2 / 35
001 王子の求婚
しおりを挟む
「シェーラ=ルロワ嬢! 僕と婚約してください!」
振り返ると、深々と頭を下げ、バラの花束を掲げた背の低い少年の姿がありました。
今回の相手は、随分と若く、どう見てもまだ子供です。
ああ。また来たのね。私は心の中で、そう呟きました。
顔を合わせるまでもなく、彼がどんな反応をするのか、私には分かっていたのです。
そして、これからどんな言葉を紡ぐであろうかも。
「えーっとぉ。君がシェーラ嬢?」
「はい。左様でございます」
「嘘だろ!? そんな馬鹿な……」
掲げていたバラの花束を地面に落とし、少年は私の顔をまじまじと見つめて落胆しました。
こんなことは、もう慣れたものです。
「絶世の美女って聞いてきたんだけど? 君、普通過ぎだよね? まさかその顔で、とか言わないよね?」
名前すら名乗っていない無礼な少年は、私を残念そうに見上げて尋ねました。
こんな台詞も耳にたこです。
なので、返す言葉もいつもと同じです。
「おそらく、妹のガブリエラとお間違いかと存じます」
「えっ? 妹!? そ、その妹ってさ、髪は白銀で唇は桃色、声音は鈴が如く可憐で誰もが振り返る絶世の美女って奴?」
何と口の悪いガキ……ではなくて、お坊ちゃまなのでしょう。
「はい。新校舎におりますよ」
「そっか。でも、君の妹なんだよね?」
「……私は、妹とは似ていません。妹は、噂通りの身形だと思いますよ」
「ふぅーん。ありがと。それなら、バラを無駄にしなくて済みそうだ。――よぉしっ! 行ってくる」
口の悪い坊ちゃまは、意外と素直に御礼を言える子だったみたいです。
それなら、少しだけ忠告してあげようと思いました。
「あの。頭上と左右。それから後ろに気を付けてくださいね」
「は?」
「何か飛んでくるかもしれませんので」
「僕には近衛騎士がついているから平気だよ。ご忠告どうも」
少年は軽く手を振ると、校舎の方へ走っていきました。その後ろには、数名の騎士の姿があります。
「近衛騎士?」
ということは、今の少年は――。
「シェーラ。さっきの奴が誰だか知らないのか?」
「あら。ルシアン」
後ろから声をかけてきたのは、ルシアンでした。
黒いローブは裾が泥だらけで、ついさっきまで花壇で花をいじっていたのが伺えます。
彼の名前はルシアン=サース。丸い極厚のメガネをかけた留学生の彼は、私と同じ魔法植物学を選考する唯一の同期です。
「さっきのは、この国の若き王子。名前は……忘れた」
「確か、レオナルド王子だわ」
「そう。それそれ。追いかけなくていいのか?」
「追いかける?」
「ああ。あの調子だと、名乗らないだろうな。さすがに不味いだろ。ガブリエラの性格だと……」
ガブリエラは気位が高く、求婚してきた相手をいつも試すのです。
しかも、最近は以前よりエスカレートしてきて、前回の求婚者は、怪鳥に襲われ翌日裏山で発見される始末でした。
さすがに王子にまでそんなことはしないと思いますが、王子だと気付かずに何かしてしまったら……。
「大変っ。急がなくちゃ」
「俺も行く。面白そうだし」
「もう。ルシアンったら」
私は、ルシアンと二人で新校舎へと急ぎました。
振り返ると、深々と頭を下げ、バラの花束を掲げた背の低い少年の姿がありました。
今回の相手は、随分と若く、どう見てもまだ子供です。
ああ。また来たのね。私は心の中で、そう呟きました。
顔を合わせるまでもなく、彼がどんな反応をするのか、私には分かっていたのです。
そして、これからどんな言葉を紡ぐであろうかも。
「えーっとぉ。君がシェーラ嬢?」
「はい。左様でございます」
「嘘だろ!? そんな馬鹿な……」
掲げていたバラの花束を地面に落とし、少年は私の顔をまじまじと見つめて落胆しました。
こんなことは、もう慣れたものです。
「絶世の美女って聞いてきたんだけど? 君、普通過ぎだよね? まさかその顔で、とか言わないよね?」
名前すら名乗っていない無礼な少年は、私を残念そうに見上げて尋ねました。
こんな台詞も耳にたこです。
なので、返す言葉もいつもと同じです。
「おそらく、妹のガブリエラとお間違いかと存じます」
「えっ? 妹!? そ、その妹ってさ、髪は白銀で唇は桃色、声音は鈴が如く可憐で誰もが振り返る絶世の美女って奴?」
何と口の悪いガキ……ではなくて、お坊ちゃまなのでしょう。
「はい。新校舎におりますよ」
「そっか。でも、君の妹なんだよね?」
「……私は、妹とは似ていません。妹は、噂通りの身形だと思いますよ」
「ふぅーん。ありがと。それなら、バラを無駄にしなくて済みそうだ。――よぉしっ! 行ってくる」
口の悪い坊ちゃまは、意外と素直に御礼を言える子だったみたいです。
それなら、少しだけ忠告してあげようと思いました。
「あの。頭上と左右。それから後ろに気を付けてくださいね」
「は?」
「何か飛んでくるかもしれませんので」
「僕には近衛騎士がついているから平気だよ。ご忠告どうも」
少年は軽く手を振ると、校舎の方へ走っていきました。その後ろには、数名の騎士の姿があります。
「近衛騎士?」
ということは、今の少年は――。
「シェーラ。さっきの奴が誰だか知らないのか?」
「あら。ルシアン」
後ろから声をかけてきたのは、ルシアンでした。
黒いローブは裾が泥だらけで、ついさっきまで花壇で花をいじっていたのが伺えます。
彼の名前はルシアン=サース。丸い極厚のメガネをかけた留学生の彼は、私と同じ魔法植物学を選考する唯一の同期です。
「さっきのは、この国の若き王子。名前は……忘れた」
「確か、レオナルド王子だわ」
「そう。それそれ。追いかけなくていいのか?」
「追いかける?」
「ああ。あの調子だと、名乗らないだろうな。さすがに不味いだろ。ガブリエラの性格だと……」
ガブリエラは気位が高く、求婚してきた相手をいつも試すのです。
しかも、最近は以前よりエスカレートしてきて、前回の求婚者は、怪鳥に襲われ翌日裏山で発見される始末でした。
さすがに王子にまでそんなことはしないと思いますが、王子だと気付かずに何かしてしまったら……。
「大変っ。急がなくちゃ」
「俺も行く。面白そうだし」
「もう。ルシアンったら」
私は、ルシアンと二人で新校舎へと急ぎました。
11
お気に入りに追加
1,994
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。
朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。
そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。
だけど、他の生徒は知らないのだ。
スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。
真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?
氷の公爵の婚姻試験
黎
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる