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002 誰からも愛される妹
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妹のガブリエラは、鈴蘭の精霊の加護を受けた稀有な存在です。妹が微笑めば、誰もが彼女を愛し慈しみ。妹が悲しめば、暗雲が立ち込め空に雨を降らせます。
妹が生まれてから、ただの田舎だった我がルロワ領は、作物がよく育つ肥沃な大地へと成長しました。
鈴蘭の精霊はルロワ領に幸をもたらし、妹はルロワの妖精として人々から愛されているのです。
妹の噂を聞きつけて学園に現れる殿方達は、ルロワの妖精であるルロワ家の令嬢を探して訪ねてくるため、同じ姓である私のところへ度々求婚に現れてしまいます。
学園の方々は、どこの馬の骨とも分からない殿方から妹を守るために、ルロワ嬢を探す方には、敢えて私の居場所を教えているのでしょう。
ですが、折角遠方から現れた方を無碍に扱うのは申し訳ないので、私はガブリエラの居場所を教えることにしています。
妹のことは、鈴蘭の精霊が守ってくれるので、会えなかったことを悔やみ、付きまとわれるようになるより良いと思っています。
しかし鈴蘭の精霊は、本来、人に危害を加えるような精霊ではないのですが、妹が学園に入学してから言い寄る殿方が激増したせいか、妹の意志に従い、妹を守る為に力を振るうようになりました。
学園の入り口まで来ると、帰りの馬車へ乗り込む妹を見つけました。
「ガブリエラ?」
「あら。お姉様。わたくし、疲れたので帰りますわ」
「もしかして、もうお会いしたかしら?」
「あー。あの失礼な子ね。無力な護衛までぞろぞろ引き連れて来るなんて。力で脅そうとしても無駄なんだから。顔が赤かったので、冷やして差し上げたわ」
ガブリエラは自慢気にほほえみました。
どうやら一足遅かったようです。
「ガブリエラ。あの子、レオナルド王子だそうよ。今どちらにいらっしゃるの?」
「王子? それが何だって言うの? わたくしは皆から愛される存在ですのよ。放っておけばいいのよ」
全く反省の色を見せないガブリエラには呆れますが、それも仕方のないことです。ガブリエラは今まで、何をしても誰からも非難されたことなどないのですから。
「シェーラ。放っておけばいい」
「あら。ルシアン様。珍しく、わたくしと意見が合いましたわね」
「…………」
ガブリエラが瞳を輝かせてルシアンに話しかけると、彼は無言で妹から顔を背けました。眼鏡が光を反射させ、瞳は見えませんが、不機嫌なことは誰が見ても分かります。
「まぁっ!? そうやってわたくしに話しかけられて顔を背けるのは、ルシアン様ぐらいですわ。他の方々は、わたくしから目を逸らすなんてしないもの。さっきの王子だって、目が覚めれば全て良い方へと解釈してくださるわ」
「そうかもしれないけれど……」
私がそう言葉を濁すと、妹は憤慨して口をとがらせました。
「かもじゃなくってよ! いつもお姉様は心配しすぎよ。お姉様は誰からも見向きもされないからそうなのかもしれないけれど、私は違うの。何をしても、誰もわたくしを責めたりなんかしないわ」
そう誇らしげに胸を張る妹は、まさにその言葉の通りの人生を歩んできました。ですが、私はそれが心配でなりませんでした。
「シェーラ。時間の無駄だ。行くぞ」
「ルシアン様っ!? ちょっと、お待――」
ルシアンは私の手を引き広場を去ります。
ガブリエラは怒ってなにか喚いていますが、彼は振り返ろうともせず、裏庭へ続くアーチを進みました。
「向こうの裏庭に鈴蘭の気配が残っている。行こう」
「ええ。ありがとう。ルシアン」
どうか王子が無事ですように。
心の中で祈りながら、私は早足でルシアンについていきました。
妹が生まれてから、ただの田舎だった我がルロワ領は、作物がよく育つ肥沃な大地へと成長しました。
鈴蘭の精霊はルロワ領に幸をもたらし、妹はルロワの妖精として人々から愛されているのです。
妹の噂を聞きつけて学園に現れる殿方達は、ルロワの妖精であるルロワ家の令嬢を探して訪ねてくるため、同じ姓である私のところへ度々求婚に現れてしまいます。
学園の方々は、どこの馬の骨とも分からない殿方から妹を守るために、ルロワ嬢を探す方には、敢えて私の居場所を教えているのでしょう。
ですが、折角遠方から現れた方を無碍に扱うのは申し訳ないので、私はガブリエラの居場所を教えることにしています。
妹のことは、鈴蘭の精霊が守ってくれるので、会えなかったことを悔やみ、付きまとわれるようになるより良いと思っています。
しかし鈴蘭の精霊は、本来、人に危害を加えるような精霊ではないのですが、妹が学園に入学してから言い寄る殿方が激増したせいか、妹の意志に従い、妹を守る為に力を振るうようになりました。
学園の入り口まで来ると、帰りの馬車へ乗り込む妹を見つけました。
「ガブリエラ?」
「あら。お姉様。わたくし、疲れたので帰りますわ」
「もしかして、もうお会いしたかしら?」
「あー。あの失礼な子ね。無力な護衛までぞろぞろ引き連れて来るなんて。力で脅そうとしても無駄なんだから。顔が赤かったので、冷やして差し上げたわ」
ガブリエラは自慢気にほほえみました。
どうやら一足遅かったようです。
「ガブリエラ。あの子、レオナルド王子だそうよ。今どちらにいらっしゃるの?」
「王子? それが何だって言うの? わたくしは皆から愛される存在ですのよ。放っておけばいいのよ」
全く反省の色を見せないガブリエラには呆れますが、それも仕方のないことです。ガブリエラは今まで、何をしても誰からも非難されたことなどないのですから。
「シェーラ。放っておけばいい」
「あら。ルシアン様。珍しく、わたくしと意見が合いましたわね」
「…………」
ガブリエラが瞳を輝かせてルシアンに話しかけると、彼は無言で妹から顔を背けました。眼鏡が光を反射させ、瞳は見えませんが、不機嫌なことは誰が見ても分かります。
「まぁっ!? そうやってわたくしに話しかけられて顔を背けるのは、ルシアン様ぐらいですわ。他の方々は、わたくしから目を逸らすなんてしないもの。さっきの王子だって、目が覚めれば全て良い方へと解釈してくださるわ」
「そうかもしれないけれど……」
私がそう言葉を濁すと、妹は憤慨して口をとがらせました。
「かもじゃなくってよ! いつもお姉様は心配しすぎよ。お姉様は誰からも見向きもされないからそうなのかもしれないけれど、私は違うの。何をしても、誰もわたくしを責めたりなんかしないわ」
そう誇らしげに胸を張る妹は、まさにその言葉の通りの人生を歩んできました。ですが、私はそれが心配でなりませんでした。
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「ルシアン様っ!? ちょっと、お待――」
ルシアンは私の手を引き広場を去ります。
ガブリエラは怒ってなにか喚いていますが、彼は振り返ろうともせず、裏庭へ続くアーチを進みました。
「向こうの裏庭に鈴蘭の気配が残っている。行こう」
「ええ。ありがとう。ルシアン」
どうか王子が無事ですように。
心の中で祈りながら、私は早足でルシアンについていきました。
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