姉の私が身代わりで醜い伯爵のご子息に嫁ぐことになりましたが、その方は私の好きな人で妹の初恋の方でした

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031 偽りの加護

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「愛?」
「はい。私はただの身代わりで偽物かもしれません。ですが、この気持ちは本物なのです」
「父上。鈴蘭の加護はガブリエラのものかもしれない。でも、鈴蘭の精霊が俺とシェーラに力を貸してくれた。父に認められるように、偽りの加護を与えてくれた」
「…………」

 ルシアンの言葉を聞くと、伯爵は無言のまま、地面からズルズルと両手の幹を引き抜き始めました。


「鈴蘭は、死にかけたガブリエラとその母を助ける為に加護を与えただけなのではないのですか? 本当は――」 
「違う。あの時、鈴蘭は鉢植えを飛び出し暴走した馬車を追った。鈴蘭は自ら選んだのだ。あの者がサリュウス家に相応しいと」

 伯爵は腰を抜かして近衛騎士に支えられるガブリエラへと視線を伸ばした。

「そ、そそそそうよっ。わたくしが鈴蘭に選ばれた婚約者よ! でも、お姉様はルシアン様のことが好きで、王子を誑かしてわたくしを王命で縛り付け、婚約者の座を奪おうとしましたの!」
「ほう……」
「ですが、わたくしは王子を説得して王命を取り下げていただきましたの。そして、王子はわたくしとサリュウス伯爵との婚約が滞りなく行われるようにいらしてくださったのですわ!」
「なるほど、お前の姉は私を騙したそうだが、お前は違うのだな。その言葉に嘘はないな」
「ええ。もちろん。わたくしは姉とは違いますわ。わたくしは泣く泣く、サリュウス伯爵からいただいたドレスを着ることが出来なかったのです。わたくしは……」

 ガブリエラの涙に、王子は呆れたように溜息を漏らし、周りの近衛騎士達はボロボロと泣き始めました。
 そして、伯爵は更にガブリエラに問いました。

「ならば何故、姉に力を貸すように鈴蘭に命じたのだ?」
「え? わたくしは、お姉様に力なんて貸していませんわ」
「お前が命じだのだろう。そうでなれけば……」

 伯爵は言葉を濁し、ゆっくりとフェミューに視線を落としました。

「鈴蘭よ。お前は何故、加護を与えなかった娘に力を貸すのだ?」
『シェーラが一番大切だからよ! 私はずっとシェーラの願いを叶えてきたの。たとえ伯爵がシェーラを認めなくても、国に戻れなくてもいい。これからもずっとシェーラと一緒にいるわ』

 フェミューは私の前に浮かび上がり、伯爵に向かって宣言すると、やっと言ってやったぞ。と自慢げな顔で私の元へ戻ってきました。
 ガブリエラは、微笑む私を理解できないといった表情で睨んでいます。

「さっきから鈴蘭に向かって話しかけていますけど、何をしていらっしゃいますの?」

 フェミューを撫でる私に、ガブリエラが馬鹿にしたように尋ねると、伯爵はじっとガブリエラを見据え聞きました。

「お前にはこれが見えないのか?」
「はい? 見えていますわ。それは鈴蘭の鉢植えですわ」

 ガブリエラの答えを聞くと、伯爵はミシミシと音を立てながら腹を抱えて笑い出しました。

「……くっはっはっはっはっ。そうか。お前は加護があるだけなのだな」
「は?」

 ガブリエラは不気味な笑い声を響かせる伯爵に呆然と首を傾げました。 

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