聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

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第六章 王子と指輪と誕生日

008 夕食会

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 ファビウス邸本館にて、当主エドワールはオリヴィアと夕食を共にしていた。エドワールの妻フィリーネ、リリアーヌとアルベリク、そしてディルクも一緒だ。

「エドワール様。先ほどのお願い、ご快諾いただけて嬉しく存じますわ」
「よいのですよ。オリヴィア様。お父上からも手紙をいただいていましたし、それより、こんな遠くまでよくいらっしゃいましたね」

 オリヴィアに笑顔で答えたのは、ファビウス家当主エドワール=ファビウスだ。アルベリクより年は三つ上で、真っ直ぐなアッシュブロンドの髪を肩まで伸ばした青年。

 その顔は穏やかな笑みを浮かべ、笑っているように見えるが、エメラルドの瞳は全く笑っていなかった。

 オリヴィアは知っていた。
 エドワールは女性が嫌いだと言うことを。

 それでもあえてオリヴィアはここへ来た。
 アルベリクの生家を見たいが為に。

「いいのですわ。未来の夫の生家を見たかっただけですから」

「「ぶほっ」」

 オリヴィアがそう言った瞬間に、アルベリクとディルクが同時にむせ返った。リリアーヌとエドワールは苦笑いである。

「オリヴィア様。ファビウス領から物資の支援も受けて、それから兵の準備もさせ、さらに家の大事な次男までもらっていこうとは……少し欲張り過ぎではないか?」

 エドワールの予想外の言葉に、オリヴィアは絶句した。

 次期当主と囁かれる自分の夫にと進言したのに、喜ばれないとは思ってもいなかった。
 流石、アルベリクの兄。攻めの姿勢にそそられた。

「あら。喜んでくださるかと思ったのですが?」
「私は嬉しく思いますわ。オリヴィア様」

 リリアーヌが言うと、エドワールはなにか思い出したように小さく頷いた。

「そうだな。オリヴィア様がアル狙いなら、クリス王子の婚約者候補が一人減るな」
「ちょっと。お兄様!?」
「まぁ。リリアーヌ様はクリス王子が……私でよかったら何でもお手伝いしますわ」
「そうですの? だったら――」

 リリアーヌはオリヴィアにアクアマリンの指輪の事を話した。それを聞くと、オリヴィアは内密にシュナイト領でも指輪を探すことを約束してくれた。

「見つかったら必ず、リリアーヌ様にお渡ししますわ」
「ええ。ありがとうございます」

 ◇◇

 食後に、アルベリクはエドワールに呼び止められた。

「アル。オリヴィア様、気に入っているのか?」
「いいえ」
「ぷっ。だろうな」

 アルベリクの即答に、エドワールは我慢できずに吹き出した。

「兄上。その笑い方、絶対に人前でしないでくださいね」
「ああ。大丈夫だよ。えっと、何の話だったかな?」
「オリヴィアの事かと」
「そうそう。いい縁談だとは思うけど、アルの好きにしろ。まだ正式にという訳でもないけどな。アルにはいるんだもんな。想い人が?」

 エドワールは女性に全く興味がない。
 本人は政略結婚で公爵家の令嬢を妻に向かえている。
 しかし何故かそういう話には鼻が利くのだ。

「止めてください」
「私には分からないよ。アルもリリアも、あの両親を見て育って、よく人を好きになろうと思えるよな。私には無理だな」
「……見方次第だと思いますよ」
「そうか。女性なんかに翻弄されて人生を棒に振るうような真似だけは、絶対にするなよ?」
「はい。兄上」

 アルベリクは兄の言葉に従順に言葉を返した。


 エドワールは父親を憎んでいる。

 母が亡くなった時に、その死を悼むことを許さなかった父を。いや。正確には――母の死を認めず、受け入れる事が出来なくて、死から目を背ける様にして、母の残した庭の手入れしかしなくなった父の事を。

 どんなに庭を美しく保とうとしても、母は帰ってこないのに。

 セシルが作った庭を見たら、エドワールは何というだろうか。あの庭をエドワールは嫌っているから、恐らく来ないとは思うが……。

 きっと。嫌な顔をするだろうな。
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