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014 手に入らないから欲しい物(ガブリエラ視点)
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部屋を出て廊下を突き進むと、ルシアン様と出会った。
恐らく私を待っていたのだ。彼は、私が王子を選んだことを、きっと悲しんでいる。
「ルシアン様。私、王子と婚約しますわ」
「そうだな。そうすればサリュウス伯爵は、為すすべがないだろう」
「ええ。……ルシアン様は、それでよろしいのかしら?」
そう尋ねると、ルシアン様は微かに視線を落とした後、また私を見つめ返した。
「ああ。サリュウス伯爵より王子が相手の方が……幸せになれるだろう」
微笑んだルシアン様を見て、私は衝動的に彼に抱きついてしまった。
私の幸せの為に、初恋の相手にこんなことを言わせてしまうなんて、私は何と罪作りな女なのだろう。
「ルシアン様。私、本当はっ――」
顔を上げてルシアン様と視線が交わり、私は言葉を失った。汚いものでも見るような彼の冷たい瞳は、私に向けられている。
今日は、眼鏡をしていないから良く見える。
いつも見えないフリをしていたルシアン様の瞳が。
「離れろ」
「っ。わ、わたくしが手に入らないからって、そんな目で見ないでいただけます?」
「手に入れたいと思ったことは一度もない」
きっぱりと言い切るルシアン様に一瞬面食らったけれど、こんなのただのやせ我慢に違いない。
「う、嘘よ! 誰もが私を好きになる。それは当たり前のことなんだからっ。ルシアン様だけよっ。そうやって見えを張っていられる方は」
「ああ。きっとそれだ。俺は君に靡かない。だから気になる。だから固執するんだ。ただそれだけだ」
まるで私の心を見透かしたみたいな眼差しで、ルシアン様はいい加減なことを口走った。
「違うわっ。勝手に決めつけないで」
「王子はどうだろうな。中庭で、王子は君をあの女と言い怯えていだぞ? 俺に構わず、王子のご機嫌取りに専念したらどうだ?」
「えっ?」
王子は私に婚約者がいたから落ち込んでいたのに、ルシアン様は何を言っているのだろう。
「不安か?」
「いいえ。不安なんかないわ。どんな男性だって……。さ、サリュウス伯爵のご子息だって、私にかかれば……」
「サリュウス伯爵の息子は、まだ、あの様な姿にはなっていないが、いずれ数多の精霊と契りを結べばああなるだろう。あんな姿の化け物にも好かれたいのか?」
「そ、そんな筈ないでしょう!? 私は、いざとなったらサリュウス伯爵のご子息だって思うままに心を弄んで差し上げると言おうとしたの!」
ルシアン様は呆れ顔で嘲笑うと、ため息をついた。ルシアン様ですら満足に心を捉えていないのに、そんなことは無理だと思っているのだ。
「王子の婚約者になってサリュウス伯爵との婚約をお姉様に押し付けたら、王子との婚約も無かったことにして、ルシアン様と婚約を結び直してもよくってよ」
「は? それは無理だ。俺には婚約者がいるのだから」
「へ? そ、そうですの? それって、お姉様の事ではありませんよね?」
「そうであれば良かったと、何度想ったことか……」
ルシアン様の恋心は、どうせ実らない。
そう知ったら、どうしてか笑いが止まらなかった。
「ふふっ。ルシアン様の言った通りかもしれないわ。私はきっと、貴方がつれない態度を取るから気にかけていただけだったんだわ。でも、それはルシアン様も同じなのではないかしら」
「同じ?」
「婚約者がいるから、別の女性の方がよく見えただけなのよ。それも、平凡で誰のものにもなりそうな女性なのに手に入らないから」
ルシアン様は瞳を丸くさせて驚くと、徐々にそれを細めて今までで一番冷たい視線で私を睨んだ。
「……失礼する」
「ちょっ……。何よ。図星ってことかしら」
ルシアン様の背を見つめると、やはりドキドキする。
睨まれても笑われても、こうしてずっと話がしたい。
こんな風に話せるのは、やはり彼しかいないのだから。
しかし、ルシアン様は、どんな婚約者のせいで自分の思いを貫けないのだろう。
「私みたいに、バケモノみたいなお相手だったりして……」
恐らく私を待っていたのだ。彼は、私が王子を選んだことを、きっと悲しんでいる。
「ルシアン様。私、王子と婚約しますわ」
「そうだな。そうすればサリュウス伯爵は、為すすべがないだろう」
「ええ。……ルシアン様は、それでよろしいのかしら?」
そう尋ねると、ルシアン様は微かに視線を落とした後、また私を見つめ返した。
「ああ。サリュウス伯爵より王子が相手の方が……幸せになれるだろう」
微笑んだルシアン様を見て、私は衝動的に彼に抱きついてしまった。
私の幸せの為に、初恋の相手にこんなことを言わせてしまうなんて、私は何と罪作りな女なのだろう。
「ルシアン様。私、本当はっ――」
顔を上げてルシアン様と視線が交わり、私は言葉を失った。汚いものでも見るような彼の冷たい瞳は、私に向けられている。
今日は、眼鏡をしていないから良く見える。
いつも見えないフリをしていたルシアン様の瞳が。
「離れろ」
「っ。わ、わたくしが手に入らないからって、そんな目で見ないでいただけます?」
「手に入れたいと思ったことは一度もない」
きっぱりと言い切るルシアン様に一瞬面食らったけれど、こんなのただのやせ我慢に違いない。
「う、嘘よ! 誰もが私を好きになる。それは当たり前のことなんだからっ。ルシアン様だけよっ。そうやって見えを張っていられる方は」
「ああ。きっとそれだ。俺は君に靡かない。だから気になる。だから固執するんだ。ただそれだけだ」
まるで私の心を見透かしたみたいな眼差しで、ルシアン様はいい加減なことを口走った。
「違うわっ。勝手に決めつけないで」
「王子はどうだろうな。中庭で、王子は君をあの女と言い怯えていだぞ? 俺に構わず、王子のご機嫌取りに専念したらどうだ?」
「えっ?」
王子は私に婚約者がいたから落ち込んでいたのに、ルシアン様は何を言っているのだろう。
「不安か?」
「いいえ。不安なんかないわ。どんな男性だって……。さ、サリュウス伯爵のご子息だって、私にかかれば……」
「サリュウス伯爵の息子は、まだ、あの様な姿にはなっていないが、いずれ数多の精霊と契りを結べばああなるだろう。あんな姿の化け物にも好かれたいのか?」
「そ、そんな筈ないでしょう!? 私は、いざとなったらサリュウス伯爵のご子息だって思うままに心を弄んで差し上げると言おうとしたの!」
ルシアン様は呆れ顔で嘲笑うと、ため息をついた。ルシアン様ですら満足に心を捉えていないのに、そんなことは無理だと思っているのだ。
「王子の婚約者になってサリュウス伯爵との婚約をお姉様に押し付けたら、王子との婚約も無かったことにして、ルシアン様と婚約を結び直してもよくってよ」
「は? それは無理だ。俺には婚約者がいるのだから」
「へ? そ、そうですの? それって、お姉様の事ではありませんよね?」
「そうであれば良かったと、何度想ったことか……」
ルシアン様の恋心は、どうせ実らない。
そう知ったら、どうしてか笑いが止まらなかった。
「ふふっ。ルシアン様の言った通りかもしれないわ。私はきっと、貴方がつれない態度を取るから気にかけていただけだったんだわ。でも、それはルシアン様も同じなのではないかしら」
「同じ?」
「婚約者がいるから、別の女性の方がよく見えただけなのよ。それも、平凡で誰のものにもなりそうな女性なのに手に入らないから」
ルシアン様は瞳を丸くさせて驚くと、徐々にそれを細めて今までで一番冷たい視線で私を睨んだ。
「……失礼する」
「ちょっ……。何よ。図星ってことかしら」
ルシアン様の背を見つめると、やはりドキドキする。
睨まれても笑われても、こうしてずっと話がしたい。
こんな風に話せるのは、やはり彼しかいないのだから。
しかし、ルシアン様は、どんな婚約者のせいで自分の思いを貫けないのだろう。
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