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023 繋がり(ルシアン視点)
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前が見えないくらい大量のキノコを抱えて研究室に戻る途中、前方から走ってきた何かにぶつかりキノコを撒き散らしてしまった。ぶつかってきた何かは転んで尻餅をつき、仕方がないので手を貸してやった。
「大丈夫ですか? レオナルド王子」
「さ、さわるなっ。何だっ。この毒々しいキノコは!?」
「研究中の毒キノコですよ。ある花の根を混ぜると、毒素が中和されるんです。その研究ですよ」
王子は涙を流しながら、少しだけホッとしていた。
シェーラに会ったのだろうけれど、王子の涙はキノコのせいか、それとも……。
「そ、そうだったのか……。でも、シェーラ嬢が泣いていたんだ」
「違いますよ。その涙は、キノコを煮た時に出る煙のせいです」
「いや、違う。無理やり押し付けられた婚約が嫌なんだ。だから――」
俺を見上げる王子の瞳は不安気で、シェーラを本気で心配していることが分かった。だから、半分だけ本当のことを教えようと思った。
「あの化け物は、精霊の加護を持った娘を息子と婚約させたがっているんです。だから、そう見せる為にあのキノコで魔法の薬を作っているんです。――これは、シェーラが望んだ婚約です。だから、もう貴方の出番はどこにもないんですよ」
俺は眼鏡を取って王子を見下ろした。王子は俺の顔を覚えていたようだ。目を丸くした後、反抗的に睨みつけてきた。
「は? お、お前。シェーラ嬢の婚約者と名乗った男だなっ。お前はいいのか。婚約者が取られてしまうのだぞ!?」
「シェーラの為を思うなら、慕う相手との婚約を叶えてやるのが男だろ? 君にも出来ることある筈だ」
「僕に出来ること? はぁ。……ガブリエラは嫌だ」
そこは俺も同意する。こんな、つい二日前にシェーラと出会い、優しくされて秒で好きになっただけの権力だけは無駄に持ったクソガキなんかと共有できる気持ちがあるとは驚いた。
しかし、あの女の腹黒さを見破られるのなら、少しは見込みがあるのかもしれない。俺は王子を試してみたくなった。
「サリュウス伯爵は加護付きの娘が欲しいのだ。君の父が王命を出さなければ、サリュウス伯爵はガブリエラを花嫁として連れて行くだろう」
「それなら、僕がシェーラ嬢を――」
「陛下は認めないだろ。君とシェーラの婚約なんて」
「……それは」
王子は口ごもり俯いてしまった。
やはり打開策はないのだろう。気持ちはあっても策はなし。もしも父を説得できなかったとしても、王子に託すのは無理だ。だったら、今すぐ排除しておきたい。
「俺も君に一つ嘘をついた。俺にはシェーラではない婚約者がいる」
「へっ? じゃあ、シェーラ嬢が幸せになれるなら、お前はその婚約者と結婚できるって言うのか?」
そんな事は有り得ないだろって目で王子は俺を見た。
だから俺は、迷いなく断言した。
「ああ。それでシェーラが幸せになれるなら」
「…………っ」
王子は床を拳で殴ると、立ち上がり逃げるようにして走っていった。
シェーラが選んだ幸せの先に自分がいることは敢えて伏せたが、王子に言った言葉に偽りはない。
でも、王子が王命を出させようが出さすまいが、俺には関係ない。必ずガブリエラよりシェーラの方が相応しいと父に思い知らせてやらねばならない。
鈴蘭の精霊に加護を求めることは出来なかったが、精霊はシェーラの為に尽力してくれている。一生懸命なフェミューを見ていると、ガブリエラに与えた加護よりも強い繋がりを得られるのではないかと期待していた。
研究室に戻ると、シェーラが一生懸命大釜をかき混ぜていた。
その隣には、彼女を見守るフェミューの姿がある。
