聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

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第七章 争乱と奇跡の力

009 はかりごと

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 リリアーヌはミリアを連れてエドワールの書斎にいた。
 セシルの処遇を相談するために。

 リリアーヌの話を聞き終えると、エドワールは紅茶を一口飲み、小さくため息をついた。

「それで、アルのメイドのセシルが魔法を使う異端者だ。と言いたいのだな?」
「はい。そうです。もしかしたら他国の諜報員かもしれません」
「ふっ。あんな子供が諜報員か」

 エドワールは呆れたように笑い爺やに目を向けた。
 爺やは以前セシルの治療を受けたことがある。
 その事はエドワールの耳にも入っていた。

「お兄様。そんな悠長なことを言っている場合ではありませんわ。この屋敷内に魔女がいるのですよ!?」
「リリア。口を慎め。この屋敷に諜報員も、魔女もいてはならない。ましてや使用人にそんな者が混ざり込んでいることなど、あってはならないのだよ」
「……でしたら、早く排除してしまわないと」
「リリアだったら、どう排除するつもりだ?」

 リリアーヌは思案した。
 どうしたらセシルの悪意を暴き破滅させることが出きるだろうかと。
 クリスもアルベリクもセシルに嫌気がさすような……最良の手段はないだろうかと。

「やはり。異端者として訴えて処刑することが、この国の為だと思いますわ」

 リリアーヌは自信満々に断言した。
 しかし、兄の瞳は冷ややかだった。

「リリア。お前は本当に馬鹿な妹だ。──私は、この屋敷に異端者はいてはならないと言っただろう? ファビウス家に泥を塗るつもりか?」
「で、ですが。いずれ誰かに知られることでしょう。シュナイト領のオリヴィア様もご存じなのですから」

 エドワールは大きく溜め息をつくと、爺やに目を向けた。

「爺やはセシルをどう見る?」
「メアリは孫のように可愛がっております。彼女は教会の孤児で、特に怪しい動きはございません」
「諜報員等とはリリアの妄言だ。そのセシルという使用人は人の傷を癒す魔法が使えるのだろう? 異端者として処刑するより、もっと有効な使い方があるだう。ファビウス家にも有益な使い方が……」
「有益な?」

 リリアーヌはエドワールの意図を理解できなかった。
 しかしエドワールは満足そうに微笑んでいる。
 何かよい案が浮かんだのだろう。 

「ああ、そうだ。明日、クリス王子が屋敷に来るよ。ディルク様とアルに用があるそうだが、リリアとの婚約の話もあるみたいだよ」
「ほ、本当ですの!?」

 ついに、クリスの婚約者になれる。
 リリアーヌは歓喜した。

「ああ。リリアはクリス王子と一緒になれればそれでいいのだろ。そしてその間にセシルがいないことが望みなのだな?」
「はい。お兄様」
「きっとその夢は叶うよ。だからそれ以外のことに、口出しは許さないからな」
「は、はい!」

 夢見心地な笑顔でリリアーヌが出ていくと、爺やは言った。

「エドワール様。奥様とお茶の時間です」
「面倒だ。今日は行けないと伝えておけ」
「今日も……ですが」
「そんなことどうでもいい。明日は忙しくなりそうだからな」

 ◇◇◇◇

 夕食の時、アルベリクとディルクにメアリは伝えた。

「明日、クリス王子がお二人に会いにいらっしゃるそうです」
「おお。王子様直々に何だろうな!?」
「ただの嫌がらせだろ。セシル、お前はレクトと二人で書庫の整理だ。さぼらずずっと書庫にこもっていろよ」
「えー」

 嫌そうに声を漏らしたのはレクトだ。
 本に囲まれることが一番嫌いなのだ。

 しかし、レクトには悪いが外へ出てクリスと遭遇してしまうことだけは避けたいとセシルは思った。アルベリクもそのつもりで命を出したのだろう。

「レクト。お掃除頑張ろう。レクトが一緒だと頼りになるなぁ。お仕事一緒にするのも久し振りだよね」
「まぁ。そうだな。よし。明日は書庫の大掃除だ!」

 何とかやる気を出したレクトにセシルはひと安心した。
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