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第六章 王子と指輪と誕生日
010 指輪探し
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セシルは部屋に戻ってアクアマリンの指輪を手にし、ハンカチに包見直してポケットの奥に仕舞い込んだ。
屋敷から出られず、手放すタイミングを逸してきたが、ついに最大のチャンスが訪れたのだ。
◇◇
セシルは今、ミリアと一緒に教会を訪れている。
ここはセシルが育った教会だ。クリスは教会巡りが趣味だそうで、ミリアは教会で指輪を探す担当だそうだ。
セシルはこの教会の出身だし、顔出しついでにお手伝いすることになった。ちなみに、クロードは貴金属を扱うお店で売りに出されていないか探しているらしい。
セシルはシスターと再会を喜び、そしてミリアが寄付金を渡し、尋ねた。
「この教会で、小さな青い宝石のついた指輪の落とし物はありませんでしたか?」
「指輪……ですか? 無いと思うわ」
「そうですか……」
ミリアは残念そうに教会を出て、セシルもそれに続いた。
「あの、ミリアさん。この教会、お庭が素敵なんです。庭も探してみませんか?」
「そうね。ここでもう三件目なのよ。他の教会も探したけれど、みんなハズレだったわ。もし見つけられたら、リリアーヌ様、喜ぶだろうに……」
ミリアの小さな背中に哀愁が漂っている。
しかし、ミリアさん。今日は当たりですよ。
なんて言いたいけれど、口が裂けても言えない。
教会の裏庭は少し荒れていた。
セシルが世話をしていないからか、雑草も多くお世辞にも綺麗とは言えなかった。
そう言えば、シスターは虫が苦手だったな。
と昔の事を思い出した。
「あまり綺麗ではないけれど……アーチもあるのね」
ミリアは庭の奥のアーチへ吸い込まれていった。
チャンス到来。セシルはアーチから出て、すぐの草の上に指輪を置いた。適当に砂を掛けてずっと置いてあったように見せかけて。
「ミリアさん。ありそうですか~?」
「うーん。見当たらないわ」
「私は井戸の方を探してみますね~」
さて。後はミリアが見つければ……。
「うーん……」
ミリアは指輪の横を通り過ぎていった。
しまった。砂をかけすぎてしまったかもしれない。
「あっ!……石だったわ」
ええー!? 足元にあるのに。
「み、ミリアさん。ありました~?」
「いいえ。まあ、そんな簡単には見つからないわよね」
「そうですね……って。あれれ? ミリアさんの足元が少し光ったような……」
さあ。気づいて、ミリアさん。
「……あら。これは……セシル!」
おお。ミリアさんに初めて名前を呼ばれた。
これはとても嬉しい。
「これかもしれないわ。青い宝石。それから中に刻まれた文字」
ミリアは今まで見たことがないくらいキラキラと瞳を輝かせていた。騙しているようで少し申し訳ないけれど、作戦成功です。
「凄いです。ミリアさん!」
「リリアーヌ様に報告しなくちゃ!」
◇◇
夜のハーブティーの時間。
今日はブレンドティーにした。
セシルがご機嫌なのはアルベリクにもすぐに伝わったようで、はっきりと聞かれた。
「セシル。俺が自称婚約者の高笑いで気分を害している間に、お前にはどんな良いことがあったんだ?」
「えへへ。オリヴィア様の高笑いは可愛いじゃないですか。ふふっ」
「気持ち悪い笑い方をするな。で、何を浮かれているんだ?」
忌まわしき指輪を手放すことが出来ました。とは、さすがに言えない。
「ミリアさんが、リリアーヌ様が探している指輪を見つけたんです。すっごく嬉しそうだったので、私も嬉しくて」
「アクアマリンの指輪……とか言っていたな。見つかったのか。……そうだ。セシルも持っているだろう? アクアマリンの指輪を。確か、親の形見なのだろう?」
「はい? も、持っていませんよ。そんなもの!」
あれ? アルベリクに見せたことは無いはず。
確かこの屋敷に来て、自分の部屋で目覚めてからあの指輪はずっと引き出しにしまっていた。
「いや。ロザリオに掛けていただろ? 無くしたのか?」
「いいえ。元から持っていません。私の親の形見は、このロザリオだけです!」
セシルは胸元からロザリオを取り出すと、アルベリクに見せた。アルベリクはどうも納得のいかない様子だ。
「そうか……なら、手を見せろ」
「手、ですか?」
セシルはアルベリクに右の手を差し出した。
急にどうしたのだろう。
「違う。左手だ」
「はい……」
アルベリクはセシルの薬指と自分の指を比べ始めた。
「小さいな。俺の小指と同じ大きさか……」
「アルベリク様の手は大きいですね」
手を重ねると、アルベリクよりセシルの手の方が一回り小さい。アルベリクの指は太いし、男の人の手だ。
「お前の手は冷たいな」
言ってアルベリクが指を少しずらして絡めてきた。
大きくて暖かい。
「ここに来たときより、大分マシになったな」
「?」
「ボロ雑巾からハンカチぐらいにはなった。でも背は変わらないな」
「ぅう。それ、すごく失礼ですよ。それに私、背も伸びてるんですからね。アルベリク様もレクトも、私よりどんどん伸びちゃうから気づいてないかもしれませんが」
「そうか……。セシルはここに来てそろそろ一年経つのか。あと少しだな」
「はい?」
「いや。何でもない。今日は疲れたからもう休む。セシルも下がっていいぞ」
