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屋敷の門前に、コルネリウスは数十名の近衛騎士を並べて立ちはだかっていた。
実際に目にするまでは何かの茶番かと思っていたけれど、今までで一番おおごとっぽい。
両親も兄妹も誰もいない日を狙ったのか偶然なのか。
私が対応しなければならないなんて最悪だわ。
屋敷内には入れたくなかったので、私はアルトゥールと仕方なく門まで足を運んだ。ついでにユストゥスも後方に控えている。
「コルネリウス様。何のご用ですか?」
「……っ。エヴァンジェリーナか?」
「そうですが……?」
あ、化粧するのを忘れていたわ。
コルネリウスは顔を赤らめモゾモゾし出した。
気持ち悪いわね。
「ま、また魔法で惑わすとは、恐ろしい女め。しかし、私は騙されん! 今日は先日襲ってきた猪の討伐に来た。それから、ユストゥスとエヴァンジェリーナには、王都まで同行していただく 」
「は? 何で俺がお前なんかと同行しなきゃいけないんだ?」
ユストゥスが反論すると、コルネリウスは高らかに笑い出した。
「はっはっはっ。ユストゥス、貴様は終わりだ。我が国への不法侵入の罪で貴様を捕えよと王命が出ている。それから、エヴァンジェリーナはロドリゲス辺境伯に差し出してやることにした」
「えー。要するに、兄様の機嫌取りにエヴァ様を差し出して、俺は人質ってことか?」
「まぁそんなところだ。辺狂伯と呼ばれる貴様の愚兄を、我が国の言いなりにするのだ!」
「そんなことしたら兄様に国中ひっくり返されますよ?」
ユストゥスの言葉にコルネリウス以外の近衛騎士達は顔を青くさせている。
ひっくり返すって何をどうするのかしら。
アルトゥールは呆れた顔でコルネリウスを眺めている。
「流石に弟を人質に取られてそんな悪行を犯すものはいないだろう。ユストゥスを捕えよ!」
「お、お待ち下さい。父は、ベリス侯爵はこの事を知っているのですか? いくら王命と言えど、父の客人を勝手に引き渡すなんてできません」
「エヴァ様……」
ユストゥスが感嘆の声をもらした。
隣からはアルトゥールの熱い視線を感じる。
しかし何故、この二人はこんなに余裕でいられるのだろう。大勢の騎士を前に、私の足は震えているのに。
「それなら心配するな。ベリス侯爵の許可はない! しかし優先されるべくは王命だ。衛兵、二人を捕えよ!」
騎士達が動き出すと同時にアルトゥールとユストゥスが剣を抜いた。さすがにそれにはコルネリウスも顔色を悪くさせて騎士の後ろに体を隠した。
「き、貴様ら王命に逆らうつもりか!?」
「ああ。それは我等の王ではないからな」
アルトゥールがコルネリウスに剣を向けて告げる。
二対、数十の騎士なのに、余裕の笑みを浮かべていて、アルトゥールの背中を目の前にしたら、不思議と私も大丈夫な気がしてきた。
「何だとっ。執事の分際で生意気なっ。お、王都にいるベリス侯爵らがどうなっても良いのか!」
二人は顔色ひとつ変えないけれど、私には辛い一言だった。だだの脅しの常套句なのかもしれないけれど、その保証はどこにもないのだから。
「お、お願い。剣を納めて……」
二人が剣を引くとコルネリウスはまた高らかに笑った。
「はっはっはっ。エヴァンジェリーナ、君の判断は正しいぞ! そうだ。猪狩りも済ませなければ。後衛部隊は森に火を放て!」
「へ? な、何をするの!?」
「言葉の通りだぞ。ちまちま猪を追いかけるなど時間の無駄。森ごと無くしてしまえば良いのだ」
「ひ、酷い。沢山の動物達が住んでいるのに……」
コルネリウスの号令で騎士達の持つ松明に火が灯されると、アルトゥールは大きな溜め息を吐いてから呟いた。