あんなに仲が良いなら波長も合うだろうに、何故シェーラを選ばなかったのだろう。そんな過去のことを言っても仕方がないが、留学した時からこの三人で研究室に通えていたら、さぞかし楽しかっただろうにと考えてしまう。
「ルシアン。キノコありがとう。叔父さん、大変じゃないかしら?」
「ああ。どんどん栽培するって張り切ってる」
「良かった。上手くいくといいな」
鈴蘭が結ぶ愛は真実の愛。両親の言葉は好きだったけれど、それが俺にとって真実でないのなら、自分でシェーラとの繋がりを作って見せるんだ。
「大丈夫ですか? レオナルド王子」
「さ、さわるなっ。何だっ。この毒々しいキノコは!?」
「研究中の毒キノコですよ。ある花の根を混ぜると、毒素が中和されるんです。その研究ですよ」
王子は涙を流しながら、少しだけホッとしていた。
シェーラに会ったのだろうけれど、王子の涙はキノコのせいか、それとも……。
「そ、そうだったのか……。でも、シェーラ嬢が泣いていたんだ」
「違いますよ。その涙は、キノコを煮た時に出る煙のせいです」
「いや、違う。無理やり押し付けられた婚約が嫌なんだ。だから――」
俺を見上げる王子の瞳は不安気で、シェーラを本気で心配していることが分かった。だから、半分だけ本当のことを教えようと思った。
「あの化け物は、精霊の加護を持った娘を息子と婚約させたがっているんです。だから、そう見せる為にあのキノコで魔法の薬を作っているんです。――これは、シェーラが望んだ婚約です。だから、もう貴方の出番はどこにもないんですよ」
俺は眼鏡を取って王子を見下ろした。王子は俺の顔を覚えていたようだ。目を丸くした後、反抗的に睨みつけてきた。
「は? お、お前。シェーラ嬢の婚約者と名乗った男だなっ。お前はいいのか。婚約者が取られてしまうのだぞ!?」
「シェーラの為を思うなら、慕う相手との婚約を叶えてやるのが男だろ? 君にも出来ることある筈だ」
「僕に出来ること? はぁ。……ガブリエラは嫌だ」
そこは俺も同意する。こんな、つい二日前にシェーラと出会い、優しくされて秒で好きになっただけの権力だけは無駄に持ったクソガキなんかと共有できる気持ちがあるとは驚いた。
しかし、あの女の腹黒さを見破られるのなら、少しは見込みがあるのかもしれない。俺は王子を試してみたくなった。
「サリュウス伯爵は加護付きの娘が欲しいのだ。君の父が王命を出さなければ、サリュウス伯爵はガブリエラを花嫁として連れて行くだろう」
「それなら、僕がシェーラ嬢を――」
「陛下は認めないだろ。君とシェーラの婚約なんて」
「……それは」
王子は口ごもり俯いてしまった。
やはり打開策はないのだろう。気持ちはあっても策はなし。もしも父を説得できなかったとしても、王子に託すのは無理だ。だったら、今すぐ排除しておきたい。
「俺も君に一つ嘘をついた。俺にはシェーラではない婚約者がいる」
「へっ? じゃあ、シェーラ嬢が幸せになれるなら、お前はその婚約者と結婚できるって言うのか?」
そんな事は有り得ないだろって目で王子は俺を見た。
だから俺は、迷いなく断言した。
「ああ。それでシェーラが幸せになれるなら」
「…………っ」
王子は床を拳で殴ると、立ち上がり逃げるようにして走っていった。
シェーラが選んだ幸せの先に自分がいることは敢えて伏せたが、王子に言った言葉に偽りはない。
でも、王子が王命を出させようが出さすまいが、俺には関係ない。必ずガブリエラよりシェーラの方が相応しいと父に思い知らせてやらねばならない。
鈴蘭の精霊に加護を求めることは出来なかったが、精霊はシェーラの為に尽力してくれている。一生懸命なフェミューを見ていると、ガブリエラに与えた加護よりも強い繋がりを得られるのではないかと期待していた。
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