69 / 102
第六章 王子と指輪と誕生日
013 誕生日プレゼント
しおりを挟む
「セシル……?」
さっきまで触れていたその唇が、セシルの名を呼ぶ。
恥ずかしくて、セシルはうつ向いてアルベリクの胸に顔を埋めた。アルベリクの心音も、セシルのそれと同じように早く聞こえた。
「セシル。手、出して」
「え?」
アルベリクはセシルの左手を取り、薬指に指輪を嵌めた。
花びらの様な台座の真ん中に、アクアマリンの宝石が輝いている。その周りにも小さなダイヤがあしらわれていて、とても可愛いらしい指輪だ。
でも、なぜアクアマリンなのだろう。
「今日が誕生日だろ……気に入らなかったか?」
「えっ。う、嬉しいです」
「そうか? あんまり嬉しそうじゃないな」
嬉しいけれど、アクアマリンには嫌な思い出がある。
それに……。
「欲を言えば、青い宝石じゃなくて、緑が良かったです」
「緑?」
「アルベリク様の瞳の色と同じ、緑が良かったです」
セシルがそう言ってエメラルドの瞳を見つめると、アルベリクは珍しく狼狽えセシルから視線を反らした。
「なっ。そ、その……アクアマリンじゃなきゃ駄目なんだ」
「駄目?」
「いや。……お前の髪と瞳と同じだからいいだろ」
「それ、さっきクリス王子に言われました」
「……別のものを」
「いえ。結構です。これがいいです」
セシルは指輪を眺め、自然と笑みがこぼれた。
クリスから指輪をもらった時は、まるで死の宣告を受けたかのようだったのに。
さっきまであんなに恐くて泣いていたのが、嘘みたいだ。
でも、恐かっただけじゃない。
「あの。さっき私が泣いていたのは、アルベリク様に見られたのが嫌だったんです」
「何を?」
「クリス王子にキスされたのを」
「……どこに?」
「ここです」
セシルはアルベリクの唇を人差し指で触れた。
アルベリクの顔が怒りで引きつった。
「あいつ、北で会ったら殺してやる」
「だ、駄目です。そんなことしたら、アルベリク様はここに戻ってこれなくなります」
「戻ってきて欲しいか?」
「当たり前です」
アルベリクはじっとセシルの瞳を見つめるとベッドに押し倒した。甘えるような瞳で見つめられて、セシルは瞳を閉じた。
そしてアルベリクの吐息が顔に触れた時。
――トントンと扉がノックされた。
「あの。お夕食の準備が……随分前から出来ておりますが。いかがなさいますか?」
メアリの声に、アルベリクは勢いよくベッドから体を起こした。
「……すぐに行く。――セシル。指輪はロザリオに付けておけ。他の奴には言うなよ」
「は、はい」
◇◇
夕食はビーフシチュー。
それからケーキはフルーツタルトだった。
誕生日をこんな風にお祝いしてもらうのは初めてだ。
レクトは手縫いの新しいメイド服をプレゼントしてくれた。
いつの間に作ったのだろう。
「セシルも大分成長したからな。でも、サイズはピッタリの筈だぜ」
「ありがとう」
「それで……アル様は?」
レクトはアルベリクに話を振った。アルベリクのことだから、自分から言い出せないだろうと、気を遣っての事だったのだが。
「ん? 俺からは何もない」
「えっ。嘘だぁ……って本当ですか?」
「…………」
黙々と食事を続けるアルベリクを苦笑いでセシルは見つめ、話題をそらそうとした。
「あ、ケーキをいただいてもいいですか? こんなに食べきれるかな?」
「あらあら。セシル。それは四人分なのだけれど……」
メアリが困ったように言う。レクトは呆れていた。
「えっ。そうなんですか!?」
「食べたいなら全部食べてもいいぞ。レクトが作った服が着られなくなるかもしれないがな」
「それは……嫌です」
結局、メアリに四等分に切ってもらった。
セシルはフルーツタルトを頬張った。美味しい。
「セシルは本当に美味しそうに食べるわね。来年はどんなケーキにしようかしら」
「うーん。メアリさんの作るものなら何でもいいです」
来年、セシルはそのころ、どこで何をしているだろう。
十五歳の誕生日。二度も処刑された日。
今度こそ生き抜くんだ。アルベリクと一緒に。
さっきまで触れていたその唇が、セシルの名を呼ぶ。
恥ずかしくて、セシルはうつ向いてアルベリクの胸に顔を埋めた。アルベリクの心音も、セシルのそれと同じように早く聞こえた。
「セシル。手、出して」
「え?」
アルベリクはセシルの左手を取り、薬指に指輪を嵌めた。
花びらの様な台座の真ん中に、アクアマリンの宝石が輝いている。その周りにも小さなダイヤがあしらわれていて、とても可愛いらしい指輪だ。
でも、なぜアクアマリンなのだろう。
