聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

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後日談

『エドワールの報復』 勲章授与式

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 弟が死んでから一週間が過ぎた。

 私はファビウス家の当主として、事後処理に追われていた。
 でもそれでいいんだ。
 余計なことは考えたくなかったから。



 今日、私は城に招かれていた。
 弟の代わりに、国王から勲章を賜るためだ。

 しかし、私がここに来た理由は別にある。
 城へ連行されたクリストファ王子の、その後の処遇を確認するためだ。


 クリストファ王子の主張は、一貫していた。

『いらないものを壊すのも捨てるのも僕の自由だ。あれは僕を裏切り逆らった。王族に対する謀反の罪で死を与えたのだ』

 それしか言わないそうだ。
 アルベリクの名も、セシルの名も、一度も口にせず、二人の名をあれと称して、己の正当性を主張し続けている。



 国王がクリストファ王子の主張を認めた、との噂を聞いたときは、頭の中が真っ白になった。
 これといった才もなく、空気のような王だと思っていたが、愚王だったと知り、言葉を失った。

 シュナイト公爵家と組んで本気で謀反でも起こそうかと考えていた。
 しかしその矢先、勲章授与式にアルベリクの代わりとして私が城へと招待されたのだ。

 もし、アルベリクが謀反人とみなされたのであれば、勲章など授与される筈がない。

 国王はどんな判断を下すのか、私は期待していた。



 勲章を授与する際、国王はこう言った。

「北のでの功績を称え、クリストファに働いた狼藉は不問に処す。感謝せよ」
「……感謝……ですか? ――国王陛下。発言をお許しいただけますか?」
「よいぞ」
「本来なら、陛下に献上する品を用意しておりました。しかし、お渡しすることが出来なくなってしまったのです」

 王はそれを聞くと、眉をつり上げ私に鋭い視線を向けた。

「それは、弟を殺されたから、渡したくなくなった。という意味かね?」
「滅相も御座いません。国のため、陛下のためを思えば、私はいかなることが起ころうとも、献上する所存でした」
「では、何故しないのだ?」
「それは──クリストファ王子様に殺されたからです」

 国王は私の言葉を受け、カッと目を見開き声を荒げた。

「何だと!? ファビウス侯爵は弟を差し出す気だったのか。そんなもの――」
「私は――奇跡の力を有した癒しの乙女。聖女を陛下に献上するつもりでした。彼女は、そちらにいらっしゃいます、英雄ディルク様の怪我を癒した聖女です。しかし、クリストファ王子様に殺されました」
「な、何だと? 何故クリストファは……」
「クリストファ王子様は、聖女をご自分のものにされたかったのです」
「自分の物に……だと?――クリストファは、献上品を壊したのだな」
「はい。陛下」

 国王は瞳に微かな怒りを宿し、側近に小声で指示を出すと、私に視線を戻す。

「ファビウス家の忠義には感心したぞ。もう下がってよい」

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