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第七章 争乱と奇跡の力
002 私のメイド
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「リリアーヌ様っ」
「……ミリア。どきなさい」
セシルを庇って踏まれたのはミリアだった。リリアーヌは不服そうに足をどけ、セシルに覆い被さるミリアの背中をヒールで蹴った。
ミリアは苦痛に顔を歪めながらも微笑んでいる。
「み、ミリアさんっ」
「大丈夫です。ただのご褒美です」
「ふん。早くどいて」
「リリアーヌ様。セシルはアルベリク様の使用人ですので、手や足を出されるのはいかがな事かと存じます」
「分かったから、早く立ちなさい」
「はい」
ミリアはサッ立ち上がり、セシルもミリアの手を借りて立ち上がろうとしたが、腰が抜けていて立てなかった。
ここから逃げ出したい気持ちで一杯なのに、体が動かない。
リリアーヌに見下ろされると、さらに息が詰まり、体が固くなる。
「あら? あなた、そう……。指輪は嵌めているのではないのね」
リリアーヌはセシルの首に見えたネックレスのチェーンを見て言い、しゃがみ込むとセシルの胸元のリボンをほどく。そして、ブラウスを引き裂いた。
「きゃぁっ」
「ロザリオに、ほら指輪……あら? これは違う指輪だわ。――ふーん。クリス様を誑かして指輪をもらって……本命は他にいるの? 随分なあばずれが、アルベリクの使用人をしているのね……」
「ち、違っ」
言いかけてリリアーヌに睨まれてセシルは息を飲んだ。何を言ってもこの人は信じてくれない。処刑される時に見た人々と同じ瞳をしている。
「ミリア。鞭を持ってきて」
「ですが、セシルはアルベリク様の──」
「今日からこの子は私のメイドにするわ。クリス様だけじゃないわ。この子はアルベリクも騙しているの。だから、私が躾てあげなきゃ」
「で、ですが」
「いいから早くして。私のメイドなら、問題ないでしょ」
「……はい」
ミリアはリリアーヌに鞭を渡した。
馬を叩く用の短鞭を持ち、リリアーヌはセシルに微笑みかけた。
「鞭を打って悪い心を貴女から追い出してあげる。そうしたら、クリス様にも色目を使わなくなるでしょ? 後ろ向いて。顔が傷つきたくなかったらね」
「ぃ……いやっ」
セシルは声を絞りだし、ミリアに助けをも止めるも、視線が交わることはなかった。
リリアーヌは煩わしそうにため息を吐くと、ミリアに合図した。
ミリアはセシルの体を半回転させ、背中をリリアーヌに向け服を裂いて腰まで下げた。セシルのは背中を晒され、恐怖と寒さで鳥肌が立ち床にうずくまった。
「大丈夫です。初めは痛いかもしれませんが、直ぐに気持ち良くなりますよ」
ミリアにそう囁かれ、セシルはもう誰も助けてくれないのだと、絶望と恐怖で涙が溢れた。
「名前はなんと言ったかしら?」
セシルが体を震わせ泣いているだけなので、代わりにミリアが答えた。
「セシルです」
「セシル。今日から私が貴女の御主人様になってあげるわ。だから、甘んじて私の鞭を受けなさい。もう二度と、悪い心が持てないように躾てあげるわ」
リリアーヌが鞭を振り上げた時──。
部屋の扉が勢い良く開いた。
「セシルっ」
「……アル……ベリク様……」
こんな時間にいる筈のない、アルベリクの声がした。恐くて顔は上げられなかったけれど、確かにアルベリクの声だ。
「あら、アルベリク。……見てなさい。貴方の代わりに私がこの子に躾を――」
パンっと何かを叩く音がセシルの後ろで響いた。
恐る恐る振り返ると、アルベリクがリリアーヌの頬を平手で叩いた後だった。
「……ミリア。どきなさい」
セシルを庇って踏まれたのはミリアだった。リリアーヌは不服そうに足をどけ、セシルに覆い被さるミリアの背中をヒールで蹴った。
ミリアは苦痛に顔を歪めながらも微笑んでいる。
「み、ミリアさんっ」
「大丈夫です。ただのご褒美です」
「ふん。早くどいて」
「リリアーヌ様。セシルはアルベリク様の使用人ですので、手や足を出されるのはいかがな事かと存じます」
「分かったから、早く立ちなさい」
「はい」
ミリアはサッ立ち上がり、セシルもミリアの手を借りて立ち上がろうとしたが、腰が抜けていて立てなかった。
ここから逃げ出したい気持ちで一杯なのに、体が動かない。
リリアーヌに見下ろされると、さらに息が詰まり、体が固くなる。
「あら? あなた、そう……。指輪は嵌めているのではないのね」
リリアーヌはセシルの首に見えたネックレスのチェーンを見て言い、しゃがみ込むとセシルの胸元のリボンをほどく。そして、ブラウスを引き裂いた。
「きゃぁっ」
「ロザリオに、ほら指輪……あら? これは違う指輪だわ。――ふーん。クリス様を誑かして指輪をもらって……本命は他にいるの? 随分なあばずれが、アルベリクの使用人をしているのね……」
「ち、違っ」
言いかけてリリアーヌに睨まれてセシルは息を飲んだ。何を言ってもこの人は信じてくれない。処刑される時に見た人々と同じ瞳をしている。
「ミリア。鞭を持ってきて」
「ですが、セシルはアルベリク様の──」
「今日からこの子は私のメイドにするわ。クリス様だけじゃないわ。この子はアルベリクも騙しているの。だから、私が躾てあげなきゃ」
「で、ですが」
「いいから早くして。私のメイドなら、問題ないでしょ」
「……はい」
ミリアはリリアーヌに鞭を渡した。
馬を叩く用の短鞭を持ち、リリアーヌはセシルに微笑みかけた。
「鞭を打って悪い心を貴女から追い出してあげる。そうしたら、クリス様にも色目を使わなくなるでしょ? 後ろ向いて。顔が傷つきたくなかったらね」
「ぃ……いやっ」
セシルは声を絞りだし、ミリアに助けをも止めるも、視線が交わることはなかった。
リリアーヌは煩わしそうにため息を吐くと、ミリアに合図した。
ミリアはセシルの体を半回転させ、背中をリリアーヌに向け服を裂いて腰まで下げた。セシルのは背中を晒され、恐怖と寒さで鳥肌が立ち床にうずくまった。
「大丈夫です。初めは痛いかもしれませんが、直ぐに気持ち良くなりますよ」
ミリアにそう囁かれ、セシルはもう誰も助けてくれないのだと、絶望と恐怖で涙が溢れた。
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セシルが体を震わせ泣いているだけなので、代わりにミリアが答えた。
「セシルです」
「セシル。今日から私が貴女の御主人様になってあげるわ。だから、甘んじて私の鞭を受けなさい。もう二度と、悪い心が持てないように躾てあげるわ」
リリアーヌが鞭を振り上げた時──。
部屋の扉が勢い良く開いた。
「セシルっ」
「……アル……ベリク様……」
こんな時間にいる筈のない、アルベリクの声がした。恐くて顔は上げられなかったけれど、確かにアルベリクの声だ。
「あら、アルベリク。……見てなさい。貴方の代わりに私がこの子に躾を――」
パンっと何かを叩く音がセシルの後ろで響いた。
恐る恐る振り返ると、アルベリクがリリアーヌの頬を平手で叩いた後だった。
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