29 / 35
028 父の意向(ルシアン視点)
しおりを挟む
久々に父と再会した。昨日合流し、父は三日ほど前から滞在しているとのことだが、まさか滞在場所が王城だとは思ってもいなかった。
父曰く、この見た目で泊まれるところは、貴族の屋敷かお城くらいしか無いのだという。意外なことに、この国の王とは馬が合うらしく、滞在中は王と共に国内の山々へと視察に行っていたらしい。だから、まだ父とは挨拶程度しか会話を交わしていない。
明日ルロワ家に寄り国へ戻る予定ではあったのだが、面倒なことに陛下とその息子のレオナルドとの夕食に招待されてしまった。
レオナルドと対面で席に付き、父と陛下の会話を聞きながら、ほぼ会話のないまま夕食を終えたのだが、やはり王子は俺に接触してきた。
レオナルドは、客室の前で待ち構えていた。
「はじめまして。えっと、なんて呼べば良いですか?」
「どう呼んでいただいても結構ですよ。はじめましてでも無いので」
「へぇー。随分とサラッと言葉を返すね。僕に嘘ついたこと忘れたの?」
「言わなくても良いことを言わなかっただけですよ。好きになった女性の想い人にあんな事を言われても冷静に考えられないだろ」
「ははっ。ちょいちょい語尾が高圧的なんだけど。明日が楽しみだな。せいぜい頑張って足掻いてくれよな」
この態度だと、恐らく何か企んでいそうだ。
王命を出さない道を選んだのか。それとも……。
「もし邪魔をしようとしているなら、一つだけ忠告をしておく。サリュウス伯爵家の婚約者を奪うことは、国を滅ぼすことに繋がる。もし王命を振りかざそうというなら、正しく使えよ」
「なっ、何だと!? お、お前がどんな顔をするか楽しみにしているからな!」
「何をしても構わないが、俺の顔なんか見てないで、ちゃんとシェーラの顔を見ろよ」
「なっ、……。いちいち馬鹿にするなっ」
王子が怒って俺の前から走り去って行くと、背後から父の気配がした。
「レオナルド王子と仲が良いのだな」
「そんな事はありませんよ」
「国王から聞いたぞ。部屋で話そうか」
何を聞いたかまでは言わず、父は俺の顔色を探っている様子だった。
そして、客室の柔らかなソファーに腰掛け、俺は父に尋ねた。
「何をお聞きになったのですか?」
「お前が鈴蘭の娘との婚約を嫌がり、別の者を身代わりに立てようとしていると」
「それは、ルロワ伯爵がしようとしていることです」
父はゴリッと首を捻ると、小さく唸り声を上げた。
「うむ。そうか。ではルロワ伯爵は、鈴蘭の精霊を手放すのが惜しく、姉の方を私に差し出そうとしたのか」
「どちらかといえばガブリエラの策略ですけどね。父上のような化け物の息子と結婚したくないからです」
「あぁ。そんな事を申していたな。アレは新しいタイプの花嫁だ。はっはっはっ」
「笑い事ではありません。俺はアレが婚約者だなんて嫌ですから」
俺の言葉に父は笑いを止め、虚ろな瞳をこちらへと向けた。
「ほぉ。やはり。国王の言葉通りではないか。ルシアン。私は鈴蘭が選んだ婚約者しか受け入れるつもりはない。それがサリュウス家のしきたりであり、それ故、当家は永年繁栄してきたのだ。覚悟を決めよ」
「分かっています。ですが――」
「この話は終わりだ。明日は帰国だ。早く休め」
父は有無を言わさず会話を終わらせると、隣の客室へと戻っていった。
父曰く、この見た目で泊まれるところは、貴族の屋敷かお城くらいしか無いのだという。意外なことに、この国の王とは馬が合うらしく、滞在中は王と共に国内の山々へと視察に行っていたらしい。だから、まだ父とは挨拶程度しか会話を交わしていない。
明日ルロワ家に寄り国へ戻る予定ではあったのだが、面倒なことに陛下とその息子のレオナルドとの夕食に招待されてしまった。
レオナルドと対面で席に付き、父と陛下の会話を聞きながら、ほぼ会話のないまま夕食を終えたのだが、やはり王子は俺に接触してきた。
レオナルドは、客室の前で待ち構えていた。
「はじめまして。えっと、なんて呼べば良いですか?」
「どう呼んでいただいても結構ですよ。はじめましてでも無いので」
「へぇー。随分とサラッと言葉を返すね。僕に嘘ついたこと忘れたの?」
「言わなくても良いことを言わなかっただけですよ。好きになった女性の想い人にあんな事を言われても冷静に考えられないだろ」
「ははっ。ちょいちょい語尾が高圧的なんだけど。明日が楽しみだな。せいぜい頑張って足掻いてくれよな」
この態度だと、恐らく何か企んでいそうだ。
王命を出さない道を選んだのか。それとも……。
「もし邪魔をしようとしているなら、一つだけ忠告をしておく。サリュウス伯爵家の婚約者を奪うことは、国を滅ぼすことに繋がる。もし王命を振りかざそうというなら、正しく使えよ」
「なっ、何だと!? お、お前がどんな顔をするか楽しみにしているからな!」
「何をしても構わないが、俺の顔なんか見てないで、ちゃんとシェーラの顔を見ろよ」
「なっ、……。いちいち馬鹿にするなっ」
王子が怒って俺の前から走り去って行くと、背後から父の気配がした。
「レオナルド王子と仲が良いのだな」
「そんな事はありませんよ」
「国王から聞いたぞ。部屋で話そうか」
何を聞いたかまでは言わず、父は俺の顔色を探っている様子だった。
そして、客室の柔らかなソファーに腰掛け、俺は父に尋ねた。
「何をお聞きになったのですか?」
「お前が鈴蘭の娘との婚約を嫌がり、別の者を身代わりに立てようとしていると」
「それは、ルロワ伯爵がしようとしていることです」
父はゴリッと首を捻ると、小さく唸り声を上げた。
「うむ。そうか。ではルロワ伯爵は、鈴蘭の精霊を手放すのが惜しく、姉の方を私に差し出そうとしたのか」
「どちらかといえばガブリエラの策略ですけどね。父上のような化け物の息子と結婚したくないからです」
「あぁ。そんな事を申していたな。アレは新しいタイプの花嫁だ。はっはっはっ」
「笑い事ではありません。俺はアレが婚約者だなんて嫌ですから」
俺の言葉に父は笑いを止め、虚ろな瞳をこちらへと向けた。
「ほぉ。やはり。国王の言葉通りではないか。ルシアン。私は鈴蘭が選んだ婚約者しか受け入れるつもりはない。それがサリュウス家のしきたりであり、それ故、当家は永年繁栄してきたのだ。覚悟を決めよ」
「分かっています。ですが――」
「この話は終わりだ。明日は帰国だ。早く休め」
父は有無を言わさず会話を終わらせると、隣の客室へと戻っていった。
12
お気に入りに追加
1,994
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
氷の公爵の婚姻試験
黎
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる