姉の私が身代わりで醜い伯爵のご子息に嫁ぐことになりましたが、その方は私の好きな人で妹の初恋の方でした

春乃紅葉@コミカライズ2作品配信中

文字の大きさ
上 下
6 / 35

005 初恋の相手

しおりを挟む
 近衛騎士を王子の側へと運んだ後、私はルシアンと馬車に乗り、屋敷への帰路につきました。

 ニ年前に妹が学園に入学した時から、私はルシアンと妹の三人で、王都の屋敷から学園に通っています。
 それまで私は学園の寮にお世話になっていましたが、ど田舎のルロワ領との行き来は不便だし、私のように寮から通うなど言語道断だと、どこぞの侯爵子息が王都の屋敷を妹の為に貸してくださったのです。
 妹が学園に通う間は好きに使っていいと言って。

 それなので妹は、両親もこの大きな屋敷に呼び、私と同じく寮で生活していた留学生のルシアンを離れに住まわせたいと言い出したのです。ルシアンは、植物学科の専門講師である叔父さんも一緒で良いならと言い離れに住んでいます。 
 留学生なのだから丁重に扱わなければならないと言っていた妹ですが、本当は別の目的があって提案をしたということが、妹の様子を見てすぐに分かりました。

 妹は、ルシアンに恋をしていたのです。

 それに気づいた時、私もルシアンに対する自分の気持を知りました。誰もが妹を好きになることは分かっていたので、私は気づいたばかりの感情に蓋をしようと思いました。
 ですが、ルシアンは何故か妹を冷たくあしらい続け、変わらず私の隣で共に勉学に励んでいます。

「シェーラ。俺の顔に、何かついてる?」
「いえ。別に……」

 馬車の向かいに座るルシアンは、小首をかしげて丸く大きなエメラルドの瞳で私を見つめ返しました。

 ルシアンは私と二人だけの時、極厚眼鏡を外して過ごします。あの眼鏡は、植物の観察用と、見たくない人の顔を見ないようにする為にかけているそうです。
 ですが、普段から外していた方が、変人扱いされずに済むだろうにと考えてしまいます。
 ルシアンは、今まで見たどの殿方より顔の造形が整っているのです。肩まで伸びた金髪は無造作に束ねられているだけですが、繊細でとても綺麗ですし、初めて会った時より背も伸びて、ますます魅力的に成長しています。
 ガブリエラが一目惚れした気持ちは分かります。   
 私も、そうだったのですから。

「今日は、忙しい日だな」
「え?」

 屋敷に着くと、何やらいつもと様子が違いました。
 使用人達が普段より念入りに掃除に勤しんでいるのです。帰宅した私とルシアンの前に慌てて現れたのはメイド長でした。

「シェーラ様、ルシアン様、お帰りなさいませ」
「忙しそうですね」
「そうなんです! サリュウス伯爵が明日いらっしゃることになりまして」
「はぁ!?」

 驚いて声を上げたのはルシアンです。
 普段から落ち着いた彼としては、珍しい反応です。

「あら。お知り合いですか? ルシアン様と同じく隣国の方だとお伺いしました」
「ああ。そうだが……。何をしに来るのだ?」
「ガブリエラ様にドレスをお持ちくださるそうです。来月の誕生日にお召になれるように」
「そう。ついに約束の日なのね」

 いつかこの日が訪れると分かってはいたものの、初めてお相手が誰か分かると、急に現実見が出てきて、ガブリエラとの別れが寂しくなりました。

「とてもご立派な伯爵様とのお噂で、奥様もお喜びです」
「そうね。明日が、楽しみね」

 私は寂しさを忘れようと、笑顔を作りましたが、隣に立つルシアンは険しい表情で立っていました。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

氷の公爵の婚姻試験

恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

処理中です...