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あの後、私は恥ずかしくなって食堂から飛び出し、庭掃除中のダリアに突撃した。そしたらダリアにも言われてしまった。
「お嬢様はアルトゥール様の事、大好きではありませんか。まだお気づきでなかったのですか?」
ダリアは満面の笑みを私に向け、どこまでもついて行くので、素直になってくださいと付け足した。
ダリアの事だから、調子よく私をからかっているだけかもしれない。
でも、お父様達はまだ王都から帰られていないから、誰にも相談も出来なかった。
私はまた、ノワールと森へ足を伸ばした。
湖畔はすぐに見つかってしまう気がして、湖を見下ろせる丘の上で休むことにした。
「平和ね~」
私の心とは正反対。頭の中はぐっちゃぐちゃだわ。
昨日、私はアルトゥールに言った。
アルトゥールの事ばかり考えてしまうとか、嫌われたくないと思ってしまうとか。
何でも完璧にこなす彼の隣なんて相応しくないと思うと悲しくなってしまうとか。
でも、ユストゥスやダリアの言う通りなら、私はアルトゥールに告白してしまったようなものなのではないかしら。
「私、アルトゥールの事が好きなのかしら……」
この気持ちが呪いでないのなら、それしかない。
アルトゥールがアルジャンだからこんな気持ちになってしまうのか。
多分違う。
私は、アルトゥールと一緒にいたいって思っている。
今朝目覚めた時、彼がいて安心した。
その後すぐビックリしたけど。
キスを試したいと言われて目を閉じた時、とてもドキドキした。
唇に触れられて驚いて叩いてしまったけれど。
顔が熱くなってきて頬に手を当てる。
食堂でアルトゥールはどんな顔をしていたかしら。
隣にいたから、全然見ていなかった、というか見れなかったのよね。
「ああっ。もう分からないっ」
私が悶絶しているとノワールがブルッと鼻をならした。
ノワールの視線の先は高い崖の絶壁だった。
その崖の中腹に取り残された白い毛玉が見えた。
「ウサギ……。 大変だわっ」
私はノワールに乗り、崖の下へと急いだ。
◇◇
森にエヴァを探しに来た。
今日はいつもの湖畔ではないらしい。
匂いですぐ分かるのに、かくれたつもりだろうか。
それに、もしもまた寝たふりをしていたらどうするべきだろうか。
思案している間にエヴァを発見した。
彼女はノワールに乗ったまま崖を見上げていた。
その視線の先には、崖の途中に取り残された白兎がいる。
「エヴァっ」
「あ、アルトゥール! ウサギが……どうしましょう!?」
相変わらず動物の事となると一所懸命だ。
どんな顔で会えば良いのか分からなかったが、気にすることはない。
ウサギに感謝しなくては。
しかしどうやって助けようか。
「あの高さなら、狼になれれば……」
「でも。なれなかったじゃない」
ユスは言っていた。呪いをコントロールするには、相手の魔力と自分自身の意思が必要だと。
確かに、昨夜は狼になりたいと思っていたし、朝は人に戻りたいと思った。試そうとした時はエヴァが目を瞑って俺を待つから……。
狼になるという目的を失念していた気がする。
「もう一度だけ試していいか?」
エヴァが口元を手で覆い顔を真っ赤にして俺を睨んだ。その仕草を可愛いと思ってしまうが口には出さずに我慢した。
「額に……するので」
「そ、それなら……いいわよ」
いいんだ。というか、また目を瞑っている。
今度は口を手で隠して。
落ち着け、早くウサギを助けなくてはいけないのだから。
俺は微かに震えるエヴァの肩を手で包み、その額に口づけをした。
「お嬢様はアルトゥール様の事、大好きではありませんか。まだお気づきでなかったのですか?」
ダリアは満面の笑みを私に向け、どこまでもついて行くので、素直になってくださいと付け足した。
ダリアの事だから、調子よく私をからかっているだけかもしれない。
でも、お父様達はまだ王都から帰られていないから、誰にも相談も出来なかった。
私はまた、ノワールと森へ足を伸ばした。
湖畔はすぐに見つかってしまう気がして、湖を見下ろせる丘の上で休むことにした。
「平和ね~」
私の心とは正反対。頭の中はぐっちゃぐちゃだわ。
昨日、私はアルトゥールに言った。
アルトゥールの事ばかり考えてしまうとか、嫌われたくないと思ってしまうとか。
何でも完璧にこなす彼の隣なんて相応しくないと思うと悲しくなってしまうとか。
でも、ユストゥスやダリアの言う通りなら、私はアルトゥールに告白してしまったようなものなのではないかしら。
「私、アルトゥールの事が好きなのかしら……」
この気持ちが呪いでないのなら、それしかない。
アルトゥールがアルジャンだからこんな気持ちになってしまうのか。
多分違う。
私は、アルトゥールと一緒にいたいって思っている。
今朝目覚めた時、彼がいて安心した。
その後すぐビックリしたけど。
キスを試したいと言われて目を閉じた時、とてもドキドキした。
唇に触れられて驚いて叩いてしまったけれど。
顔が熱くなってきて頬に手を当てる。
食堂でアルトゥールはどんな顔をしていたかしら。
隣にいたから、全然見ていなかった、というか見れなかったのよね。
「ああっ。もう分からないっ」
私が悶絶しているとノワールがブルッと鼻をならした。
ノワールの視線の先は高い崖の絶壁だった。
その崖の中腹に取り残された白い毛玉が見えた。
「ウサギ……。 大変だわっ」
私はノワールに乗り、崖の下へと急いだ。
◇◇
森にエヴァを探しに来た。
今日はいつもの湖畔ではないらしい。
匂いですぐ分かるのに、かくれたつもりだろうか。
それに、もしもまた寝たふりをしていたらどうするべきだろうか。
思案している間にエヴァを発見した。
彼女はノワールに乗ったまま崖を見上げていた。
その視線の先には、崖の途中に取り残された白兎がいる。
「エヴァっ」
「あ、アルトゥール! ウサギが……どうしましょう!?」
相変わらず動物の事となると一所懸命だ。
どんな顔で会えば良いのか分からなかったが、気にすることはない。
ウサギに感謝しなくては。
しかしどうやって助けようか。
「あの高さなら、狼になれれば……」
「でも。なれなかったじゃない」
ユスは言っていた。呪いをコントロールするには、相手の魔力と自分自身の意思が必要だと。
確かに、昨夜は狼になりたいと思っていたし、朝は人に戻りたいと思った。試そうとした時はエヴァが目を瞑って俺を待つから……。
狼になるという目的を失念していた気がする。
「もう一度だけ試していいか?」
エヴァが口元を手で覆い顔を真っ赤にして俺を睨んだ。その仕草を可愛いと思ってしまうが口には出さずに我慢した。
「額に……するので」
「そ、それなら……いいわよ」
いいんだ。というか、また目を瞑っている。
今度は口を手で隠して。
落ち着け、早くウサギを助けなくてはいけないのだから。
俺は微かに震えるエヴァの肩を手で包み、その額に口づけをした。
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