聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

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第四章 二人きりでの馬車の旅

010 約束?

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「で、何で俺が憧れの女の子なんだ?」
「えっとですね……」

 馬車に戻るなり、アルベリクの尋問が始まった。

 セシルは、教会に訪れていたアルベリクを女の子だと勘違いしていたことを正直に話した。お人形さんみたいに可愛くて、健気で献身的なその姿に、憧れを抱いていたことも。

 アルベリクは頭を抱えてうつ向き、その表情は見えないが、耳が赤いことだけはセシルにも分かった。
 メアリは外の方が厳しくなると行っていたが、屋敷の時より話しやすい気がする。

 しばらくうつ向いていたアルベリクだが、やっと整理がついたのか、顔を上げた。

「今の俺は女に見えるか?」
「いいえ。滅相もございません」
「そうか……だからお前は……。いや。何でもない」

 アルベリクはセシルからフイッと目をそらす。
 そして何も言わずにカーテンの閉じた窓をずっと見続けていた。

 結局、アルベリクは、どうしてセシルの前に現れたのだろう。
 セシルを迎えに来てくれたのかそれとも……。

「あの。アルベリク様は……あの時の約束で、私を迎えに来てくれたんですか?」
「そ、そんなこと、もう忘れた。知らん」

 こちらに目も向けず、焦った様に早口で言うアルベリク。
 約束はちゃんと覚えているようだ。
 でも、知らないふりをすると言うことは、もう一つの用件で来たのかもしれない。セシルはそう思った。

「そうなんですね。じゃあ……」

 セシルは膝を揃えて両手で自分の膝をポンポンと叩く。
 セシルから視線を反らしていたアルベリクだが、膝を叩く音に釣られてセシルに目を向けた。
 そして唖然とした様子で固まった。

「な、何してるんだ?」
「泣きたいことでもありましたか? 私でよかったら、どうぞ」

 セシルはまた膝をポンと叩いた。

 泣きたくなったら来るとアルベリクは言っていた。
 メアリの話でも、セシルを連れてきた日にアルベリクが急に泣き出したと聞いていた。

 きっと、泣きたいことがあって、セシルに会いに来たんだ。
 しかし、目の前のアルベリクは口をパクパクしてしどろもどろとしている。

 ――おかしいな。違ったかな?

「あの……違いましたか?」
「……さ、さっきまで泣いてた奴の膝なんか借りられるか!? 今はいい!!」

 今は必要ではないようだ。それもそうか。
 メアリの話はもう二ヶ月も前の話なのだから。

「必要だったら言ってくださいね」
「……それより、野盗なんかに傷薬をやった癖に、俺には何もないのか?」
「け、怪我したんですか!?」

 アルベリクは右の手の甲を指差した。
 確かに、少しだけ赤くなっているような。

「傷薬、塗りますね」

 セシルはアルベリクの隣に座り手の甲にお手製の傷薬を塗っていった。アルベリクは相変わらずそっぽを向いたままである。

「終わりましたよ」
「ああ……。セシル」
「はい?」

 立ち上がろうとしたセシルの手を引き席に戻すと、アルベリクは頭をセシルの肩にコツンっと預けた。

「疲れた。肩を貸せ」
「えっ」
「膝はいいのに肩は駄目なのか?」
「いえ。どうぞどうぞ……」

 アルベリクのサラサラの髪がセシルの頬にかかる。
 これは何でしょうか。
 聖女の時も長く一緒にいた気がしていたのに。
 こんな姿は見たことが無かった。
 野良猫に懐かれたみたいな、何だか変な感じだ。

 アルベリクは今何を考えているのだろう。
 そう思った時、馬車が足を止めた。

『坊ちゃま~。町に着いたっすよ~』
「ちっ……」

 アルベリクは舌打ちして立ち上がった。
 そしてセシルに手を伸ばす。

「ほら、行くぞ」
「はい……」

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