婚約者に騙されて守護竜の花嫁(生贄)にされたので、嫌なことは嫌と言うことにしました

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第二章 王都への道

001 一定の距離感

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 ルーシャ達は昼食をとる為に馬車を止め、小さなテーブルを三人で囲んでいる。ルーシャは鼻歌交じりに昼食を用意する赤髪の少年に目を向けた。

 彼の父親は宝石店を営んでいて、母国ではとても名の知れた商人だそうだ。
 それから母親は生粋の魔法使いで、大人から子供まで幅広い年齢の女性の悩みを聞き、手助けしてあげているらしい。
 そして家族はもう一人。年の離れた妹はまだ幼く天使のように可愛いという。

 ちなみに、リック自身はこちらの国に来てまだ半年足らずの、駆け出しの新米イケメン行商人だと言っていた。欲しい物があれば、宝石以外でも何でもご相談あれ、とのことだ。

 嫌いな物は特に無く、好きな物は生き物全般。
 そして何よりも愛してやまないのはドラゴンなのだという。

 何故こんなにも詳しく知っているのかというと、リックがとてもお喋りな少年だったからだ。

「自分の事をさらけ出して親近感を与え、相手の情報を得ようとしているのかもしれません。気を付けましょう」

 ヒスイがルーシャに小声でそう伝えたが、それはリックには丸聞こえだった。

「あ、バレちゃいましたか~。いやいや。お二人はドラゴンの事を御存じのようだったので、お近づきになりたいなぁ。なんて。下心を持ってます~!」

 堂々と下心を発表され、ルーシャとヒスイは顔を見合わせて笑い、言葉を発すると気づかれてしまいそうなので、ルーシャはヒスイに答えるように目で訴えかけた。

「伝承で聞いただけですよ」
「そうなんですか。残念ですね。気が向いたらまた教えてください!」

 ヒスイははぐらかすことを選んだが、リックはそれをどう捉えたかは定かではない。


 そんなこんなで互いに一定の距離感を保ちつつ、三人は仲良く小さなテーブルを囲み、昼食のサンドイッチにかぶりついていた。

 サンドイッチはリックが肌身離さず肩から掛けている鞄から出てきた。
 どうやって取り出したのか、ルーシャが不思議そうに鞄を眺めていると、リックは視線に気がつき、わざとらしく大きな声を出しながら頭を下げた。

「あっ! そうだそうだ。ご婚約おめでとうございます。ご結婚に必要な物は、是非オレに頼ってくださいね。この国ではまだ流通していないような珍しいものも多数取り揃えておりますから!」
「ごめんなさい。婚約は──」
「滞りなく結ばれましたが、結婚準備に関しては先方が取り仕切って下さるので、こちらで口を出すことは出来ないんですよ。ね、ルーシャ」

 ヒスイの引きつった笑顔でルーシャも気づく。
 ルーシャとテオドアは婚約を結んだことにしたのだということを。

 屋敷を出たことで、つい気が緩んでしまったが、偽装婚約と称しているのはルーシャとヒスイとレイスだけ。他の者には知られてはいけないのだ。

 そうすれば、自分の身代わりに別の令嬢がテオドアの婚約者──守護竜の生贄にされることも防げるし、他の打開策について調べる時間だって稼ぐことだって出来る。一石二鳥である。

「へー。ってことは結構お偉い感じの名家へと嫁ぐ感じですかね?」
「そんなこと無いですよ。ただの屑男のところですよ」
「ちょっと。ヒスイったら!」
「あ、失礼しました。もちろん冗談です」
「なんか、お二人ってご令嬢と執事って言うより、幼馴染みとかそんな雰囲気ですね? ヒスイ殿は妹君のこと呼び捨てだし」
「元幼馴染みってところですよ。ね、ルーシャ」
「そうね。うん、そうなの!」

 ヒスイとルーシャは幼馴染みという設定が追加された。でも、その方が楽に過ごせそうだ。

「いいですね。オレなんか幼馴染みって呼べるのは、可愛げのない従兄ぐらいしかいないんですよ。雑貨屋の息子なんですけど、オレの手作り商品をそいつの店で売ったら、勝手に置くなって怒るんですよ」

 そりゃあ、人の店で勝手に商売をするのは駄目だろう。でも、リックなら売れたらオッケー、怒られても一切引かなそうだ。ルーシャもヒスイもその従兄にちょっと同情した。
 
「何ですかその目は? あ、そっかそっか。オレの手作り商品、見たいんですね! レイスさんから法外な謝礼いただいちゃって申し訳なく思ってたんで、おまけで差し上げますよ~」

 ◇◇◇◇

 昼食を終え、馬車は王都へ向け出発する。
 ルーシャとヒスイの手には、手の平サイズの黒い犬のぬいぐるみが乗っていた。

 これがおまけで貰ったワンコ様人形だ。目の位置がいびつで、何となく味があって可愛い。

「あ。そうそう。この先の道なんですけどね。火狼ファイヤウルフが出るんですよ。普段人を乗せてる時は通らない道なんですけど、レイス様から成るべく一目に触れない道でって言われているので!」
「火狼ですか?」
「はい。野生の狼──火狼の小路を通ります!」





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