。放心状態だ。

「ああ。これは駄目ですね。やっと気付いたみたいですね。お店のせいでお嫁さんが来ないんじゃなくて、自分の性格のせいだってことに」

 ヒスイの要約を聞くと、カルロは肩を落とし無言のまま離れの自分の部屋へ帰っていった。

「大丈夫かしら?」
「放っとけ。明日になったらケロッとしてパンをやいてるから」

 ロイもミールも朗らかに笑っていた。カルロのことは二人の方が良く知っているのだか、きっと大丈夫だろう。

 ◇◇◇◇

 その夜。カルロはルーシャの部屋の前でぐるぐると何周も行ったり来たりした後、頭を盛大にかきむしると、足を止め扉をノックした。

「夜に悪い。今日は……っていうか。今まですまなかった。もう汚い言葉も気を付けるし、すぐ怒ったりもしない。だから……。──か、顔を見て話してもいいか? あ、開けるぞ!?」

 カルロは返事を待てずに扉を勢い良く開いた。
 暗い室内。清潔なベッド。ここにいた痕跡すらない。

「ん? なぜいない?」

 自分があんなことを言ったからルーシャは出ていったのかもしれない。焦ったカルロは、隣のヒスイの部屋へ走り、ノックもせずに扉を開いた。

「おい! ルーシャがいな──いた」

 カルロは二段ベッドの上段で眠るルーシャを発見した。ヒスイかと思ってシーツを引き剥がし起こそうとしたのだが、そこで寝ているのはルーシャだった。




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