姉の私が身代わりで醜い伯爵のご子息に嫁ぐことになりましたが、その方は私の好きな人で妹の初恋の方でした

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024 王命は……(レオナルド視点)

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 何だか、失礼なことをしてしまった。
 遊び半分で告白して、優しさに流され好きになって、眼鏡の人を怒らせた。そんな自分が恥ずかしい。
 あの眼鏡の人みたいに、本当に好きな人の為なら、相手の気持ちを優先させることが出来るんだろうか。
 見てみぬふりをしてしまったけど、シェーラ嬢がサリュウス伯爵子息のことを口にした時、とても幸せそうな目をしていた。多分本当に好きなんだ。
 あー。あの眼鏡の人くらい、誰かを好きになってみたいな。

 建物から出ると、いつものうるさい近衛騎士が僕を待っていた。

「レオナルド様~。えっ? ちょっと泣いてます?」
「泣いてない! キノコの煙が目に入っただけだ」
「ええっ。それは大変じゃないですか!?」
「もう涙で洗い流した。それより、なにか用があったのではないか?」
「そうでした! 陛下が婚約発表の日取りを話したいとのことでお呼びです」

 ついに父からお呼びがかかった。
 さて、どうしたら良いのだろう。
 
「わかった。すぐ行く」

 ◇◇

「レオナルド。近衛騎士達がメロメロのようだが、精霊の加護を得た令嬢については噂では聞いていたぞ。その令嬢はレオナルドに夢中だそうだな。良かったではないか」

 父は近衛騎士たちの話を鵜呑みにし、大層機嫌が良かった。どこまで信じてもらえるかわからないが、僕はありのままを伝えることにした。

「父上。その者は騎士たちを惑わし、自身が隣国の伯爵子息と婚約したくないが為に、僕を利用しようとしているのです」
「はっはっはっ。それは豪然たる令嬢だ。面白いではないか。しかし、その伯爵とは誰のことだ?」
「それは……サリュウス伯爵という方です」

 その名を出すと、父から笑顔が一瞬で消えた。
 父も知っているのだ、あの化け物伯爵の事を。

「ご存じですか?」
「ああ、もちろんだ。伯爵には世話になっておる。あの者の令息の婚約者か。……確か、来月学園を卒業し国へ戻る頃か」
「国へ戻る? 誰がですか?」
「サリュウス伯爵子息だ。ひとり留学生がおるだろう。ルロワ家に世話になっておる青年だ。隣国では満足に学業に集中出来ぬと申して、姓を変え我が国で勉学に励んでおる。そうか。彼は婚約者の家に世話になっていたのか」

 ルロワ家で世話になっている青年。
 それはさっきもシェーラ嬢の近くにいた、あの――。

「それって、分厚い眼鏡の黒いローブの人ですか?」
「そうだな。知り合いであったか?」
「……いえ。どうでしょうか」

 本当にあの人だろうか。だとしたら、シェーラ嬢の為にとか言っておきながら、結局自分のものにする為にああ言ったことになる。しかも、ガブリエラを僕に押し付けて。
 
「まぁよい。その娘は諦めよ」
「へ?」
「サリュウス伯爵とは永き付き合いだ。決して失礼なことをしてはならん。関係が崩れれば、我が国の繁栄に影をさすこととなるだろう。婚約者を奪うなど、言語道断だ」

 へぇー。まぁ、そうだよな。隣国の化け物の婚約者なんだから、そうなるよね。
 サリュウス伯爵子息、残念だったな。王命は出ない。
 あんな嘘つきは、予定通りガブリエラと婚約すればいいんだ。
 でもそれだけでは済まさない。

「父上、実はですね。――」
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