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第六章 王子と指輪と誕生日
002 一度目の最期
しおりを挟む この虚しさは何だろうな。
いや、ずっと感じてた。埋まらない穴が胸にあってスースーしていた。
でもそれを一生懸命埋めてくれようとした人達がいた。
母ちゃんや婆さんや尚も。近所のおばさんや、肉屋のご主人やタバコ屋の奥さんも。小学生の頃から何かにつけ遊びに連れて出してくれた。春になるとタケノコ堀に連れて行ってくれたり、土手に土筆取りに行ったり、カブトの幼虫のいる場所教えてくれたり、一緒に川に泳ぎに連れて行ってくれたり。
本当は父ちゃんがしないと行けない事、全部他人がしてくれた。
わかってんのかよ。何が弱い者いじめは楽しいだよ。
お前が
お前が1番
ガキじゃねえか!
俺はモコが大好きなネーブルの木から手探りで実を一つ引き千切った。まだ熟していないやつは固い。
野球のボールくらいには.................
「なんだよ。それで何かすんのか?いいぞ。投げてみろ。当たんねーよ。バーカ。ミカンなんて痛くねーぞ。ははははは!」
「じゃあ、受けてみろ」
俺は尚の革ジャンをボトリと落とし構えた。
これでダメなら死ぬかもしれない。母ちゃん大丈夫かな.........尚警察呼んでくれたかな?
モコ......最後に会いたい。モコが居たから、俺......頑張れた。俺より弱かったから。
だから守らなきゃって........
ネーブルをぎゅっと握り、振りかぶって渾身の力を込めて放った。
あいつの顔面に向かって
俺にはこんな事しか出来ないけど。
「コントロールは抜群だったんだよ。馬鹿野郎」
ガンッ!
奴の顔が吹き飛ぶ。弾かれたネーブルは屋根にバウンドして消えて行った。
今だ!
俺は尚の革ジャンを地面から引ったくり父ちゃんの脇をすり抜ける。
「モコーーーー!」
「こっちだ!」
「尚!」
「バッカ!心配さすな!」
「ごめん。尚。母ちゃんは.......」
「わからん。だがモコは居た。あの石垣の下にうずくまってた」
「怪我、してるのか?」
「前足が切られてたけど体は大丈夫そうだ」
「モコ.................!」
「警察は連絡した。すぐ来ると思う。刃物持ってるって言っといたから」
「どうしよう。家の中に母ちゃんが。尚.....俺....」 怖い....
「.................俺が見て来る。お前はモコを連れて道路に出とけ。警察来るから。待ってろ。いいな?」
そう言うと尚は家の中に入って行った。
俺は一瞬呆けた。
なんだよ。なんでそんな.....カッコいい事出来んだよ。悔しいよ。尚.................!
「きゅーん....」
ハッ!
「モコ!」
モコは右足をぴょこぴょことびっこを引きながら俺に近づいて来る。俺は急いでモコを担ぎ上げ、踵を返して道路に向かって走り出した。
「ああ!モコ!ごめんな。痛い思いさせて。俺が守らなきゃいけなかったのに!」
モコは俺の顔を弱々しくペロペロ舐める。血の匂いがした。
鼻が痛い。喉がヒリヒリする。額が熱い。唇が震える。悔しくて、悔しくて、悔しくて.................
門を出た所でパトカーの回転灯のチカチカする光が見えた。音はしてない。夜だからか?でも、間に合った?段々近づいて来た。これで助かる。いや、母ちゃんは?兎に角父ちゃんさえ捕まれば........
「あーーーーーーーーーーあああああーーー!!!」
俺はビクリと固まる。
突然背後から大声量の男の声がこだまする。
目を先行させゆっくり振り返りそれを見る。
下を向きながらゆらりゆらりと歩いて来た。
それは金属バットと
片手に..............ナイフを持った
怪物だった。
いや、ずっと感じてた。埋まらない穴が胸にあってスースーしていた。
でもそれを一生懸命埋めてくれようとした人達がいた。
母ちゃんや婆さんや尚も。近所のおばさんや、肉屋のご主人やタバコ屋の奥さんも。小学生の頃から何かにつけ遊びに連れて出してくれた。春になるとタケノコ堀に連れて行ってくれたり、土手に土筆取りに行ったり、カブトの幼虫のいる場所教えてくれたり、一緒に川に泳ぎに連れて行ってくれたり。
本当は父ちゃんがしないと行けない事、全部他人がしてくれた。
わかってんのかよ。何が弱い者いじめは楽しいだよ。
お前が
お前が1番
ガキじゃねえか!
俺はモコが大好きなネーブルの木から手探りで実を一つ引き千切った。まだ熟していないやつは固い。
野球のボールくらいには.................
「なんだよ。それで何かすんのか?いいぞ。投げてみろ。当たんねーよ。バーカ。ミカンなんて痛くねーぞ。ははははは!」
「じゃあ、受けてみろ」
俺は尚の革ジャンをボトリと落とし構えた。
これでダメなら死ぬかもしれない。母ちゃん大丈夫かな.........尚警察呼んでくれたかな?
モコ......最後に会いたい。モコが居たから、俺......頑張れた。俺より弱かったから。
だから守らなきゃって........
ネーブルをぎゅっと握り、振りかぶって渾身の力を込めて放った。
あいつの顔面に向かって
俺にはこんな事しか出来ないけど。
「コントロールは抜群だったんだよ。馬鹿野郎」
ガンッ!
奴の顔が吹き飛ぶ。弾かれたネーブルは屋根にバウンドして消えて行った。
今だ!
俺は尚の革ジャンを地面から引ったくり父ちゃんの脇をすり抜ける。
「モコーーーー!」
「こっちだ!」
「尚!」
「バッカ!心配さすな!」
「ごめん。尚。母ちゃんは.......」
「わからん。だがモコは居た。あの石垣の下にうずくまってた」
「怪我、してるのか?」
「前足が切られてたけど体は大丈夫そうだ」
「モコ.................!」
「警察は連絡した。すぐ来ると思う。刃物持ってるって言っといたから」
「どうしよう。家の中に母ちゃんが。尚.....俺....」 怖い....
「.................俺が見て来る。お前はモコを連れて道路に出とけ。警察来るから。待ってろ。いいな?」
そう言うと尚は家の中に入って行った。
俺は一瞬呆けた。
なんだよ。なんでそんな.....カッコいい事出来んだよ。悔しいよ。尚.................!
「きゅーん....」
ハッ!
「モコ!」
モコは右足をぴょこぴょことびっこを引きながら俺に近づいて来る。俺は急いでモコを担ぎ上げ、踵を返して道路に向かって走り出した。
「ああ!モコ!ごめんな。痛い思いさせて。俺が守らなきゃいけなかったのに!」
モコは俺の顔を弱々しくペロペロ舐める。血の匂いがした。
鼻が痛い。喉がヒリヒリする。額が熱い。唇が震える。悔しくて、悔しくて、悔しくて.................
門を出た所でパトカーの回転灯のチカチカする光が見えた。音はしてない。夜だからか?でも、間に合った?段々近づいて来た。これで助かる。いや、母ちゃんは?兎に角父ちゃんさえ捕まれば........
「あーーーーーーーーーーあああああーーー!!!」
俺はビクリと固まる。
突然背後から大声量の男の声がこだまする。
目を先行させゆっくり振り返りそれを見る。
下を向きながらゆらりゆらりと歩いて来た。
それは金属バットと
片手に..............ナイフを持った
怪物だった。
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