姉の私が身代わりで醜い伯爵のご子息に嫁ぐことになりましたが、その方は私の好きな人で妹の初恋の方でした

春乃紅葉@コミカライズ2作品配信中

文字の大きさ
上 下
25 / 35

024 王命は……(レオナルド視点)

しおりを挟む
 何だか、失礼なことをしてしまった。
 遊び半分で告白して、優しさに流され好きになって、眼鏡の人を怒らせた。そんな自分が恥ずかしい。
 あの眼鏡の人みたいに、本当に好きな人の為なら、相手の気持ちを優先させることが出来るんだろうか。
 見てみぬふりをしてしまったけど、シェーラ嬢がサリュウス伯爵子息のことを口にした時、とても幸せそうな目をしていた。多分本当に好きなんだ。
 あー。あの眼鏡の人くらい、誰かを好きになってみたいな。

 建物から出ると、いつものうるさい近衛騎士が僕を待っていた。

「レオナルド様~。えっ? ちょっと泣いてます?」
「泣いてない! キノコの煙が目に入っただけだ」
「ええっ。それは大変じゃないですか!?」
「もう涙で洗い流した。それより、なにか用があったのではないか?」
「そうでした! 陛下が婚約発表の日取りを話したいとのことでお呼びです」

 ついに父からお呼びがかかった。
 さて、どうしたら良いのだろう。
 
「わかった。すぐ行く」

 ◇◇

「レオナルド。近衛騎士達がメロメロのようだが、精霊の加護を得た令嬢については噂では聞いていたぞ。その令嬢はレオナルドに夢中だそうだな。良かったではないか」

 父は近衛騎士たちの話を鵜呑みにし、大層機嫌が良かった。どこまで信じてもらえるかわからないが、僕はありのままを伝えることにした。

「父上。その者は騎士たちを惑わし、自身が隣国の伯爵子息と婚約したくないが為に、僕を利用しようとしているのです」
「はっはっはっ。それは豪然たる令嬢だ。面白いではないか。しかし、その伯爵とは誰のことだ?」
「それは……サリュウス伯爵という方です」

 その名を出すと、父から笑顔が一瞬で消えた。
 父も知っているのだ、あの化け物伯爵の事を。

「ご存じですか?」
「ああ、もちろんだ。伯爵には世話になっておる。あの者の令息の婚約者か。……確か、来月学園を卒業し国へ戻る頃か」
「国へ戻る? 誰がですか?」
「サリュウス伯爵子息だ。ひとり留学生がおるだろう。ルロワ家に世話になっておる青年だ。隣国では満足に学業に集中出来ぬと申して、姓を変え我が国で勉学に励んでおる。そうか。彼は婚約者の家に世話になっていたのか」

 ルロワ家で世話になっている青年。
 それはさっきもシェーラ嬢の近くにいた、あの――。

「それって、分厚い眼鏡の黒いローブの人ですか?」
「そうだな。知り合いであったか?」
「……いえ。どうでしょうか」

 本当にあの人だろうか。だとしたら、シェーラ嬢の為にとか言っておきながら、結局自分のものにする為にああ言ったことになる。しかも、ガブリエラを僕に押し付けて。
 
「まぁよい。その娘は諦めよ」
「へ?」
「サリュウス伯爵とは永き付き合いだ。決して失礼なことをしてはならん。関係が崩れれば、我が国の繁栄に影をさすこととなるだろう。婚約者を奪うなど、言語道断だ」

 へぇー。まぁ、そうだよな。隣国の化け物の婚約者なんだから、そうなるよね。
 サリュウス伯爵子息、残念だったな。王命は出ない。
 あんな嘘つきは、予定通りガブリエラと婚約すればいいんだ。
 でもそれだけでは済まさない。

「父上、実はですね。――」
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

氷の公爵の婚姻試験

恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

処理中です...