聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

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第八章 終焉と死に戻りの秘密

011 約束

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「私を……迎えに?」

 嬉しかった。こんな事を言われたのは初めてだった。

 アルベリクはセシルの頬に手を添え、セシルの溢れ出した涙を指で拭ってくれた。やっぱりアルベリクの手は温かい。

「ああ。お前は俺の事なんか覚えていないと思うが、六年前の約束を果たしに来た」
「覚えて……いますよ。私の憧れの……」

 セシルはそこで言葉を止めた。
 女の子と間違えていたなんて言って……嫌われたくない。

 アルベリクは潤んだ瞳でセシルを見つめたまま微笑んだ。

「女の子じゃなくて……悪かったな」
「ええっ。な、何で、知ってるんですか!?」
「知ってる。他にも色々セシルの事を知ってるんだ。……癒しの魔法が使えることも。甘いお菓子が大好きなことも。騙され易くて、油断と隙だらけなことも……」
「な、何でそんなことを……」

 ――知ってるの?

 アルベリクの瞳が優しい。まるで、さっきまで一緒にお屋敷で過ごしていたアルベリクの様に。

 セシルはアルベリクの頬に触れようとして、その手を下ろした。泥で汚れた自分の手でアルベリクに触れてはいけない気がしたから。

 でも、アルベリクはその手を握ってくれた。
 そして左手の薬指に輝く指輪に視線を落とすと、驚いて目を何度も瞬かせていた。

 こんな汚い娘が持っているような指輪じゃ、ないからかな。

「この指輪はどうしたのだ?」
「え……。えっと」
「覚えて……いないのか?」

 寂しげに指輪を見つめるアルベリク顔は、前にも見たことがあるような気がした。

 言わなきゃ。きっとアルベリクなら信じてくれる。

「お、覚えています。信じてはもらえないかもしれませんが……この指輪は――……アルベリク様から、いただきました」

 言えた瞬間、アルベリクの瞳がパッと開いた。
 
 驚いている?
 嫌がってはいない?
 信じてくれた?

 どれともとれぬ表情で、セシルには分からなかった。

「あ、あの。いきなり可笑しな話ですよね。で、でも……」

 アルベリクはセシルをもう一度強く抱きしめた。

「セシル。お前……遡る前のことを、覚えているのか?」
「ぇえっ? そ、それって。あ、アルベリク様も覚えているのですか?」
「ああ。全部覚えている。ずっとお前ばかり見てきた。聖女のお前も、使用人のお前も……」

 なんでアルベリクも覚えているの?

 分からないことだらけだけれど、嬉しくて涙が溢れた。

「……えっ。アルベリク様。何……で?」
「セシル?」

 アルベリクが甘えた瞳でセシルを見る。
 幾度と無く、セシルを見つめてくれたエメラルドの瞳。

 あの時より少し幼いアルベリクだけれど、瞳を見たら気持ちがわかる。何がしたいのか、どうして欲しいのか。

 セシルはそっと瞳を閉じアルベリクを待った。
 頬にかかるアルベリクの吐息。耳元で囁かれた。

「セシル。ずっと一緒にいてくれ。俺もお前を愛してる」
「はい。私もで――んんっ」

 セシルの返事を最後まで聞かず、アルベリクはセシルの唇を自身のそれで塞いだ。

 心も身体もアルベリクで満たされていく。
 アルベリクがこんなにせっかちだったなんて、知らなかった。

 アルベリクから解放され、セシルには聞きたいことが山ほどあった。

「アルベリク様……っくしゅん」

 全身ずぶ濡れだったことを、すっかり忘れていた。
 気が付いたらもっと寒く感じ、くしゃみの次は身体がブルッと震えた。

「セシルっ。屋敷へ行こう。まずは、風呂だな」
「はい」

 アルベリクはマントを外しセシルの身体をくるむとそのまま抱き上げ、屋敷へと向かった。

 ◇◇

 屋敷に着くと、レクトはセシルを見て眉間にシワを寄せていた。

 そうそう。レクトの第一印象は最悪だった。
 メアリは変わらぬ穏やかな笑顔で迎え入れてくれた。
 懐かしい。ずっとここにいられたらいいのに。

 でも、今度はどうしたらいいのだろう。クリスから逃れるためには、やっぱり、ここにいたら駄目なんだろうな。






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