「はい。失礼します」
セシルはアルベリクの書斎を後にした。
少し忘れていたが、来月でここに来て一年。
セシルは十四歳になるのだ。
屋敷から出られず、手放すタイミングを逸してきたが、ついに最大のチャンスが訪れたのだ。
◇◇
セシルは今、ミリアと一緒に教会を訪れている。
ここはセシルが育った教会だ。クリスは教会巡りが趣味だそうで、ミリアは教会で指輪を探す担当だそうだ。
セシルはこの教会の出身だし、顔出しついでにお手伝いすることになった。ちなみに、クロードは貴金属を扱うお店で売りに出されていないか探しているらしい。
セシルはシスターと再会を喜び、そしてミリアが寄付金を渡し、尋ねた。
「この教会で、小さな青い宝石のついた指輪の落とし物はありませんでしたか?」
「指輪……ですか? 無いと思うわ」
「そうですか……」
ミリアは残念そうに教会を出て、セシルもそれに続いた。
「あの、ミリアさん。この教会、お庭が素敵なんです。庭も探してみませんか?」
「そうね。ここでもう三件目なのよ。他の教会も探したけれど、みんなハズレだったわ。もし見つけられたら、リリアーヌ様、喜ぶだろうに……」
ミリアの小さな背中に哀愁が漂っている。
しかし、ミリアさん。今日は当たりですよ。
なんて言いたいけれど、口が裂けても言えない。
教会の裏庭は少し荒れていた。
セシルが世話をしていないからか、雑草も多くお世辞にも綺麗とは言えなかった。
そう言えば、シスターは虫が苦手だったな。
と昔の事を思い出した。
「あまり綺麗ではないけれど……アーチもあるのね」
ミリアは庭の奥のアーチへ吸い込まれていった。
チャンス到来。セシルはアーチから出て、すぐの草の上に指輪を置いた。適当に砂を掛けてずっと置いてあったように見せかけて。
「ミリアさん。ありそうですか~?」
「うーん。見当たらないわ」
「私は井戸の方を探してみますね~」
さて。後はミリアが見つければ……。
「うーん……」
ミリアは指輪の横を通り過ぎていった。
しまった。砂をかけすぎてしまったかもしれない。
「あっ!……石だったわ」
ええー!? 足元にあるのに。
「み、ミリアさん。ありました~?」
「いいえ。まあ、そんな簡単には見つからないわよね」
「そうですね……って。あれれ? ミリアさんの足元が少し光ったような……」
さあ。気づいて、ミリアさん。
「……あら。これは……セシル!」
おお。ミリアさんに初めて名前を呼ばれた。
これはとても嬉しい。
「これかもしれないわ。青い宝石。それから中に刻まれた文字」
ミリアは今まで見たことがないくらいキラキラと瞳を輝かせていた。騙しているようで少し申し訳ないけれど、作戦成功です。
「凄いです。ミリアさん!」
「リリアーヌ様に報告しなくちゃ!」
◇◇
夜のハーブティーの時間。
今日はブレンドティーにした。
セシルがご機嫌なのはアルベリクにもすぐに伝わったようで、はっきりと聞かれた。
「セシル。俺が自称婚約者の高笑いで気分を害している間に、お前にはどんな良いことがあったんだ?」
「えへへ。オリヴィア様の高笑いは可愛いじゃないですか。ふふっ」
「気持ち悪い笑い方をするな。で、何を浮かれているんだ?」
忌まわしき指輪を手放すことが出来ました。とは、さすがに言えない。
「ミリアさんが、リリアーヌ様が探している指輪を見つけたんです。すっごく嬉しそうだったので、私も嬉しくて」
「アクアマリンの指輪……とか言っていたな。見つかったのか。……そうだ。セシルも持っているだろう? アクアマリンの指輪を。確か、親の形見なのだろう?」
「はい? も、持っていませんよ。そんなもの!」
あれ? アルベリクに見せたことは無いはず。
確かこの屋敷に来て、自分の部屋で目覚めてからあの指輪はずっと引き出しにしまっていた。
「いや。ロザリオに掛けていただろ? 無くしたのか?」
「いいえ。元から持っていません。私の親の形見は、このロザリオだけです!」
セシルは胸元からロザリオを取り出すと、アルベリクに見せた。アルベリクはどうも納得のいかない様子だ。
「そうか……なら、手を見せろ」
「手、ですか?」
セシルはアルベリクに右の手を差し出した。
急にどうしたのだろう。
「違う。左手だ」
「はい……」
アルベリクはセシルの薬指と自分の指を比べ始めた。
「小さいな。俺の小指と同じ大きさか……」
「アルベリク様の手は大きいですね」
手を重ねると、アルベリクよりセシルの手の方が一回り小さい。アルベリクの指は太いし、男の人の手だ。
「お前の手は冷たいな」
言ってアルベリクが指を少しずらして絡めてきた。
大きくて暖かい。
「ここに来たときより、大分マシになったな」
「?」
「ボロ雑巾からハンカチぐらいにはなった。でも背は変わらないな」
「ぅう。それ、すごく失礼ですよ。それに私、背も伸びてるんですからね。アルベリク様もレクトも、私よりどんどん伸びちゃうから気づいてないかもしれませんが」
「そうか……。セシルはここに来てそろそろ一年経つのか。あと少しだな」
「はい?」
「いや。何でもない。今日は疲れたからもう休む。セシルも下がっていいぞ」
「はい。失礼します」
セシルはアルベリクの書斎を後にした。
少し忘れていたが、来月でここに来て一年。
セシルは十四歳になるのだ。
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