「今日が誕生日だろ……気に入らなかったか?」
「えっ。う、嬉しいです」
「そうか? あんまり嬉しそうじゃないな」
嬉しいけれど、アクアマリンには嫌な思い出がある。
それに……。
「欲を言えば、青い宝石じゃなくて、緑が良かったです」
「緑?」
「アルベリク様の瞳の色と同じ、緑が良かったです」
セシルがそう言ってエメラルドの瞳を見つめると、アルベリクは珍しく狼狽えセシルから視線を反らした。
「なっ。そ、その……アクアマリンじゃなきゃ駄目なんだ」
「駄目?」
「いや。……お前の髪と瞳と同じだからいいだろ」
「それ、さっきクリス王子に言われました」
「……別のものを」
「いえ。結構です。これがいいです」
セシルは指輪を眺め、自然と笑みがこぼれた。
クリスから指輪をもらった時は、まるで死の宣告を受けたかのようだったのに。
さっきまであんなに恐くて泣いていたのが、嘘みたいだ。
でも、恐かっただけじゃない。
「あの。さっき私が泣いていたのは、アルベリク様に見られたのが嫌だったんです」
「何を?」
「クリス王子にキスされたのを」
「……どこに?」
「ここです」
セシルはアルベリクの唇を人差し指で触れた。
アルベリクの顔が怒りで引きつった。
「あいつ、北で会ったら殺してやる」
「だ、駄目です。そんなことしたら、アルベリク様はここに戻ってこれなくなります」
「戻ってきて欲しいか?」
「当たり前です」
アルベリクはじっとセシルの瞳を見つめるとベッドに押し倒した。甘えるような瞳で見つめられて、セシルは瞳を閉じた。
そしてアルベリクの吐息が顔に触れた時。
――トントンと扉がノックされた。
「あの。お夕食の準備が……随分前から出来ておりますが。いかがなさいますか?」
メアリの声に、アルベリクは勢いよくベッドから体を起こした。
「……すぐに行く。――セシル。指輪はロザリオに付けておけ。他の奴には言うなよ」
「は、はい」
◇◇
夕食はビーフシチュー。
それからケーキはフルーツタルトだった。
誕生日をこんな風にお祝いしてもらうのは初めてだ。
レクトは手縫いの新しいメイド服をプレゼントしてくれた。
いつの間に作ったのだろう。
「セシルも大分成長したからな。でも、サイズはピッタリの筈だぜ」
「ありがとう」
「それで……アル様は?」
レクトはアルベリクに話を振った。アルベリクのことだから、自分から言い出せないだろうと、気を遣っての事だったのだが。
「ん? 俺からは何もない」
「えっ。嘘だぁ……って本当ですか?」
「…………」
黙々と食事を続けるアルベリクを苦笑いでセシルは見つめ、話題をそらそうとした。
「あ、ケーキをいただいてもいいですか? こんなに食べきれるかな?」
「あらあら。セシル。それは四人分なのだけれど……」
メアリが困ったように言う。レクトは呆れていた。
「えっ。そうなんですか!?」
「食べたいなら全部食べてもいいぞ。レクトが作った服が着られなくなるかもしれないがな」
「それは……嫌です」
結局、メアリに四等分に切ってもらった。
セシルはフルーツタルトを頬張った。美味しい。
「セシルは本当に美味しそうに食べるわね。来年はどんなケーキにしようかしら」
「うーん。メアリさんの作るものなら何でもいいです」
来年、セシルはそのころ、どこで何をしているだろう。
十五歳の誕生日。二度も処刑された日。
今度こそ生き抜くんだ。アルベリクと一緒に。
0
お気に入りに追加
397
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
結界魔法しか使えない役立たずの聖女と言うなら国を見捨てることにします
黒木 楓
恋愛
伯爵令嬢の私ミーシアは、妹のミリザに従う日々を送っていた。
家族はミリザを溺愛しているから、私を助ける人はいない。
それでも16歳になって聖女と判明したことで、私はラザン王子と婚約が決まり家族から離れることができた。
婚約してから2年が経ち、ミリザが16歳となって聖女と判明する。
結界魔法しか使えなかった私と違い、ミリザは様々な魔法が使えた。
「結界魔法しか使えない聖女は役立たずだ。俺はミリザを王妃にする」
婚約者を変えたいラザン王子の宣言と人々の賛同する声を聞き、全てが嫌になった私は国を見捨てることを決意する。
今まで国が繁栄していたのは私の結界があったからなのに、国の人達はミリザの力と思い込んでいた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる