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第六章 王子と指輪と誕生日
007 北からのお客様
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あれから数日が過ぎ、アルベリクとレクトがシュナイト領から帰って来る日を迎えた。その後はクリスが現れることもなく、セシルはメアリと穏やかな日々を過ごしていた。
昼過ぎ頃、アルベリクとレクトは馬に乗って帰還した。
しかし、よく見ると意外な人物を連れていた。
「よ。セシルちゃん!」
「ディルク様!?」
なぜかディルクも一緒だったのだ。
しかしアルベリクの顔が冴えない。ディルクといる時は、いつも自然体なアルベリクだが、今日は違う。
何かあったのだろうか。
ディルクは庭を見ると感心した様子でセシルを見た。
「これがセシルちゃんの育てた庭か! いつもありがとうな。セシルちゃんの薬はよく効くし助かってるよ」
「嬉しいです。あの、今日はどうしてファビウス領に?」
「オリヴィア様の護衛だ。俺はアルベリクのところに泊めてもらうから、よろしく!」
「えええっ。オリヴィア様がいらしているんですか?」
アルベリクはオリヴィアの名前を聞くと眉間に深くシワを刻んだ。不機嫌の原因はオリヴィアだったのだ。
「セシル。ディルクは明日、シュナイト領へ戻る。俺は当分北へは行かなくなったから、向こうへ送る予定だった薬を用意しておいてくれるか?」
「はい。承知しました。あの、当分とは……アルベリク様は、ずっとファビウス領にいられるのですか?」
良かった。最近、月に一度はシュナイト領へ出ていたから不安だった。
クリスの事もあるし、アルベリクがいたら安心だ。
「……嬉しいのか?」
「えっ。それは……その」
下を向いてもじもじするセシルにアルベリクは口角を緩めた。
「ふん。俺のいない間、変わりはなかったか?」
「はい。変わりないです。あ、変わったことはありました」
アルベリクは今メアリ用語でいうフワフワ状態だ。
今なら怒られない。
どうせクリスの事はメアリが報告するだろう。
ならば先手を打って自分から知らせよう。
とセシルは考えたのだが。
アルベリクは急に目を細めて不機嫌になった。
「後で聞かせろ」
「……はい」
◇◇
アルベリクはディルクとオリヴィアと共に本館での夕食へ招かれていった。
西館に残ったセシルは、メアリとレクトそしてハロルドと一緒に夕食をいただいていた。三人の中に当たり前のようにいるハロルドには、不思議と違和感がない。
「あの。ハロルドさんは、どうして私達と食事をとっているんですか?」
「え? 僕さ、ああいう会食っぽいの苦手なんだよね~。ライラがいるし、ディルク様もいるし、僕はいらないでしょ。ははは」
「じゃあ何でファビウス領まで付いてきたんです?」
「えー。公爵家のご息女様をメイドと騎士見習いだけで送り出せるわけないだろ?」
それにこのハロルドが付いてもあまり変わらない気がする。
セシルの疑いの眼差しをハロルドは笑顔で交わす。
しかし、レクトは真面目な顔で言った。
「セシル。お前、ハロルドさんに失礼だろ」
「何で? ハロルドさんだって、私と同じくらいどんくさいでしょ?」
「はぁ……セシルはどんくさいけどさ、ハロルドさんはセシルに合わせてあげてるだけだからな。本当はすんっごく出来る人だからな!」
その言葉に、ハロルドはニヤニヤして、肘でレクトをつついた。
「えー。レクト。それ、褒めてる? 褒めてもなにも出ないよ?」
「褒めてますよ! ハロルドさんは九割ヤル気ないモードだけど、ヤル気モードの一割は凄いんだからな!」
レクトはそう熱弁するけれど……。
「それって……結局使えない人じゃないかな」
セシルが突っ込みを入れると、ハロルドが大袈裟に泣いたふりをした。
「うわ~。セシル酷いよ。落ち込むな~」
わざとレクトの袖で涙を拭くハロルドを見て、メアリは微笑んだ。
「あらあら。みんな仲がいいのね」
「そうですか? まぁ、ハロルドさんが凄いかも、ってことは置いといて。どうしてオリヴィア様がファビウス領へいらしたの?」
「あー。それはね。シュナイト領はこのところ長雨が続いて作物があまり取れなくてね。近隣の国も同じ状況で、食料をファビウス領から支援してもらいたくて、オリヴィア様がわざわざここまで来たんだよ」
「そうなんだ……」
やっぱり。シュナイト領は作物不足なんだ。
やり直す前と同じだ。きっとまた、争いは起きるのだろう。
「そうそう。ここの当主ってさ。どんな人? さっきチラッと見たんだけど、気配が薄くて良く分かんなかったんだよね」
「え……?」
ハロルドは首を捻り考え込んでいるが、セシルはその当主に会ったことがないので、想像もつかなかった。
「セシルはお会いしたことがないわよね。エドワール様に」
「アルベリク様をもっと怖くした感じだよ」
レクトがさらっと問題発言をした。
「えええっ!?」
「レクトったら。嘘はいけません。エドワール様は、物腰が柔らかくて聡明で、ファビウス家を担うに相応しいお方よ」
「ふーん。──おっ。このビーフシチュー美味しいなぁ~」
