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009 一瞬の気の迷い
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喧騒が去った後、私は手にした苗木を悔しそうに見つめたままのルシアンに、お礼を言いました。
「ルシアン。さっき言っていたこと……。私を庇ってくれたのよね。ありがとう」
「婚約を申し込むのなら、せめて足場を固めてから」
「えっ?」
「……王子に言ったくせに、自分も出来ていないんだ。――シェーラにとって、王子との婚約は良い話かもしれないのに、急にあんな勝手な事を言って申し訳ない」
私を守ろうとしてくれたのに、ルシアンは申し訳無さそうに頭を下げました。
「そんな事ないわ。私が王子と婚約なんて、分不相応にも程があるもの。王子も一瞬の気の迷いでしょうから、ああ言ってくれて助かったわ」
「俺は、一瞬の気の迷いとか、ただ庇っただけとか、そういう意味で言った訳じゃないからな」
ルシアンの真剣な眼差しに、胸の奥がキュッと締め付けられる様な感覚がして、急に鼓動が速くなりました。
今までガブリエラと間違えられてなら、何度も告白されて来ました。その時の男性方の瞳と、ルシアンの瞳が重なって見えます。
でも、間違いだと気付き一瞬で熱を失う彼等と違って、ルシアンは絶えず熱のこもった視線で私を見つめていて――。
「あ、ぇっと……」
「シェーラ様。レオナルド王子様がお呼びです」
ようやく絞り出した不明瞭な言葉を遮るように、私は背後から執事に声をかけられました。
ルシアンもハッとして私から視線を反らすと、頬を微かに赤らめ、苗木を花壇に戻しながら言いました。
「い、今は、戻ろう。王子にはさっさと帰ってもらって、サリュウス伯爵を迎える準備をしなくては」
「そ、そうね。じゃあ、また後で」
「ああ。この続きは、また」
続きとは何でしょうか。心臓の鼓動を感じる度に熱くなる頬を隠すように覆って、私は執事についていきました。
◇◇◇◇
王子は食事中、終始落ち込んでいました。ルシアンの言葉が響いたようです。最初だけと言っていたガブリエラでしたが、王子の落ち込みようが面白かったのか、食事をゆったりと楽しんでいました。
食事を終えると両親はガブリエラと王子だけ残し、私を連れて部屋を出ました。
「可哀想に。あんなに落ち込んで。シェーラをガブリエラと間違えてしまったのね。ガブリエラに婚約者がいなければ、王子との婚約も考えましたのに」
「仕方ない。縁がなかっただけだ。それより王子はいつまでいるのだ。そろそろサリュウス伯爵がいらっしゃるかもしれないのに」
「そうね。伯爵の為に用意させた食事も王子が召し上がってしまいましたし、本当に迷惑ですこと。シェーラ、手の空いている者は全て伯爵を迎える準備をし直しているの。王子の帰りの馬車を用意するように執事に伝えてきてくれる?」
「はい。お母様」
私が離れた後も、両親は王子についてひそひそと言い合っていました。捨てられた子犬のように肩を落とす王子の耳に、両親の言葉が届かないことを祈るばかりてす。
慌ただしく廊下を行き来する使用人達とすれ違い玄関を出ると、ルシアンが門を見つめて立っていました。
「シェーラ。出迎えか?」
「え? いえ。レオナルド王子の帰りの馬車の準備を――」
門の方へとに目を向け、私は息を呑みました。
漆黒の馬車が門の前に停まっていたのです。
「ルシアン。さっき言っていたこと……。私を庇ってくれたのよね。ありがとう」
「婚約を申し込むのなら、せめて足場を固めてから」
「えっ?」
「……王子に言ったくせに、自分も出来ていないんだ。――シェーラにとって、王子との婚約は良い話かもしれないのに、急にあんな勝手な事を言って申し訳ない」
私を守ろうとしてくれたのに、ルシアンは申し訳無さそうに頭を下げました。
「そんな事ないわ。私が王子と婚約なんて、分不相応にも程があるもの。王子も一瞬の気の迷いでしょうから、ああ言ってくれて助かったわ」
「俺は、一瞬の気の迷いとか、ただ庇っただけとか、そういう意味で言った訳じゃないからな」
ルシアンの真剣な眼差しに、胸の奥がキュッと締め付けられる様な感覚がして、急に鼓動が速くなりました。
今までガブリエラと間違えられてなら、何度も告白されて来ました。その時の男性方の瞳と、ルシアンの瞳が重なって見えます。
でも、間違いだと気付き一瞬で熱を失う彼等と違って、ルシアンは絶えず熱のこもった視線で私を見つめていて――。
「あ、ぇっと……」
「シェーラ様。レオナルド王子様がお呼びです」
ようやく絞り出した不明瞭な言葉を遮るように、私は背後から執事に声をかけられました。
ルシアンもハッとして私から視線を反らすと、頬を微かに赤らめ、苗木を花壇に戻しながら言いました。
「い、今は、戻ろう。王子にはさっさと帰ってもらって、サリュウス伯爵を迎える準備をしなくては」
「そ、そうね。じゃあ、また後で」
「ああ。この続きは、また」
続きとは何でしょうか。心臓の鼓動を感じる度に熱くなる頬を隠すように覆って、私は執事についていきました。
◇◇◇◇
王子は食事中、終始落ち込んでいました。ルシアンの言葉が響いたようです。最初だけと言っていたガブリエラでしたが、王子の落ち込みようが面白かったのか、食事をゆったりと楽しんでいました。
食事を終えると両親はガブリエラと王子だけ残し、私を連れて部屋を出ました。
「可哀想に。あんなに落ち込んで。シェーラをガブリエラと間違えてしまったのね。ガブリエラに婚約者がいなければ、王子との婚約も考えましたのに」
「仕方ない。縁がなかっただけだ。それより王子はいつまでいるのだ。そろそろサリュウス伯爵がいらっしゃるかもしれないのに」
「そうね。伯爵の為に用意させた食事も王子が召し上がってしまいましたし、本当に迷惑ですこと。シェーラ、手の空いている者は全て伯爵を迎える準備をし直しているの。王子の帰りの馬車を用意するように執事に伝えてきてくれる?」
「はい。お母様」
私が離れた後も、両親は王子についてひそひそと言い合っていました。捨てられた子犬のように肩を落とす王子の耳に、両親の言葉が届かないことを祈るばかりてす。
慌ただしく廊下を行き来する使用人達とすれ違い玄関を出ると、ルシアンが門を見つめて立っていました。
「シェーラ。出迎えか?」
「え? いえ。レオナルド王子の帰りの馬車の準備を――」
門の方へとに目を向け、私は息を呑みました。
漆黒の馬車が門の前に停まっていたのです。
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