21 / 35
020 鈴蘭とルシアン
しおりを挟む
部屋にルシアンを呼ぶのは初めてです。
使用人達はサリュウス伯爵の噂話で持ち切りだったので、誰にも気づかれずに部屋に案内することが出来ました。
ルシアンには少しだけ部屋の前で待ってもらって、私は先に部屋に入りました。
『どうしてルシアン様が一緒なの!?』
フェミューは扉が締まるなり、鉢植えから飛び出し不安そうに尋ねました。今気付きましたが、フェミューはルシアンに様を付けて呼んでいます。
「ルシアンが誰なのか、フェミューは知っているのでしょう? どうして避けようとするの?」
『だって、怖かったんだもの。初めてルシアン様に会った時、すっごく怖い顔で睨まれたんだから。それに……』
「それに?」
『サリュウス伯爵が嫌いなの。私は一緒に生まれた鈴蘭の精霊の姉妹達と国を離れたくなかったのに。私が一番適任だって言われて、無理やり一人だけここに連れてこられたの。ルシアン様はあの伯爵のご子息だから……』
「そうだったのね」
離れ離れの家族が恋しいのか、フェミューは鈴蘭の花にそっと手を触れ肩を落としました。
『でも、シェーラがいつも話し相手になってくれたから、寂しくなかったわ。――ルシアン様はどうしてきたの?』
「フェミューと話したいんですって。一晩だけでも、鈴蘭の鉢植えをルシアンに貸してあげてもいいかしら?」
『それは嫌。私はここがいいの。でも、ずっと逃げてもいられないもの。今、少しだけ会うだけならいいわ』
「本当? すぐ呼んでくるわ」
ルシアンを呼んで部屋に戻ると、普段より淑やかな雰囲気でフェミューが鈴蘭の花に腰掛けていました。
『初めましてルシアン=サリュウス様。私は鈴蘭の精霊フェミューと申します』
「初めてではないだろう。率直に聞こう。君は何故ガブリエラを婚約者に選んだんだ?」
『えっ。私は……』
「ルシアン。フェミューを責めないで。この子は家族と離れて一人で頑張ってきたのだから」
唐突な質問に面食らって鈴蘭から落ちそうになったフェミューを手ですくい上げて抱きしめると、それを見たルシアンは驚いて私の顔をじっと見つめて尋ねました。
「分かった。昔のことはとやかく言わない。――それより、シェーラには精霊が見えているのか?」
「ええ」
『会話もできるわよ』
フェミューが答えると、ルシアンは眉間にシワを寄せ、首を傾げながら私に目を向けました。
「今まで黙っていてごめんなさい。私が見えるのはフェミューだけだし、誰にも言わないで欲しいってお願いされていたの」
「そうか。二人は仲がいいのか?」
『そうよ! シェーラは私の一番の友達なんだから』
「それなら、シェーラにガブリエラのような加護を与えることは出来ないか?」
『ええっ。加護をシェーラに!? どういう事?』
驚くフェミューに、ルシアンはことの経緯を話しました。
フェミューは時折ニヤニヤしながら聞き、最後まで聞き終えると、真剣な目でルシアンに尋ねました。
『婚約するには、私の加護が必要なのね。でも、私が加護を与えられるのは一人までよ。そんなに力の強い精霊じゃないから……。ねぇ。ルシアン様は、身代わりで婚約者にさせられるからじゃなくて、シェーラを婚約者にしたいのよね?』
「ああ。シェーラしか考えられない」
『きゃ~。そんな目で言われたら、私、頑張っちゃう~』
「頑張ったら出来るのか!?」
『ふふんっ。頑張っても、無理なものは無理!』
フェミューが旨を張ってそう言うと、ルシアンがスッと真顔になり、フェミューは怖がって私の後ろに隠れました。
「ルシアン。フェミューが怖がっているわ」
「ああ。すまない。期待してしまった分、顔に出てしまった。精霊と契りを交わすことは一人としか出来ないが、加護を何人にも与えられる精霊は沢山いるから……」
『ルシアン様。加護は与えられないけど、それっぽく見せることならできるわ』
「それっぽく?」
フェミューの言葉を繰り返し、ルシアンは眉間にシワを寄せて首をひねりました。
使用人達はサリュウス伯爵の噂話で持ち切りだったので、誰にも気づかれずに部屋に案内することが出来ました。