それを聞くと、ハロルドは急にいつもの笑顔で食事を再開した。その横でレクトが笑っているから、さっきのはきっと冗談だったのだろう。きっと。
昼過ぎ頃、アルベリクとレクトは馬に乗って帰還した。
しかし、よく見ると意外な人物を連れていた。
「よ。セシルちゃん!」
「ディルク様!?」
なぜかディルクも一緒だったのだ。
しかしアルベリクの顔が冴えない。ディルクといる時は、いつも自然体なアルベリクだが、今日は違う。
何かあったのだろうか。
ディルクは庭を見ると感心した様子でセシルを見た。
「これがセシルちゃんの育てた庭か! いつもありがとうな。セシルちゃんの薬はよく効くし助かってるよ」
「嬉しいです。あの、今日はどうしてファビウス領に?」
「オリヴィア様の護衛だ。俺はアルベリクのところに泊めてもらうから、よろしく!」
「えええっ。オリヴィア様がいらしているんですか?」
アルベリクはオリヴィアの名前を聞くと眉間に深くシワを刻んだ。不機嫌の原因はオリヴィアだったのだ。
「セシル。ディルクは明日、シュナイト領へ戻る。俺は当分北へは行かなくなったから、向こうへ送る予定だった薬を用意しておいてくれるか?」
「はい。承知しました。あの、当分とは……アルベリク様は、ずっとファビウス領にいられるのですか?」
良かった。最近、月に一度はシュナイト領へ出ていたから不安だった。
クリスの事もあるし、アルベリクがいたら安心だ。
「……嬉しいのか?」
「えっ。それは……その」
下を向いてもじもじするセシルにアルベリクは口角を緩めた。
「ふん。俺のいない間、変わりはなかったか?」
「はい。変わりないです。あ、変わったことはありました」
アルベリクは今メアリ用語でいうフワフワ状態だ。
今なら怒られない。
どうせクリスの事はメアリが報告するだろう。
ならば先手を打って自分から知らせよう。
とセシルは考えたのだが。
アルベリクは急に目を細めて不機嫌になった。
「後で聞かせろ」
「……はい」
◇◇
アルベリクはディルクとオリヴィアと共に本館での夕食へ招かれていった。
西館に残ったセシルは、メアリとレクトそしてハロルドと一緒に夕食をいただいていた。三人の中に当たり前のようにいるハロルドには、不思議と違和感がない。
「あの。ハロルドさんは、どうして私達と食事をとっているんですか?」
「え? 僕さ、ああいう会食っぽいの苦手なんだよね~。ライラがいるし、ディルク様もいるし、僕はいらないでしょ。ははは」
「じゃあ何でファビウス領まで付いてきたんです?」
「えー。公爵家のご息女様をメイドと騎士見習いだけで送り出せるわけないだろ?」
それにこのハロルドが付いてもあまり変わらない気がする。
セシルの疑いの眼差しをハロルドは笑顔で交わす。
しかし、レクトは真面目な顔で言った。
「セシル。お前、ハロルドさんに失礼だろ」
「何で? ハロルドさんだって、私と同じくらいどんくさいでしょ?」
「はぁ……セシルはどんくさいけどさ、ハロルドさんはセシルに合わせてあげてるだけだからな。本当はすんっごく出来る人だからな!」
その言葉に、ハロルドはニヤニヤして、肘でレクトをつついた。
「えー。レクト。それ、褒めてる? 褒めてもなにも出ないよ?」
「褒めてますよ! ハロルドさんは九割ヤル気ないモードだけど、ヤル気モードの一割は凄いんだからな!」
レクトはそう熱弁するけれど……。
「それって……結局使えない人じゃないかな」
セシルが突っ込みを入れると、ハロルドが大袈裟に泣いたふりをした。
「うわ~。セシル酷いよ。落ち込むな~」
わざとレクトの袖で涙を拭くハロルドを見て、メアリは微笑んだ。
「あらあら。みんな仲がいいのね」
「そうですか? まぁ、ハロルドさんが凄いかも、ってことは置いといて。どうしてオリヴィア様がファビウス領へいらしたの?」
「あー。それはね。シュナイト領はこのところ長雨が続いて作物があまり取れなくてね。近隣の国も同じ状況で、食料をファビウス領から支援してもらいたくて、オリヴィア様がわざわざここまで来たんだよ」
「そうなんだ……」
やっぱり。シュナイト領は作物不足なんだ。
やり直す前と同じだ。きっとまた、争いは起きるのだろう。
「そうそう。ここの当主ってさ。どんな人? さっきチラッと見たんだけど、気配が薄くて良く分かんなかったんだよね」
「え……?」
ハロルドは首を捻り考え込んでいるが、セシルはその当主に会ったことがないので、想像もつかなかった。
「セシルはお会いしたことがないわよね。エドワール様に」
「アルベリク様をもっと怖くした感じだよ」
レクトがさらっと問題発言をした。
「えええっ!?」
「レクトったら。嘘はいけません。エドワール様は、物腰が柔らかくて聡明で、ファビウス家を担うに相応しいお方よ」
「ふーん。──おっ。このビーフシチュー美味しいなぁ~」
それを聞くと、ハロルドは急にいつもの笑顔で食事を再開した。その横でレクトが笑っているから、さっきのはきっと冗談だったのだろう。きっと。
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