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第八章 終焉と死に戻りの秘密
005 古びた木箱
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アルベリクはセシルを抱きしめ咽び泣いた。
「何でっ!? いつもこうなるんだ。セシル。どうして自分を治さないんだよ……。もう、お前が死ぬ姿なんか見たくなかったのに――そのために俺はっ」
レクトはセシルを抱きしめて泣いて叫ぶアルベリクの背中を呆然と眺めていた。
「アル様。どうしてセシルが……」
アルベリクはその言葉に答えなかった。
言葉にするには、辛すぎる現実だった。
「レクト。それから婆や。最後に頼みがある」
「アル様。最後って……何言ってるんですか?」
レクトは持っていた木箱を地面に下ろし、アルベリクの腕を掴んだ。何処か遠くへ消えてしまいそうなアルベリクを繋ぎ止めたくて。
「俺を殺したのはクリストファ王子だ。兄上に頼んで断罪してくれ」
「あ、アル様は生きているじゃないですか。何でそんなこと……」
「それから、書斎の――……何故これがここに?」
アルベリクが地面におかれた木箱に気付くと、メアリがそれを拾い上げアルベリクに渡した。
「必要かと思ってお持ちしました。ですが……」
「婆やは知っていたのか?」
「前当主オズワルド様がされていた研究は存じております。エドワール様もそれはご存じでしょう。アル様がその研究を続けていたことも……」
古びた木箱を見つめるアルベリクとメアリに、レクトは話の意味が分からず困惑していた。
「婆様。さっきから何の話をしているんですか?」
「レクト。下がりましょう」
「えっ、なんで……」
メアリに腕を捕まれ、レクトはアルベリクから引き離された。アルベリクは木箱を胸にセシルを見下ろした。
「レクト。俺がいなくなったら、俺の剣はお前にやる」
「いなくなったらって……」
「大丈夫だ。俺はセシルとまた旅に出るだけだ。何も悲しむ必要はない。いや、セシルがどうなるのかは、俺には分からないが……」
アルベリクはそう言うと、セシルを芝生の上に寝かせ、ロザリオを握らせた。左手の薬指にはアクアマリンの指輪が輝いている。
そして木箱を開き一冊の本を取り出した。
魔方陣が書かれたページを開き、その上に金色の粉が付いた枯れ葉と青い薔薇の花を一輪乗せる。
何の迷いもなく何かの準備を進めるアルベリクを、レクトは不思議そうに眺めていた。
「婆様。アル様は何をしているのですか?」
「蘇生術よ」
「……はい? アル様は魔法使いなのですか?」
「違うわ。あれは黒魔術の一種よ。前当主オズワルド様は、奥様を亡くされてから、ずっと黒魔術の研究をされていたの。亡き奥様ともう一度会いたいが為に……」
蘇生。黒魔術。
初めて聞く言葉ばかりで、レクトには理解しきれなかった。
でも――。
「……それって。セシルが生き返るってことですか?」
「分からないわ。でも、アル様ご自身は助からないのだと思うわ……」
「えっ……。な、何で止めないんですか?」
「分からないけれど、止めてはいけない気がするの」
「……婆様。俺、嫌です」
「レクト。駄目よ。アル様の最後のお願いを聞いてあげなくては…… 」
「アル様に死ねって言われたら死ねますけど。アル様が死ぬって言われたら、見過ごせないです」
アルベリクを止めに入ろうとしたレクトをメアリは引き留めた。
「駄目よっ。きっと、アル様は分かっているの。これから自分がどうなるのか。何が起きるのか」
「それって、どういう意味ですか!?」
「今回が初めてじゃないのよ。きっと……。アル様は、ずっと何かを後悔していらした。セシルを連れてきたあの日から……」
メアリは感じていた。アルベリクの些細な変化を。
「何でっ!? いつもこうなるんだ。セシル。どうして自分を治さないんだよ……。もう、お前が死ぬ姿なんか見たくなかったのに――そのために俺はっ」
レクトはセシルを抱きしめて泣いて叫ぶアルベリクの背中を呆然と眺めていた。
「アル様。どうしてセシルが……」
アルベリクはその言葉に答えなかった。
言葉にするには、辛すぎる現実だった。
「レクト。それから婆や。最後に頼みがある」
「アル様。最後って……何言ってるんですか?」
レクトは持っていた木箱を地面に下ろし、アルベリクの腕を掴んだ。何処か遠くへ消えてしまいそうなアルベリクを繋ぎ止めたくて。
「俺を殺したのはクリストファ王子だ。兄上に頼んで断罪してくれ」
「あ、アル様は生きているじゃないですか。何でそんなこと……」
「それから、書斎の――……何故これがここに?」
アルベリクが地面におかれた木箱に気付くと、メアリがそれを拾い上げアルベリクに渡した。
「必要かと思ってお持ちしました。ですが……」
「婆やは知っていたのか?」
「前当主オズワルド様がされていた研究は存じております。エドワール様もそれはご存じでしょう。アル様がその研究を続けていたことも……」
古びた木箱を見つめるアルベリクとメアリに、レクトは話の意味が分からず困惑していた。
「婆様。さっきから何の話をしているんですか?」
「レクト。下がりましょう」
「えっ、なんで……」
メアリに腕を捕まれ、レクトはアルベリクから引き離された。アルベリクは木箱を胸にセシルを見下ろした。
「レクト。俺がいなくなったら、俺の剣はお前にやる」
「いなくなったらって……」
「大丈夫だ。俺はセシルとまた旅に出るだけだ。何も悲しむ必要はない。いや、セシルがどうなるのかは、俺には分からないが……」
アルベリクはそう言うと、セシルを芝生の上に寝かせ、ロザリオを握らせた。左手の薬指にはアクアマリンの指輪が輝いている。
そして木箱を開き一冊の本を取り出した。
魔方陣が書かれたページを開き、その上に金色の粉が付いた枯れ葉と青い薔薇の花を一輪乗せる。
何の迷いもなく何かの準備を進めるアルベリクを、レクトは不思議そうに眺めていた。
「婆様。アル様は何をしているのですか?」
「蘇生術よ」
「……はい? アル様は魔法使いなのですか?」
「違うわ。あれは黒魔術の一種よ。前当主オズワルド様は、奥様を亡くされてから、ずっと黒魔術の研究をされていたの。亡き奥様ともう一度会いたいが為に……」
蘇生。黒魔術。
初めて聞く言葉ばかりで、レクトには理解しきれなかった。
でも――。
「……それって。セシルが生き返るってことですか?」
「分からないわ。でも、アル様ご自身は助からないのだと思うわ……」
「えっ……。な、何で止めないんですか?」
「分からないけれど、止めてはいけない気がするの」
「……婆様。俺、嫌です」
「レクト。駄目よ。アル様の最後のお願いを聞いてあげなくては…… 」
「アル様に死ねって言われたら死ねますけど。アル様が死ぬって言われたら、見過ごせないです」
アルベリクを止めに入ろうとしたレクトをメアリは引き留めた。
「駄目よっ。きっと、アル様は分かっているの。これから自分がどうなるのか。何が起きるのか」
「それって、どういう意味ですか!?」
「今回が初めてじゃないのよ。きっと……。アル様は、ずっと何かを後悔していらした。セシルを連れてきたあの日から……」
メアリは感じていた。アルベリクの些細な変化を。
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