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第七章 争乱と奇跡の力
003 鞭で叩かれるべきなのは
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「ど、どうして私を叩いたの!?」
リリアーヌはヒステリックに叫んだ。
反対にアルベリクは冷静だった。悲しみと怒りを抑えてリリアーヌを睨み返し、背中のマントを外しセシルに掛けた。
「姉上こそ、ご自分が何をしているか分かってますか?」
「だって、この子はクリス様を誑かして指輪をもらっていたのよ。アルベリクだって、この子に騙されているのよ!」
アルベリクはリリアーヌから鞭を取り上げ空を切った。
風を切る鞭の音に、セシルは背中がゾクッとした。
それはリリアーヌも同じだったようだ。
青い顔でアルベリクを見つめている。
「鞭を打って悪い心を追い出すべきなのは姉上ではないのですか?」
「私が、なぜ? この子が悪いのよ。私の婚約者に手を出して、キスまでしたのよ?」
アルベリクは怒りに任せて鞭をへし折った。そして折れた鞭をリリアーヌに突き返す。
「手を出したのは、その男の方です。迷惑しているのは俺とセシルの方だ。人の庭に勝手に入って俺の所有物に指輪まで渡して……。ちゃんと姉上が糞王子の面倒を見ていてください」
「あ、アルベリク、何を言っているの? やっぱりその子に騙されているのよ。貴方おかしいわよ」
リリアーヌは手に持った鞭を握りしめ、必死でアルベリクに訴えかけるも、聞く耳を持ってもらえなかった。
「姉上。忠告しておきます。誰かを陥れて自分をよく見せるなんて事、考えない方がいいですよ。下劣すぎて吐き気がします。姉上には、そんな人になって欲しくないのです。その悪意は、微かな切っ掛けで膨れ上がり、人を殺めることになるかもしれません。俺は、姉上に……人殺しにはなって欲しくないのです。ですから、今後一切、セシルとは関わらないでください」
アルベリクはポケットからアクアマリンの指輪を取り出し、リリアーヌに渡した。
「アイツの浮気を責めたいんなら、これをどうぞ。欲しかったんですよね?」
「浮気だなんて……違うわっ」
「そうですか。まだ婚約者でもないですから、そうかもしれませんね」
「アルベリク!? いくらなんでも酷すぎるわ!」
指輪を握りしめて涙する姉を、アルベリク冷ややかな目で見下ろした。
「俺は来週、北へ行きます。姉上の為に、ファビウス家の名をあげて参ります。その間にもし、セシルに手を出したら……家族の縁を切りますから」
「そ、そんな事言わないで。こんな女の――」
リリアーヌはアルベリクの瞳を見て口を接ぐんだ。
今まで怒ったところすら見たことの無かった弟が、怒りを通り越してリリアーヌに殺意のこもった瞳を向けていたのだから。そんな目で、自分を見て欲しくなかった。
「で、出ていって。早く出ていって!」
「失礼します。姉上」
アルベリクはセシルを抱き上げると部屋から出ていった。
リリアーヌは部屋の花瓶を床に叩きつけ、ベッドで涙を流した。
「どうして、どうしてあんな子を庇うの……。ミリア。あの子が悪いわよね? アルベリクは、私やクリスが悪いって言うのよ!?」
「……セシルが悪いかどうかは分かりませんが……。今の国王は妻が三人います。あ、一人お亡くなりになっているので、四人ですね。王族とは……そういうものかと存じております。リリアーヌ様も、王家の一人となりたいのでしたら、その様な覚悟はすべきかと思います」
ミリアは冷静に自身の考えを述べた。
「……何よそれ。私は王族になりたいのではないの!? クリス様を独り占めしたいだけなの!?」
「……そうですか」
ミリアにはその気持ちは理解できなかった。
自分の母親も同じ事を言っていた。
父クロードが、レクトの母親と恋仲になった時に。
でも、クロードはどちらも愛していた。
それじゃ駄目なのだろうか。
ミリアもリリアーヌの一番になりたいけれど、リリアーヌが幸せならそれでいいとも思えるのだ。
「リリアーヌ様はお美しく、優しさと聡明さに溢れたお方だと存じております。きっと、クリス王子様も、そんなリリアーヌ様だからこそ、屋敷に足を運ばれているのです。ですから、ご自分に自信を持ってください」
「自信……?」
リリアーヌはアクアマリンの指輪を見つめた。どうしてセシルに渡したのか、なぜキスなんかしたのか、考えると悔しくて仕方なかった。
「きっとクリス王子様は可哀想なメイドに施しのつもりで指輪を渡したのです。いらした時に、お尋ねになってはいかがですか?」