「……ユス。自分の身は自分で守れよ」
実際に目にするまでは何かの茶番かと思っていたけれど、今までで一番おおごとっぽい。
両親も兄妹も誰もいない日を狙ったのか偶然なのか。
私が対応しなければならないなんて最悪だわ。
屋敷内には入れたくなかったので、私はアルトゥールと仕方なく門まで足を運んだ。ついでにユストゥスも後方に控えている。
「コルネリウス様。何のご用ですか?」
「……っ。エヴァンジェリーナか?」
「そうですが……?」
あ、化粧するのを忘れていたわ。
コルネリウスは顔を赤らめモゾモゾし出した。
気持ち悪いわね。
「ま、また魔法で惑わすとは、恐ろしい女め。しかし、私は騙されん! 今日は先日襲ってきた猪の討伐に来た。それから、ユストゥスとエヴァンジェリーナには、王都まで同行していただく 」
「は? 何で俺がお前なんかと同行しなきゃいけないんだ?」
ユストゥスが反論すると、コルネリウスは高らかに笑い出した。
「はっはっはっ。ユストゥス、貴様は終わりだ。我が国への不法侵入の罪で貴様を捕えよと王命が出ている。それから、エヴァンジェリーナはロドリゲス辺境伯に差し出してやることにした」
「えー。要するに、兄様の機嫌取りにエヴァ様を差し出して、俺は人質ってことか?」
「まぁそんなところだ。辺狂伯と呼ばれる貴様の愚兄を、我が国の言いなりにするのだ!」
「そんなことしたら兄様に国中ひっくり返されますよ?」
ユストゥスの言葉にコルネリウス以外の近衛騎士達は顔を青くさせている。
ひっくり返すって何をどうするのかしら。
アルトゥールは呆れた顔でコルネリウスを眺めている。
「流石に弟を人質に取られてそんな悪行を犯すものはいないだろう。ユストゥスを捕えよ!」
「お、お待ち下さい。父は、ベリス侯爵はこの事を知っているのですか? いくら王命と言えど、父の客人を勝手に引き渡すなんてできません」
「エヴァ様……」
ユストゥスが感嘆の声をもらした。
隣からはアルトゥールの熱い視線を感じる。
しかし何故、この二人はこんなに余裕でいられるのだろう。大勢の騎士を前に、私の足は震えているのに。
「それなら心配するな。ベリス侯爵の許可はない! しかし優先されるべくは王命だ。衛兵、二人を捕えよ!」
騎士達が動き出すと同時にアルトゥールとユストゥスが剣を抜いた。さすがにそれにはコルネリウスも顔色を悪くさせて騎士の後ろに体を隠した。
「き、貴様ら王命に逆らうつもりか!?」
「ああ。それは我等の王ではないからな」
アルトゥールがコルネリウスに剣を向けて告げる。
二対、数十の騎士なのに、余裕の笑みを浮かべていて、アルトゥールの背中を目の前にしたら、不思議と私も大丈夫な気がしてきた。
「何だとっ。執事の分際で生意気なっ。お、王都にいるベリス侯爵らがどうなっても良いのか!」
二人は顔色ひとつ変えないけれど、私には辛い一言だった。だだの脅しの常套句なのかもしれないけれど、その保証はどこにもないのだから。
「お、お願い。剣を納めて……」
二人が剣を引くとコルネリウスはまた高らかに笑った。
「はっはっはっ。エヴァンジェリーナ、君の判断は正しいぞ! そうだ。猪狩りも済ませなければ。後衛部隊は森に火を放て!」
「へ? な、何をするの!?」
「言葉の通りだぞ。ちまちま猪を追いかけるなど時間の無駄。森ごと無くしてしまえば良いのだ」
「ひ、酷い。沢山の動物達が住んでいるのに……」
コルネリウスの号令で騎士達の持つ松明に火が灯されると、アルトゥールは大きな溜め息を吐いてから呟いた。
「……ユス。自分の身は自分で守れよ」
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