ルシアンには少しだけ部屋の前で待ってもらって、私は先に部屋に入りました。
『どうしてルシアン様が一緒なの!?』
フェミューは扉が締まるなり、鉢植えから飛び出し不安そうに尋ねました。今気付きましたが、フェミューはルシアンに様を付けて呼んでいます。
「ルシアンが誰なのか、フェミューは知っているのでしょう? どうして避けようとするの?」
『だって、怖かったんだもの。初めてルシアン様に会った時、すっごく怖い顔で睨まれたんだから。それに……』
「それに?」
『サリュウス伯爵が嫌いなの。私は一緒に生まれた鈴蘭の精霊の姉妹達と国を離れたくなかったのに。私が一番適任だって言われて、無理やり一人だけここに連れてこられたの。ルシアン様はあの伯爵のご子息だから……』
「そうだったのね」
離れ離れの家族が恋しいのか、フェミューは鈴蘭の花にそっと手を触れ肩を落としました。
『でも、シェーラがいつも話し相手になってくれたから、寂しくなかったわ。――ルシアン様はどうしてきたの?』
「フェミューと話したいんですって。一晩だけでも、鈴蘭の鉢植えをルシアンに貸してあげてもいいかしら?」
『それは嫌。私はここがいいの。でも、ずっと逃げてもいられないもの。今、少しだけ会うだけならいいわ』
「本当? すぐ呼んでくるわ」
ルシアンを呼んで部屋に戻ると、普段より淑やかな雰囲気でフェミューが鈴蘭の花に腰掛けていました。
『初めましてルシアン=サリュウス様。私は鈴蘭の精霊フェミューと申します』
「初めてではないだろう。率直に聞こう。君は何故ガブリエラを婚約者に選んだんだ?」
『えっ。私は……』
「ルシアン。フェミューを責めないで。この子は家族と離れて一人で頑張ってきたのだから」
唐突な質問に面食らって鈴蘭から落ちそうになったフェミューを手ですくい上げて抱きしめると、それを見たルシアンは驚いて私の顔をじっと見つめて尋ねました。
「分かった。昔のことはとやかく言わない。――それより、シェーラには精霊が見えているのか?」
「ええ」
『会話もできるわよ』
フェミューが答えると、ルシアンは眉間にシワを寄せ、首を傾げながら私に目を向けました。
「今まで黙っていてごめんなさい。私が見えるのはフェミューだけだし、誰にも言わないで欲しいってお願いされていたの」
「そうか。二人は仲がいいのか?」
『そうよ! シェーラは私の一番の友達なんだから』
「それなら、シェーラにガブリエラのような加護を与えることは出来ないか?」
『ええっ。加護をシェーラに!? どういう事?』
驚くフェミューに、ルシアンはことの経緯を話しました。
フェミューは時折ニヤニヤしながら聞き、最後まで聞き終えると、真剣な目でルシアンに尋ねました。
『婚約するには、私の加護が必要なのね。でも、私が加護を与えられるのは一人までよ。そんなに力の強い精霊じゃないから……。ねぇ。ルシアン様は、身代わりで婚約者にさせられるからじゃなくて、シェーラを婚約者にしたいのよね?』
「ああ。シェーラしか考えられない」
『きゃ~。そんな目で言われたら、私、頑張っちゃう~』
「頑張ったら出来るのか!?」
『ふふんっ。頑張っても、無理なものは無理!』
フェミューが旨を張ってそう言うと、ルシアンがスッと真顔になり、フェミューは怖がって私の後ろに隠れました。
「ルシアン。フェミューが怖がっているわ」
「ああ。すまない。期待してしまった分、顔に出てしまった。精霊と契りを交わすことは一人としか出来ないが、加護を何人にも与えられる精霊は沢山いるから……」
『ルシアン様。加護は与えられないけど、それっぽく見せることならできるわ』
「それっぽく?」
フェミューの言葉を繰り返し、ルシアンは眉間にシワを寄せて首をひねりました。
11
お気に入りに追加
1,994
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
氷の公爵の婚姻試験
黎
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる