聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

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第一部 序章 聖女セシルが終わる時

001 婚約破棄

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「セシル。君との婚約を解消するよ。この城から出て行ってくれ」

 この国の第二王子──クリストファ=プレヴェールは、目の前の少女にそう告げた。

 少女の名はセシル。
 教会で人々の傷を癒し、聖女として皆から愛された少女。

 今宵は王子と婚約したセシルを御披露目するパーティーだった。しかし、皆の前で王子が発した台詞は、セシルの予想だにしないものだった。

 セシルは胸のロザリオを震える手で握りしめ、その場に崩れ落ちた。
 なぜ王子がそんな事を言うのか、思い当たる節が一つもない。

 驚きのあまり声もでないセシルに、王子の隣で微笑む妖艶な女性が歩み寄った。

「聖女様? いいえ、セシル。よくもクリス様を騙しましたわね?」

 セシルはその女性──リリアーヌ=ファビウスを見上げた。艶やかなブロンドの髪を揺らし、エメラルド色の瞳は鋭くセシルを睨み付けている。

 リリアーヌはクリスの元婚約者。彼女に恨まれても仕方がないとは思うが、セシルは王子を騙してなどいない。

 しかしリリアーヌは何故そんな事を言ったのか。
 戸惑うセシルにリリアーヌは勝ち誇った笑みを溢し、会場の皆に向かって声を張り上げた。

「皆様!! この者はクリス様を騙していたのです。今、王は床に伏していらっしゃいます。それは、この者が育てた青い薔薇の毒のせいなのです!」
「そ、そんな。薔薇に毒なんて……」
「黙りなさい。言い訳をしても無駄よ。魔法はこの国では禁忌とされる。あなたは、他国の間者なのでしょう?」
「違うわ。私はただ、皆の傷を癒やしていただけよ」
 
 リリアーヌは鼻で笑うと、セシルの左手の薬指にはめられたアクアマリンの指輪を恨めしそうに睨みつけた。
 この指輪は、セシルの髪と瞳と同じ色だと言って、王子から頂いた物だ。

「あなたにその指輪は、相応しくないわ。ただの庶民のままなら、決して手にすることが出来なかったでしょうね? 聖女という皮を被った化け物で良かったわね。ほんのひとときでも、クリス様の隣に居座れたのだから」
「そんな……」

 これは、聖女だから貰ったものではない。
 は、聖女になってから貰ったけれど、のあの時は、教会で暮らすただの村娘だった時に貰っていた。

 誰にも言えないでいたが、十三歳の誕生日を境に、セシルには二つの記憶が存在する。

 一つ目の記憶の時は、聖女ではなく普通の少女だった。ただし、魔法が使えることを除いて。
 そして十五歳の誕生日に、異端者と罵られ魔女として処刑されてしまった。

 しかし、どうしてか分からないが、死んだはずなのに目が覚めると、十三歳の誕生日に戻っていたのだ。前の記憶で貰ったアクアマリンの指輪と共に。

 セシルは村娘だった時の記憶を思い出し、あることに気付いた。
 今日は前の自分が処刑された、十五歳の誕生日であることに。

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