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「あのー。お二人はどの様な関係なのか良く分からないのですが……動物好きだと仰るなら兄様とピッタリじゃないですか」
私とアルトゥールを不思議そうに交互に見やると、ユスは微笑んでそう言った。
「どうして?」
「兄様は自然を守る為に尽力されてきた方なので。――ここだけの話ですが。実はこの国、攻め落とすつもりなんです。国土が小さいのは分かりますが、最近、森や動物を急速に排除してますよね。ウチの国の森の生態系も迷惑してまして。そういう国、許せない人なんですよ。亡くなった母上が動物大好きだった影響なんですけど」
「そ、そうなの?」
「ベリス侯爵領の森は好きだ。それに、侵略に関してはファウスティーナ様と話が付いている。ユスがここにいるってことは、辺境侵略は休息中か?」
「はい。叔父上は無気力将軍ですから。兄上は隣国の調査へ行かれたということにしてあります。久しぶりの休暇だと、皆、喜んでましたよ」
無気力将軍って何よ。
色々ツッコミどころが多過ぎて良く分からないわ。
「そうか。あまり気は進まないが、一度叔父上に会いに行く。この呪いについて話を聞きたい。エヴァ。一緒に来てくれないか? 上手く行けば、俺は人にも狼にもなれるかもしれない」
「そ、そんなこと言われても……私は……」
「返事は直ぐでなくていい。ゆっくり考えてくれ」
「へぇー。兄様、優しぃ~」
「ユス。俺はいつも優しいだろ」
「は、はい。……そうだ。ベリス侯爵様にご挨拶してもいいですか? 俺、多分また迷子になるんで、帰る時は兄様と一緒がいいんです!」
それって。君も居候させろってことかしら?
◇◇
父にユスを紹介して、数秒しか経っていないのだけれど――何故か二人は抱き合って涙を流している。
「今日から君は私の義理の息子だ!」
「お義父様ぁっ」
感動的? な雰囲気なのだけれど。
つい冷めた目でみてしまう。
ユスは父に言った。両親を早くに亡くしてしまい寂しい思いをしていた、と。
それから、自分の婚約者の両親は、次男坊である自分に娘を嫁がせることをあまり良く思っていない、と。
そして、俯いて恥ずかしそうに……。
「お、お義父様って呼んでもいいですか?」
「きゅん。ももももも勿論だとも!!」
お父様がきゅんってした。
この兄弟、もう何ヵ月でも家に居候しそうだ。
腰を痛めて部屋で横になっていた母も、ユスと会ったら痛みを忘れたそうだ。
都合の良い身体ですこと。
私の両親はロドリゲス家に弱いみたい。
みんなチョロ過ぎよ。
その夜。いつものようにダリアがマッサージをしてくれている時に、アルトゥールが部屋へやって来た。
「エヴァ。ちゃんと寝る前のケアは済んだか?」
「はいはい。やってますよー」
「そうか。じゃあ、俺はユスと客室で休むから、早く寝るんだぞ」
でた。小舅モード。
さっさと弟の所に戻りなさいよ。
今日からアルトゥールはユスと一緒の客室で寝泊まりすることになった。
ダリアが、ユスの為に客室をひと部屋用意したと伝えると、ユスは兄と隣の客室がいいとごねり、アルトゥールに客室は用意していないとダリアが意味深な笑みを浮かべて伝えると、久々に兄と同じ部屋で寝られる、と子どものように喜んだからだ。
「子どもじゃないんだから。ちゃんと寝るわよっ」
「ははっ。それなら良かった。おやすみ、エヴァ」
アルトゥールは安心した笑みを溢すと去っていった。
「まぁ。お嬢様。寂しいからってご機嫌斜めですか?」
「ダリア。このベッドを久々に一人で使えるのよ。上機嫌に決まっているわ!」
「そうですか。では、私も失礼しますね。おやすみなさいませ」
ダリアもいなくなり、部屋が静けさに包まれた。
静かすぎて落ち着かない。
ベッドの何処に足を伸ばしても、何の障害物も……温もりもない。
「わぁ~。広くて自由だわぁ」
私の声が、虚しく部屋を彷徨う。
「自由って……何だったかしら……」
ずっと怖いことから目を背けて、好きなことばかりして過ごしてきた。
それが私の自由だったのに。
何かが物足りない。
そう感じてしまうのは、何故かしら。
私とアルトゥールを不思議そうに交互に見やると、ユスは微笑んでそう言った。
「どうして?」
「兄様は自然を守る為に尽力されてきた方なので。――ここだけの話ですが。実はこの国、攻め落とすつもりなんです。国土が小さいのは分かりますが、最近、森や動物を急速に排除してますよね。ウチの国の森の生態系も迷惑してまして。そういう国、許せない人なんですよ。亡くなった母上が動物大好きだった影響なんですけど」
「そ、そうなの?」
「ベリス侯爵領の森は好きだ。それに、侵略に関してはファウスティーナ様と話が付いている。ユスがここにいるってことは、辺境侵略は休息中か?」
「はい。叔父上は無気力将軍ですから。兄上は隣国の調査へ行かれたということにしてあります。久しぶりの休暇だと、皆、喜んでましたよ」
無気力将軍って何よ。
色々ツッコミどころが多過ぎて良く分からないわ。
「そうか。あまり気は進まないが、一度叔父上に会いに行く。この呪いについて話を聞きたい。エヴァ。一緒に来てくれないか? 上手く行けば、俺は人にも狼にもなれるかもしれない」
「そ、そんなこと言われても……私は……」
「返事は直ぐでなくていい。ゆっくり考えてくれ」
「へぇー。兄様、優しぃ~」
「ユス。俺はいつも優しいだろ」
「は、はい。……そうだ。ベリス侯爵様にご挨拶してもいいですか? 俺、多分また迷子になるんで、帰る時は兄様と一緒がいいんです!」
それって。君も居候させろってことかしら?
◇◇
父にユスを紹介して、数秒しか経っていないのだけれど――何故か二人は抱き合って涙を流している。
「今日から君は私の義理の息子だ!」
「お義父様ぁっ」
感動的? な雰囲気なのだけれど。
つい冷めた目でみてしまう。
ユスは父に言った。両親を早くに亡くしてしまい寂しい思いをしていた、と。
それから、自分の婚約者の両親は、次男坊である自分に娘を嫁がせることをあまり良く思っていない、と。
そして、俯いて恥ずかしそうに……。
「お、お義父様って呼んでもいいですか?」
「きゅん。ももももも勿論だとも!!」
お父様がきゅんってした。
この兄弟、もう何ヵ月でも家に居候しそうだ。
腰を痛めて部屋で横になっていた母も、ユスと会ったら痛みを忘れたそうだ。
都合の良い身体ですこと。
私の両親はロドリゲス家に弱いみたい。
みんなチョロ過ぎよ。
その夜。いつものようにダリアがマッサージをしてくれている時に、アルトゥールが部屋へやって来た。
「エヴァ。ちゃんと寝る前のケアは済んだか?」
「はいはい。やってますよー」
「そうか。じゃあ、俺はユスと客室で休むから、早く寝るんだぞ」
でた。小舅モード。
さっさと弟の所に戻りなさいよ。
今日からアルトゥールはユスと一緒の客室で寝泊まりすることになった。
ダリアが、ユスの為に客室をひと部屋用意したと伝えると、ユスは兄と隣の客室がいいとごねり、アルトゥールに客室は用意していないとダリアが意味深な笑みを浮かべて伝えると、久々に兄と同じ部屋で寝られる、と子どものように喜んだからだ。
「子どもじゃないんだから。ちゃんと寝るわよっ」
「ははっ。それなら良かった。おやすみ、エヴァ」
アルトゥールは安心した笑みを溢すと去っていった。
「まぁ。お嬢様。寂しいからってご機嫌斜めですか?」
「ダリア。このベッドを久々に一人で使えるのよ。上機嫌に決まっているわ!」
「そうですか。では、私も失礼しますね。おやすみなさいませ」
ダリアもいなくなり、部屋が静けさに包まれた。
静かすぎて落ち着かない。
ベッドの何処に足を伸ばしても、何の障害物も……温もりもない。
「わぁ~。広くて自由だわぁ」
私の声が、虚しく部屋を彷徨う。
「自由って……何だったかしら……」
ずっと怖いことから目を背けて、好きなことばかりして過ごしてきた。
それが私の自由だったのに。
何かが物足りない。
そう感じてしまうのは、何故かしら。
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