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029 王子の用件
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サリュウス伯爵を迎える準備は粛々と行われました。
私はガブリエラに用意された漆黒のドレスを着て、普段よりも濃い目の化粧を施されました。ドレスの刺繍は、フェミューが私の髪色に合わせて金糸に変えてくれました。それでも、この豪華なドレスは私には釣り合っていないように感じてしまいます。
身なりを整え終わった時、自室のドアがノックされ、意外な方が訪ねてきました。
「シェーラ嬢。ご両親の許可は得ている。失礼するよ」
「へっ? ど、どうぞ」
「おおっ。きょ、今日はその……。一段と、えっと……」
部屋に現れたレオナルド王子は、私の姿を見て戸惑い言葉に困っている様子です。
「レオナルド王子。無理に褒めていただかなくて大丈夫ですから。何か御用がお有りですか?」
「いや。見違えるように美しくて驚いただけだ」
大事そうに何かの書状を胸に抱え、王子は半ばムキになって褒めてくれました。どうやら気を遣わせてしまった様です。
「ありがとうございます」
「お、お世辞じゃないからな。伝えたいことがあって来たんだけど……。視線がうるさいな。何故、そこの精霊は僕を睨むんだ」
「えっ?」
私は隣で浮遊するフェミューに目を向けました。
彼女は、サッと私の後ろへ身を潜めると、じっと王子を睨みつけたまま言いました。
『げっ。やっぱ見えてるんだ。この前も目が合った気がしたのよね』
「そうだったの? でも、人のことを睨んでは駄目よ」
『ふんっ』
私とフェミューのやり取りを、レオナルド王子は訝しげに見つめたまま尋ねました。
「シェーラ嬢は精霊が見えるのか? そうか。精霊を見る為に怪しい魔法薬を作っていたんだな」
「いえ。あの薬は、この子の加護を得たように見せる為の薬なんです。私には加護がありませんので」
『私もシェーラも、それからルシアン様も、すんっごく頑張ったのよ! 魔法で見せかけの加護を作っちゃうくらい、シェーラはルシアン様が好きで、ルシアン様だってシェーラの事が大好きなんだから!』
「フェミュー。そんな大きな声で言わないで、恥ずかしいじゃない。あ、あの。レオナルド王子。失礼いたしました。それで、ご用件は……」
王子は呆然とフェミューを見つめ、私の言葉にハッとすると書状を握り締めて瞳を泳がせました。
「えっと。何だったかな。――シェーラ嬢は、この婚約が成立することを……」
「はい。願っております。あの、もしかして、私のことを心配して来てくださっていたのですか」
「あ、ああ。心配していた。だが……。顔が見れてよかった。失礼するよ」
「は、はい。ありがとうございました」
王子は力なく微笑むと、軽く会釈し部屋を出ていきました。
『なんか、前に見たときより王子っぽいわ』
「そうね。レオナルド王子になら、ガブリエラを任せられる気がするわ」
『でも、王子ってガブリエラのこと……。まぁいっか! それはあの子が決めることだものね』
「ええ。王子なら、自分のことは自分で決められるでしょうから、心配ないと思うわ」
『そうね。……あっ! そろそろ伯爵が来るわ。出迎えに行きましょう?』
「ええ。行きましょう」
私は鈴蘭の鉢植えを持ち、ゆっくりと深呼吸しました。
伯爵と会うのは三度目ですが、今日が一番緊張しています。
『シェーラ。早く早く~』
フェミューに急かされ、私は意を決して玄関へと足を向けました。
私はガブリエラに用意された漆黒のドレスを着て、普段よりも濃い目の化粧を施されました。ドレスの刺繍は、フェミューが私の髪色に合わせて金糸に変えてくれました。それでも、この豪華なドレスは私には釣り合っていないように感じてしまいます。
身なりを整え終わった時、自室のドアがノックされ、意外な方が訪ねてきました。
「シェーラ嬢。ご両親の許可は得ている。失礼するよ」
「へっ? ど、どうぞ」
「おおっ。きょ、今日はその……。一段と、えっと……」
部屋に現れたレオナルド王子は、私の姿を見て戸惑い言葉に困っている様子です。
「レオナルド王子。無理に褒めていただかなくて大丈夫ですから。何か御用がお有りですか?」
「いや。見違えるように美しくて驚いただけだ」
大事そうに何かの書状を胸に抱え、王子は半ばムキになって褒めてくれました。どうやら気を遣わせてしまった様です。
「ありがとうございます」
「お、お世辞じゃないからな。伝えたいことがあって来たんだけど……。視線がうるさいな。何故、そこの精霊は僕を睨むんだ」
「えっ?」
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彼女は、サッと私の後ろへ身を潜めると、じっと王子を睨みつけたまま言いました。
『げっ。やっぱ見えてるんだ。この前も目が合った気がしたのよね』
「そうだったの? でも、人のことを睨んでは駄目よ」
『ふんっ』
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「シェーラ嬢は精霊が見えるのか? そうか。精霊を見る為に怪しい魔法薬を作っていたんだな」
「いえ。あの薬は、この子の加護を得たように見せる為の薬なんです。私には加護がありませんので」
『私もシェーラも、それからルシアン様も、すんっごく頑張ったのよ! 魔法で見せかけの加護を作っちゃうくらい、シェーラはルシアン様が好きで、ルシアン様だってシェーラの事が大好きなんだから!』
「フェミュー。そんな大きな声で言わないで、恥ずかしいじゃない。あ、あの。レオナルド王子。失礼いたしました。それで、ご用件は……」
王子は呆然とフェミューを見つめ、私の言葉にハッとすると書状を握り締めて瞳を泳がせました。
「えっと。何だったかな。――シェーラ嬢は、この婚約が成立することを……」
「はい。願っております。あの、もしかして、私のことを心配して来てくださっていたのですか」
「あ、ああ。心配していた。だが……。顔が見れてよかった。失礼するよ」
「は、はい。ありがとうございました」
王子は力なく微笑むと、軽く会釈し部屋を出ていきました。
『なんか、前に見たときより王子っぽいわ』
「そうね。レオナルド王子になら、ガブリエラを任せられる気がするわ」
『でも、王子ってガブリエラのこと……。まぁいっか! それはあの子が決めることだものね』
「ええ。王子なら、自分のことは自分で決められるでしょうから、心配ないと思うわ」
『そうね。……あっ! そろそろ伯爵が来るわ。出迎えに行きましょう?』
「ええ。行きましょう」
私は鈴蘭の鉢植えを持ち、ゆっくりと深呼吸しました。
伯爵と会うのは三度目ですが、今日が一番緊張しています。
『シェーラ。早く早く~』
フェミューに急かされ、私は意を決して玄関へと足を向けました。
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