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016 心の整理
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部屋には、いつも通りフェミューがいます。
私が部屋に入るなり、彼女は私の頬にギュッと抱きついて来ました。
『シェーラ……。泣いているの?』
「ルシアンが……。ルシアンは、私にサリュウス伯爵子息と婚約して欲しいんですって。それが、とても悲しいの」
『ふぅ~ん。ルシアン様の事、キライなの?』
「違うわ。嫌いじゃないから……。好きな人だから、ルシアンにだけは勧められたくなかったの」
『ふぅ~ん』
フェミューは何だかよく分からないと言った様子で相槌を打ちました。
「フェミューはルシアンの事が苦手だから、私の気持ちなんて分からないわよね」
『そんな事ないわ。シェーラの事は私が一番知っているもの。でも……う~ん』
「フェミュー?」
フェミューは腕を組み、空中を逆さまで漂って悩ましげです。しかし私が声を掛けると、意を決したかのように私の顔の前まで飛んできました。
『シェーラを悲しませんなんて、全部ルシアン様が悪い。だから怒った方がいいわ』
「怒る?」
『そうそう。悲しまないで、ちゃんと怒って。自分の気持ちから逃げないで、ルシアン様にぶつけた方がいいわ』
「でも……」
私がもしルシアンへの気持ちを話したら、何が変わるのでしょうか。サリュウス伯爵子息との婚約から逃げる事はすべきではないですし、ルシアンを巻き込みたくもないのです。
「ルシアンに迷惑をかけるだけだわ。ルシアンには婚約者がいるみたいだし、私にだって、すべき事があるんだもの。ルシアンはそれを分かっていて、サリュウス領の良いところを教えてくれたのかもしれない」
『う~ん。私が魔法で何とかしてあげようか?』
悪戯っ子の瞳でフェミューは私を見上げました。彼女の魔法といえば、天変地異を起こすことしか知りません。
「フェミュー。ガブリエラの時の様に、ルシアンの婚約者に魔法で悪戯をするつもりなら、しなくていいわ。そんな事に魔法を使ってはいけないの」
『あれは、ガブリエラを守るためだわ。それに、悪戯するんじゃなくて――』
「とにかく駄目だわ。私で良いのかは分からないけれど、サリュウス伯爵との約束を破るわけにはいかないの。だから私は……」
見知らぬ令息と婚約を結ぶのです。ガブリエラのように逃げてはいけません。
やっとルシアンと思いを通わすことができたのかと感じたのに、それはもう叶わぬ夢なのです。きっとルシアンも分かっています。
でも、だけど――私はまだ、心の整理がつきませんでした。
私が部屋に入るなり、彼女は私の頬にギュッと抱きついて来ました。
『シェーラ……。泣いているの?』
「ルシアンが……。ルシアンは、私にサリュウス伯爵子息と婚約して欲しいんですって。それが、とても悲しいの」
『ふぅ~ん。ルシアン様の事、キライなの?』
「違うわ。嫌いじゃないから……。好きな人だから、ルシアンにだけは勧められたくなかったの」
『ふぅ~ん』
フェミューは何だかよく分からないと言った様子で相槌を打ちました。
「フェミューはルシアンの事が苦手だから、私の気持ちなんて分からないわよね」
『そんな事ないわ。シェーラの事は私が一番知っているもの。でも……う~ん』
「フェミュー?」
フェミューは腕を組み、空中を逆さまで漂って悩ましげです。しかし私が声を掛けると、意を決したかのように私の顔の前まで飛んできました。
『シェーラを悲しませんなんて、全部ルシアン様が悪い。だから怒った方がいいわ』
「怒る?」
『そうそう。悲しまないで、ちゃんと怒って。自分の気持ちから逃げないで、ルシアン様にぶつけた方がいいわ』
「でも……」
私がもしルシアンへの気持ちを話したら、何が変わるのでしょうか。サリュウス伯爵子息との婚約から逃げる事はすべきではないですし、ルシアンを巻き込みたくもないのです。
「ルシアンに迷惑をかけるだけだわ。ルシアンには婚約者がいるみたいだし、私にだって、すべき事があるんだもの。ルシアンはそれを分かっていて、サリュウス領の良いところを教えてくれたのかもしれない」
『う~ん。私が魔法で何とかしてあげようか?』
悪戯っ子の瞳でフェミューは私を見上げました。彼女の魔法といえば、天変地異を起こすことしか知りません。
「フェミュー。ガブリエラの時の様に、ルシアンの婚約者に魔法で悪戯をするつもりなら、しなくていいわ。そんな事に魔法を使ってはいけないの」
『あれは、ガブリエラを守るためだわ。それに、悪戯するんじゃなくて――』
「とにかく駄目だわ。私で良いのかは分からないけれど、サリュウス伯爵との約束を破るわけにはいかないの。だから私は……」
見知らぬ令息と婚約を結ぶのです。ガブリエラのように逃げてはいけません。
やっとルシアンと思いを通わすことができたのかと感じたのに、それはもう叶わぬ夢なのです。きっとルシアンも分かっています。
でも、だけど――私はまだ、心の整理がつきませんでした。
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