聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

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第八章 終焉と死に戻りの秘密

008 死に戻り

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 目を開けたら、いつもの庭だった。
 目の前には入れたての紅茶。婆やの匂いがした。

 戻ってきた。また、二年前に。

「あらあら。アル様?──何だか、大人になられましたか?」

 婆やの声を聞いたら安心して、涙が溢れた。
 そして涙が溢れると共に、セシルの首が落ちる光景が甦る。

 目に焼き付いて離れなかった。
 あんな未来、絶対に嫌だ。

 今度は、今度こそは俺が守り抜くんだ。

「あああアル様!? どどどどうされましたか!?」

 レクトが慌てて俺にハンカチを差し出した。
 レクトが幼い。懐かしい。

 きっと、まだ間に合う。やり直せる。
 でも、どうしたらいい?
 セシルを守るには、セシルが幸せになるには……。

「……目に、ゴミが入った。レクト、風呂を用意しておいてくれるか」
「は、はい。かしこまりました」

 きっとセシルは教会の井戸の中だ。早く助け出さないと。
 あんな冷たい井戸の中にいさせたくない。

 俺が立ち上がると、婆やが尋ねた。

「どちらへ行かれるのですか?」
「……婆や。運命は変えられると思うか?」
「……? はい。アル様なら、きっと」
「そうだな……」

 婆やならきっとセシルを可愛がってくれる。
 俺はセシルとどう接していいか分からないが、婆やなら。

 ◇◇


 セシルは俺が思っていた通り、井戸の中にいた。
 身体は冷えきっていて、とても小さく感じた。

 ディルクの死を回避するまで、何とか屋敷で匿わなくては。

 しかし、近くで見るセシルは想像していたよりもとろくて失敗ばかりで、油断と隙だらけの少女だった。

 また王子に出会ってしまったら、騙されるんだろうな。
 と容易に想像できるほどに。

 正直苛々した。

 俺の事を覚えていないのは聖女の時に確認済みだったから、そこは諦めていたけれど。使うなと言った魔法は使うし、勝手に双子と仲良くなっているし姉とも遭遇して。

 次に何をしでかすか心配で、目が離せなかった。
 でも、目が離せなかったのは心配だったからだけじゃない。

 多分、ずっと見ていたかったのだと思う。
 セシルを。セシルの怒った顔を、そして笑った顔を。




 一度目は自分なんかよりセシルに生きて欲しい一心だった。
 二度目はセシルを守れなかった罪悪感と、セシルのいない世界を受け入れられない想いでいっぱいだった。




 そして今回は──。

「俺もセシルを愛しているんだ。失いたくない。ずっと一緒に……今度こそ」

 またあの井戸からやり直すんだ。
 セシルは何も覚えていないかもしれないけれど。
 また俺を選んで欲しい。


 背後からレクトと婆やの声が聞こえる。
 二人には申し訳ないが、後のことは任せることにする。

 俺は三度目の蘇生術を行使した。

 ◇◇◇◇

「こんなところで何をしているんだ?」

 リリアーヌはエドワールに呼び止められた。
 ここは本館の玄関ホール。
 リリアーヌは西館から東館へ帰る途中であった。出来ればエドワールには見つからずにこっそりと帰りたかった。

「お兄様。アルベリクと仲直りをして参りました」
「仲直りか。……出来たのか?」
「どうでしょう。私の気持ちは伝わったと思いますわ」
「そうか……」

 エドワールはそう呟くと、爺やに視線を伸ばした。
 リリアーヌの言葉はあまり信じてもらえていないようだ。

「お兄様は何故ここに?」
「夜の散歩だよ。今夜はどうも胸騒ぎがするのだよ」
「……そうですか。私はこれで失礼しますわ。おやすみなさいま──」

 リリアーヌがエドワールにお辞儀した瞬間──西館の渡り廊下への扉がゆっくりと開いた。

 現れたのは──クリスだった。

「あっ。クリス様っ」
「何故クリストファ王子が。……なっ何だ、その血はっ!?」

 クリスの手や服にはべっとりと赤い血がついていた。それは自分の血ではなく、誰かの返り血を浴びたような跡だった。

 クリスは普段と変わらぬ笑顔をエドワールに向けた。

「やあ。こんばんは。エドワール様。申し訳なかったね。勝手に滞在してしまっていて」
「クリス様っ。お怪我をされたのですか!?」

 リリアーヌはクリスの元へ走り、身体を支えて傷の具合を確認した。

「ああ。リリアーヌ、大丈夫だよ」
「ですがっ!?」

 エドワールは爺やに目配せし、クリスから距離をとった。

「リリア。そいつから離れろ」
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