聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

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第六章 王子と指輪と誕生日

013 誕生日プレゼント

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「セシル……?」

 さっきまで触れていたその唇が、セシルの名を呼ぶ。

 恥ずかしくて、セシルはうつ向いてアルベリクの胸に顔を埋めた。アルベリクの心音も、セシルのそれと同じように早く聞こえた。

「セシル。手、出して」
「え?」

 アルベリクはセシルの左手を取り、薬指に指輪を嵌めた。

 花びらの様な台座の真ん中に、アクアマリンの宝石が輝いている。その周りにも小さなダイヤがあしらわれていて、とても可愛いらしい指輪だ。

 でも、なぜアクアマリンなのだろう。

「今日が誕生日だろ……気に入らなかったか?」
「えっ。う、嬉しいです」
「そうか? あんまり嬉しそうじゃないな」

 嬉しいけれど、アクアマリンには嫌な思い出がある。
 それに……。

「欲を言えば、青い宝石じゃなくて、緑が良かったです」
「緑?」
「アルベリク様の瞳の色と同じ、緑が良かったです」

 セシルがそう言ってエメラルドの瞳を見つめると、アルベリクは珍しく狼狽えセシルから視線を反らした。

「なっ。そ、その……アクアマリンじゃなきゃ駄目なんだ」
「駄目?」
「いや。……お前の髪と瞳と同じだからいいだろ」
「それ、さっきクリス王子に言われました」
「……別のものを」
「いえ。結構です。これがいいです」

 セシルは指輪を眺め、自然と笑みがこぼれた。
 クリスから指輪をもらった時は、まるで死の宣告を受けたかのようだったのに。

 さっきまであんなに恐くて泣いていたのが、嘘みたいだ。
 でも、恐かっただけじゃない。

「あの。さっき私が泣いていたのは、アルベリク様に見られたのが嫌だったんです」
「何を?」
「クリス王子にキスされたのを」
「……どこに?」
「ここです」

 セシルはアルベリクの唇を人差し指で触れた。
 アルベリクの顔が怒りで引きつった。

「あいつ、北で会ったら殺してやる」
「だ、駄目です。そんなことしたら、アルベリク様はここに戻ってこれなくなります」
「戻ってきて欲しいか?」
「当たり前です」

 アルベリクはじっとセシルの瞳を見つめるとベッドに押し倒した。甘えるような瞳で見つめられて、セシルは瞳を閉じた。

 そしてアルベリクの吐息が顔に触れた時。
 ――トントンと扉がノックされた。

「あの。お夕食の準備が……随分前から出来ておりますが。いかがなさいますか?」

 メアリの声に、アルベリクは勢いよくベッドから体を起こした。

「……すぐに行く。――セシル。指輪はロザリオに付けておけ。他の奴には言うなよ」
「は、はい」

 ◇◇

 夕食はビーフシチュー。
 それからケーキはフルーツタルトだった。
 誕生日をこんな風にお祝いしてもらうのは初めてだ。

 レクトは手縫いの新しいメイド服をプレゼントしてくれた。 
 いつの間に作ったのだろう。

「セシルも大分成長したからな。でも、サイズはピッタリの筈だぜ」
「ありがとう」
「それで……アル様は?」

 レクトはアルベリクに話を振った。アルベリクのことだから、自分から言い出せないだろうと、気を遣っての事だったのだが。

「ん? 俺からは何もない」
「えっ。嘘だぁ……って本当ですか?」
「…………」

 黙々と食事を続けるアルベリクを苦笑いでセシルは見つめ、話題をそらそうとした。

「あ、ケーキをいただいてもいいですか? こんなに食べきれるかな?」
「あらあら。セシル。それは四人分なのだけれど……」

 メアリが困ったように言う。レクトは呆れていた。

「えっ。そうなんですか!?」
「食べたいなら全部食べてもいいぞ。レクトが作った服が着られなくなるかもしれないがな」
「それは……嫌です」

 結局、メアリに四等分に切ってもらった。
 セシルはフルーツタルトを頬張った。美味しい。

「セシルは本当に美味しそうに食べるわね。来年はどんなケーキにしようかしら」
「うーん。メアリさんの作るものなら何でもいいです」

 来年、セシルはそのころ、どこで何をしているだろう。

 十五歳の誕生日。二度も処刑された日。
 今度こそ生き抜くんだ。アルベリクと一緒に。
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