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最終章
007 兄
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「き、貴様に兄と呼ばれる筋合いはない!」
「そうですか。私はお兄様を尊敬しておりましたのに、私だと分からず、替え玉と仰るのですね」
取り乱すレオナルドにアレクシアは悲しげにそう言った。レオナルドは自身の腕に着けた王家の証に触れ魔力を送り込んだ。中央の魔石は淡く光を宿し、アレクシアの腕の魔石もそれに呼応して光を放った。
あの王家の証は本物だ。だとしたら、やはりマルクは偽の腕輪を持ち帰りレオナルドを騙し、目の前のアレクシアは偽物であると考えるのが妥当だ。
「あ、アレクシアの真似をするな!? ベネディッド様。その者に耳を傾けてはならぬ。そいつは詐欺師で裏切り者。私もそいつに欺かれた一人なのだ!」
ベネディッドは落ち着きのないレオナルドにため息を漏らし、呆れながらも尋ねた。
「さっきから被害者ぶっていらっしゃいますけど、それって、替え玉を送ってロンバルトを騙そうとして、慰謝料をぶん取ろうとしたってことですよね。レオナルド様?」
ロンバルトに訴えられても仕方がないことだ。
だから何としてでも替え玉の小娘に全ての罪を背負わせなければならない。
レオナルドは焦り、早口で弁明を図った。
「ち、違う。アレクシアに扮したそいつが勝手にしたこと。アレクシアはただ……」
「別に思う人がいて、私との婚約を破棄したかっただけだ。とでも?」
「し、知っているのか? 貴様っ。勝手にそんな話までして……ルナステラを陥れる気だな!?」
レオナルドが更に憤慨してアレクシアに詰め寄ると、ベネディッドが彼を静止させた。アレクシアはレオナルドにキツく睨まれながらも、怯むことなく言葉を紡いだ。
「そのようなつもりはございません。私はただ、ベネディッド様との婚約を破棄し、あの方の元へ行きたかっただけです。それなのにお兄様は、私を事故死と見せかけ、命を奪おうと計画したのですよね。私はルナステラを陥れようなどとしておりません。……お兄様が、ご自分でご自身の首を締められたのでしょう?」
「アレクシア。私はお前と……。ん? アレクシア?」
レオナルドはベネディッドの隣の女性を凝視して固まってしまった。その女性がアレクシアにしか見えないからだ。
ベネディッドは迷い始めたレオナルドに追い打ちをかけた。
「レオナルド様。先程からどうされたのですか? 替え玉がどうとか、私はそんな話、ひと言もしておりません。もしそんな事実があるのなら、ロンバルトを冒涜した罪を、ルナステラに償っていただかなくてはならないのですが。よろしいのですか?」
「そ、それは……」
「私が償っていただきたいのは、妹君であるアレクシア様を暗殺されようとした罪です。アレクシアには色々と世話になったので、それで済ませたいと言っているのですよ?」
それで済ませたい。レオナルドはベネディッドの言葉の意味を理解したくなかった。それを理解してしまえば、全てを失う。そう直感的に悟ったからだ。
「ち、違う。誤解なのだ。私は妹を殺めようなどと考えたことはない。偽物を……。しかし、何故アレクシアが? ここにいる筈が無い。アレクシアは――。きゅっ、急用を思い出した。失礼する」
レオナルドは、待機していた近衛騎士にベネディッド達を見張るよう目で合図し、扉へ向かって逃げるように歩き出した。
アレクシアは自室でレオナルドを待っている筈だ。ロンバルトが替え玉に気付いていたとしても、簡単には手出しできない。だから、目の前にいるアレクシアは偽物で、本物のアレクシアを炙り出すための駒に過ぎないのだ。
それに、ここはルナステラ城だ。かつてドラゴンを倒したと言われるベネディッド王子だが、最近はただの色ボケぐうたら王子との噂。従者はたった一人の騎士と替え玉の小娘だけ。簡単に捻り潰すことが出来る。レオナルドは混乱する頭の中で必死に自分に言い聞かせた。
「お兄様。お待ち下さいっ」
「うるさいっ!? 兄などと呼ぶなっ!」
アレクシアを怒鳴りつけ、レオナルドは貴賓室を飛び出した。そして廊下へ出ると、目の前に立ちはだかる黒騎士とぶつかりそうになった。
「マルク。貴様、よくも裏切っ……。だ、誰だっ!?」
目の前にいたのはマルクではなかった。若草色の髪の若い男で、その隣にはアレクシアに似た銀髪でエメラルドの瞳の少女がレオナルドをきつく睨んでいた。