「そうね。あの子より私の方が劣るなんてあり得ないわ。本当に……目障りな子」
リリアーヌは指輪をきつく握りしめた。
リリアーヌはヒステリックに叫んだ。
反対にアルベリクは冷静だった。悲しみと怒りを抑えてリリアーヌを睨み返し、背中のマントを外しセシルに掛けた。
「姉上こそ、ご自分が何をしているか分かってますか?」
「だって、この子はクリス様を誑かして指輪をもらっていたのよ。アルベリクだって、この子に騙されているのよ!」
アルベリクはリリアーヌから鞭を取り上げ空を切った。
風を切る鞭の音に、セシルは背中がゾクッとした。
それはリリアーヌも同じだったようだ。
青い顔でアルベリクを見つめている。
「鞭を打って悪い心を追い出すべきなのは姉上ではないのですか?」
「私が、なぜ? この子が悪いのよ。私の婚約者に手を出して、キスまでしたのよ?」
アルベリクは怒りに任せて鞭をへし折った。そして折れた鞭をリリアーヌに突き返す。
「手を出したのは、その男の方です。迷惑しているのは俺とセシルの方だ。人の庭に勝手に入って俺の所有物に指輪まで渡して……。ちゃんと姉上が糞王子の面倒を見ていてください」
「あ、アルベリク、何を言っているの? やっぱりその子に騙されているのよ。貴方おかしいわよ」
リリアーヌは手に持った鞭を握りしめ、必死でアルベリクに訴えかけるも、聞く耳を持ってもらえなかった。
「姉上。忠告しておきます。誰かを陥れて自分をよく見せるなんて事、考えない方がいいですよ。下劣すぎて吐き気がします。姉上には、そんな人になって欲しくないのです。その悪意は、微かな切っ掛けで膨れ上がり、人を殺めることになるかもしれません。俺は、姉上に……人殺しにはなって欲しくないのです。ですから、今後一切、セシルとは関わらないでください」
アルベリクはポケットからアクアマリンの指輪を取り出し、リリアーヌに渡した。
「アイツの浮気を責めたいんなら、これをどうぞ。欲しかったんですよね?」
「浮気だなんて……違うわっ」
「そうですか。まだ婚約者でもないですから、そうかもしれませんね」
「アルベリク!? いくらなんでも酷すぎるわ!」
指輪を握りしめて涙する姉を、アルベリク冷ややかな目で見下ろした。
「俺は来週、北へ行きます。姉上の為に、ファビウス家の名をあげて参ります。その間にもし、セシルに手を出したら……家族の縁を切りますから」
「そ、そんな事言わないで。こんな女の――」
リリアーヌはアルベリクの瞳を見て口を接ぐんだ。
今まで怒ったところすら見たことの無かった弟が、怒りを通り越してリリアーヌに殺意のこもった瞳を向けていたのだから。そんな目で、自分を見て欲しくなかった。
「で、出ていって。早く出ていって!」
「失礼します。姉上」
アルベリクはセシルを抱き上げると部屋から出ていった。
リリアーヌは部屋の花瓶を床に叩きつけ、ベッドで涙を流した。
「どうして、どうしてあんな子を庇うの……。ミリア。あの子が悪いわよね? アルベリクは、私やクリスが悪いって言うのよ!?」
「……セシルが悪いかどうかは分かりませんが……。今の国王は妻が三人います。あ、一人お亡くなりになっているので、四人ですね。王族とは……そういうものかと存じております。リリアーヌ様も、王家の一人となりたいのでしたら、その様な覚悟はすべきかと思います」
ミリアは冷静に自身の考えを述べた。
「……何よそれ。私は王族になりたいのではないの!? クリス様を独り占めしたいだけなの!?」
「……そうですか」
ミリアにはその気持ちは理解できなかった。
自分の母親も同じ事を言っていた。
父クロードが、レクトの母親と恋仲になった時に。
でも、クロードはどちらも愛していた。
それじゃ駄目なのだろうか。
ミリアもリリアーヌの一番になりたいけれど、リリアーヌが幸せならそれでいいとも思えるのだ。
「リリアーヌ様はお美しく、優しさと聡明さに溢れたお方だと存じております。きっと、クリス王子様も、そんなリリアーヌ様だからこそ、屋敷に足を運ばれているのです。ですから、ご自分に自信を持ってください」
「自信……?」
リリアーヌはアクアマリンの指輪を見つめた。どうしてセシルに渡したのか、なぜキスなんかしたのか、考えると悔しくて仕方なかった。
「きっとクリス王子様は可哀想なメイドに施しのつもりで指輪を渡したのです。いらした時に、お尋ねになってはいかがですか?」
「そうね。あの子より私の方が劣るなんてあり得ないわ。本当に……目障りな子」
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