聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

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後日談

『ファビウス家の秩序』 何が最善か

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 リリアーヌは酷くやつれた顔で椅子に腰かけていた。

 私が部屋に入ると、体を強ばらせ、リリアーヌは小さく震えていた。
 私はテーブルの上に、国王から賜った勲章を置いた。

「アルベリクの代わりに、私がこれを受け取ってきたよ」
「………」

 リリアーヌは微かに口を開いたが、言葉を発することはせず、口を閉じて勲章を虚ろな瞳で見つめていた。

 前回話した時に、言い訳ばかりのリリアーヌに、私は言ったのだ。
『お前の言葉は聞きたくない。二度と口を開くな』
 と。その事を守っているのかもしれない。

「それから、クリストファ王子の流刑が決まったよ」
「…………!?」

 リリアーヌは瞳を見開き、驚いて固まっていた。

「流刑などでは足りないよな。国の英雄と聖女を殺したのに。……でも安心しろ。アレクシス王子が力を貸してくれる。クリストファは二度と国に戻ることはない。流刑先で暗殺されるんだ」
「あ………」

 リリアーヌはうつ向き泣き始めた。
 この涙は何の意味があるのだろう。

 かつて愛した者の死を嘆いているのか。
 自分も同じ道を辿ると思い恐怖しているのか。
 それとも、私と同じようにホッとし、喜んでいるのか。

 私にはリリアーヌの心を感じとることは出来なかった。

「クリストファ王子は実の兄によって、その命を落とすことになるだろう。アルベリクと同じだな。実の姉に裏切られ──」
「違いますっ。私は……アルを死なせたくなんかありませんでした。私は──」

 私はリリアーヌを疎ましく感じた。
 目の前から消えて欲しいほどに。

 この期に及んで、まだ自分の罪を認めないのだから。

「ただ利用されただけ……そう言いたいのか?」
「……私も、クリス様と同じ処罰をお与えください。どうか、私を死なせてください」 

 これは、反省して言っているのか、ただ楽になりたいだけなのか。
 どちらだろう。

 しかし、そのどちらだとしても関係はない。
 私はファビウス家の当主なのだ。
 その責務を果たすためには──。


「……それでは、ファビウス家に傷が付くではないか」
「えっ……?」
「お前の罪を知っているのは、クリストファと、ローエン家の者、それからクロエとレオンだ。お前がクロエに余計なことを言うから、幼い二人も罪を知ることとなった」
「……っ。だったら、私は……私はどうしたらよいのですか!?」

 頭を抱え、泣きながらテーブルに伏せるリリアーヌ。
 自分を被害者の様に思っているのだろうか。
 私にとってお前は加害者でしかないのに。
 
「……さあ? 私にも分からないよ。私に言えることは、これ以上ファビウス家の名を汚すな。それだけだ。自分がどうすべきか。──自分で考えろ」

 私はソファーを立ち上がると部屋を出た。

 久しぶりに会ったリリアーヌは、別人の様に生気が薄く、以前の艶やかさを失っていた。

 そんなリリアーヌを見て、投獄されたクリストファを思い出した。
 私もアレクシス王子と同じように、身内に罰を与えようとしている。

 リリアーヌに対して、私が求めるものが何だったのか、分からなくなっていた。

 クリストファの様な末路へと追いやりたいのか。
 それとも、許したいのか。

 ファビウス家を守るために、何が最善か。
 己の感情が複雑に入り交じり、答えが見えなかった。

 アルベリクだったらどうしただろう。
 リリアーヌを……許したかもしれない。
 いや、あの少女の死を目の当たりにしたら許さないだろうな。

 しかし、アルベリクなら、姉の死を望むこともせず、きっと別の手段を取るのだろうな。

 私は自室へ戻るとベッドに突っ伏し、今後のことに頭を悩ませた。



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