「まさか。お前は……」
「はい。ルゥナと申します。レオナルド様、どこへ行かれるのですか?」
「そうですか。私はお兄様を尊敬しておりましたのに、私だと分からず、替え玉と仰るのですね」
取り乱すレオナルドにアレクシアは悲しげにそう言った。レオナルドは自身の腕に着けた王家の証に触れ魔力を送り込んだ。中央の魔石は淡く光を宿し、アレクシアの腕の魔石もそれに呼応して光を放った。
あの王家の証は本物だ。だとしたら、やはりマルクは偽の腕輪を持ち帰りレオナルドを騙し、目の前のアレクシアは偽物であると考えるのが妥当だ。
「あ、アレクシアの真似をするな!? ベネディッド様。その者に耳を傾けてはならぬ。そいつは詐欺師で裏切り者。私もそいつに欺かれた一人なのだ!」
ベネディッドは落ち着きのないレオナルドにため息を漏らし、呆れながらも尋ねた。
「さっきから被害者ぶっていらっしゃいますけど、それって、替え玉を送ってロンバルトを騙そうとして、慰謝料をぶん取ろうとしたってことですよね。レオナルド様?」
ロンバルトに訴えられても仕方がないことだ。
だから何としてでも替え玉の小娘に全ての罪を背負わせなければならない。
レオナルドは焦り、早口で弁明を図った。
「ち、違う。アレクシアに扮したそいつが勝手にしたこと。アレクシアはただ……」
「別に思う人がいて、私との婚約を破棄したかっただけだ。とでも?」
「し、知っているのか? 貴様っ。勝手にそんな話までして……ルナステラを陥れる気だな!?」
レオナルドが更に憤慨してアレクシアに詰め寄ると、ベネディッドが彼を静止させた。アレクシアはレオナルドにキツく睨まれながらも、怯むことなく言葉を紡いだ。
「そのようなつもりはございません。私はただ、ベネディッド様との婚約を破棄し、あの方の元へ行きたかっただけです。それなのにお兄様は、私を事故死と見せかけ、命を奪おうと計画したのですよね。私はルナステラを陥れようなどとしておりません。……お兄様が、ご自分でご自身の首を締められたのでしょう?」
「アレクシア。私はお前と……。ん? アレクシア?」
レオナルドはベネディッドの隣の女性を凝視して固まってしまった。その女性がアレクシアにしか見えないからだ。
ベネディッドは迷い始めたレオナルドに追い打ちをかけた。
「レオナルド様。先程からどうされたのですか? 替え玉がどうとか、私はそんな話、ひと言もしておりません。もしそんな事実があるのなら、ロンバルトを冒涜した罪を、ルナステラに償っていただかなくてはならないのですが。よろしいのですか?」
「そ、それは……」
「私が償っていただきたいのは、妹君であるアレクシア様を暗殺されようとした罪です。アレクシアには色々と世話になったので、それで済ませたいと言っているのですよ?」
それで済ませたい。レオナルドはベネディッドの言葉の意味を理解したくなかった。それを理解してしまえば、全てを失う。そう直感的に悟ったからだ。
「ち、違う。誤解なのだ。私は妹を殺めようなどと考えたことはない。偽物を……。しかし、何故アレクシアが? ここにいる筈が無い。アレクシアは――。きゅっ、急用を思い出した。失礼する」
レオナルドは、待機していた近衛騎士にベネディッド達を見張るよう目で合図し、扉へ向かって逃げるように歩き出した。
アレクシアは自室でレオナルドを待っている筈だ。ロンバルトが替え玉に気付いていたとしても、簡単には手出しできない。だから、目の前にいるアレクシアは偽物で、本物のアレクシアを炙り出すための駒に過ぎないのだ。
それに、ここはルナステラ城だ。かつてドラゴンを倒したと言われるベネディッド王子だが、最近はただの色ボケぐうたら王子との噂。従者はたった一人の騎士と替え玉の小娘だけ。簡単に捻り潰すことが出来る。レオナルドは混乱する頭の中で必死に自分に言い聞かせた。
「お兄様。お待ち下さいっ」
「うるさいっ!? 兄などと呼ぶなっ!」
アレクシアを怒鳴りつけ、レオナルドは貴賓室を飛び出した。そして廊下へ出ると、目の前に立ちはだかる黒騎士とぶつかりそうになった。
「マルク。貴様、よくも裏切っ……。だ、誰だっ!?」
目の前にいたのはマルクではなかった。若草色の髪の若い男で、その隣にはアレクシアに似た銀髪でエメラルドの瞳の少女がレオナルドをきつく睨んでいた。
「まさか。お前は……」
「はい。ルゥナと申します。レオナルド様、どこへ行かれるのですか?」
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