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033 サリュウス親子
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馬車に乗り込むと不思議なことが起こりました。
数十年後のルシアンといっても過言ではない男性が乗っていたのです。
そして、私より先に乗り込んだはずのサリュウス伯爵の姿が見えません。ということは……。
「まぁ、そういうことだ。私がルシアンの父だ。シェーラ」
「ふ、不束者ですが、よろしくお願い致します」
「ふっ。他に突っ込みたいところはないのか? 君はいつも挨拶が先なのだな」
穏やかな微笑みはルシアンそっくりでした。
「父は、精霊との契約の制約で国外ではあの姿になってしまうんだ。だが、サリュウスの領土と、この馬車の中は本来の姿で過ごせる」
「はぁ。やっと身体が軽い。息子の笑顔も久々に見れたし、清々しい心で帰国できるな。昨日までは酷い顔をしていたのだよ。婚約者がどうこう言いながら」
「父上。その話は良いですから」
恥ずかしそうに話を遮るルシアンに伯爵は満足そうに微笑んでいます。家族仲は大変良いのだと、このやらりとりだけでも感じてしまいました。
「しかし良かったではないか。私は鈴蘭が選んだもの以外は決して受け入れるつもりはなかった。だが、鈴蘭は間違っていなかったのだ。はっはっはっはっ」
「あの。フェミューは……」
「国に帰れば会える。鈴蘭の精霊は、一輪の鈴蘭を仮宿にして国を離れていたが、それを失った今、産まれた本来の鈴蘭の元へ帰っている。姉妹たちとも会えただろう」
「良かった……」
胸につかえていた不安が消えホッと息を吐くと、伯爵は私を不思議そうに凝視しながら言いました。
「まさか。鈴蘭が選んだのが君だったとはな。あの精霊は、私を嫌い何も話してくれなかったが、今思えば、あの事故で君が無傷だった時に気付くべきだった」
「フェミューが、私を助けてくれたのですか?」
「おそらくな。会った時に尋ねてみると良い。それよりルシアン。指輪は渡さないのか? ちゃんと指に嵌めてやらんと、婚約したことにしないからな」
ルシアンは指輪ケースを握り締め伯爵の熱い視線を不満そうに睨み返しました。
「……後で、二人の時に渡します」
「ええー。見たかったなぁ」
「そういう目で見てくるから嫌なんですよ」
「はっはっはっ。シェーラ。実を言うと、ルシアンは母国ではモテモテでな。言い寄られる度に冷やかしておったら、嫌われそうになってしまって留学させたのだ」
「分かってるなら止めてください。――あ、シェーラ。別に俺が好意を寄せられていた訳ではないから。サリュウス伯爵家と懇意になりたい輩が多かっただけだから」
ルシアンは必死になって弁明してくれているのですが、その様子を見て伯爵がニヤニヤしている事の方が気になってしまいます。
「これからはシェーラがいるから、母国でもゆっくり勉学に励むことが出来そうだよ」
「甘いなルシアン。帰国したら盛大に婚約式を開くぞ。指輪の受け渡しはその時まで取っておきなさい。私も間近で凝視してやろう」
「それって、ただご自身が見たいからだけじゃないですか?」
「それもあるが、やはり今後の為に国中の者にサリュウス伯爵家の花嫁を紹介せねば! 婚約者がいると知っても言い寄ってきた輩共だぞ。また言い寄られるぞ?」
「…………」
「シェーラ。君も心して置くがいい。我が国には、君の指を切り落としてでも婚約指輪を奪おうとする輩が山程いるぞ!」
「父上っ! シェーラを脅さないでください」
「しかし、ほぼ本当のことだ。だから婚約式を開くのだ。鈴蘭の精霊に選ばれた婚約者として大々的に掲げ、今後誰からも邪魔されぬよう地盤を固め、安寧を手に入れる為に!」
伯爵の熱弁に私とルシアンは顔を見合わせ、どちらからとなく笑みを溢しました。
数十年後のルシアンといっても過言ではない男性が乗っていたのです。
そして、私より先に乗り込んだはずのサリュウス伯爵の姿が見えません。ということは……。
「まぁ、そういうことだ。私がルシアンの父だ。シェーラ」
「ふ、不束者ですが、よろしくお願い致します」
「ふっ。他に突っ込みたいところはないのか? 君はいつも挨拶が先なのだな」
穏やかな微笑みはルシアンそっくりでした。
「父は、精霊との契約の制約で国外ではあの姿になってしまうんだ。だが、サリュウスの領土と、この馬車の中は本来の姿で過ごせる」
「はぁ。やっと身体が軽い。息子の笑顔も久々に見れたし、清々しい心で帰国できるな。昨日までは酷い顔をしていたのだよ。婚約者がどうこう言いながら」
「父上。その話は良いですから」
恥ずかしそうに話を遮るルシアンに伯爵は満足そうに微笑んでいます。家族仲は大変良いのだと、このやらりとりだけでも感じてしまいました。
「しかし良かったではないか。私は鈴蘭が選んだもの以外は決して受け入れるつもりはなかった。だが、鈴蘭は間違っていなかったのだ。はっはっはっはっ」
「あの。フェミューは……」
「国に帰れば会える。鈴蘭の精霊は、一輪の鈴蘭を仮宿にして国を離れていたが、それを失った今、産まれた本来の鈴蘭の元へ帰っている。姉妹たちとも会えただろう」
「良かった……」
胸につかえていた不安が消えホッと息を吐くと、伯爵は私を不思議そうに凝視しながら言いました。
「まさか。鈴蘭が選んだのが君だったとはな。あの精霊は、私を嫌い何も話してくれなかったが、今思えば、あの事故で君が無傷だった時に気付くべきだった」
「フェミューが、私を助けてくれたのですか?」
「おそらくな。会った時に尋ねてみると良い。それよりルシアン。指輪は渡さないのか? ちゃんと指に嵌めてやらんと、婚約したことにしないからな」
ルシアンは指輪ケースを握り締め伯爵の熱い視線を不満そうに睨み返しました。
「……後で、二人の時に渡します」
「ええー。見たかったなぁ」
「そういう目で見てくるから嫌なんですよ」
「はっはっはっ。シェーラ。実を言うと、ルシアンは母国ではモテモテでな。言い寄られる度に冷やかしておったら、嫌われそうになってしまって留学させたのだ」
「分かってるなら止めてください。――あ、シェーラ。別に俺が好意を寄せられていた訳ではないから。サリュウス伯爵家と懇意になりたい輩が多かっただけだから」
ルシアンは必死になって弁明してくれているのですが、その様子を見て伯爵がニヤニヤしている事の方が気になってしまいます。
「これからはシェーラがいるから、母国でもゆっくり勉学に励むことが出来そうだよ」
「甘いなルシアン。帰国したら盛大に婚約式を開くぞ。指輪の受け渡しはその時まで取っておきなさい。私も間近で凝視してやろう」
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「しかし、ほぼ本当のことだ。だから婚約式を開くのだ。鈴蘭の精霊に選ばれた婚約者として大々的に掲げ、今後誰からも邪魔されぬよう地盤を固め、安寧を手に入れる為に!」
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