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「お腹空いた。食事にしよう」
父の子供みたいな一言で、私達は揃って朝食を摂ることになった。
私の隣に当たり前に座っているのは、アルジャンの尻尾を持った変態。
私はそれをアルジャンモドキって呼ぶことにした。
メイドのダリアが兄の服を手直ししてアルジャンモドキに渡し、兄より背は高いが細身なそれは見事に着こなしていた。
母もメイド達もその姿に見惚れ、私だけは正気でありたかったけれど、背中に揺れるフワフワの尻尾が魅力的過ぎて目が離せなかった。
触りたいけど我慢我慢。
「では、アルトゥール様は弟君に呪いをかけられたのだね」
「はい。領へ戻ったら弟を磔の刑に処して実権を取り戻します」
「まぁ。頼もしいわ! 騎士団をお貸ししましょうか?」
いやいや。すごく怖い事言ってますよ?
それにお母様。騎士団貸したら宣戦布告になるのではないの? 勝手に戦争始めようとしないでよ。
アルトゥールは母の言葉を聞いても笑っていた。
「はははっ。民は私を選ぶでしょうし、弟を潰すことは容易なことですから、騎士団なんていりません。ただ、この尻尾をどうにかしないと……帰れませんね」
「そうか。どうすれば良いのだ。婿殿の力になりたいぞ」
お父様はちゃっかり婿って呼んでるし。
それを誰も否定しないし。
「エヴァが……。俺を愛してくれたら戻れると思うんです。昨日までみたいに――どうだい?」
笑顔を向けられ私は顔を背けた。
無理。イケメンでも権力者でも人間とか無理よ。
「エヴァ、旦那様に向かって失礼よ。ごめんなさいね。この子、子供の頃に姉と間違われて誘拐されて、それ以来人間不信なのよ」
「えっ? ――そうなのか?」
アルジャンモドキの手が優しく私の手に重ねられ、それを見た兄が驚いて立ち上がった。
「エヴァ。やはり人間嫌いが治ったのではないか? アルトゥール様が触れても、嫌ではないのだろう?」
「い、嫌に決まっているでしょう!?」
私が手を振り払うと、家族みんなニヤニヤし始めた。
「アルトゥール様。エヴァは家族以外の人間に触れられると、過度な緊張状態に陥って動けなくなってしまうのです」
「そうなのよ。これまで家に引きこもり、家族以外との触れ合いは避けて過ごしてきました。メイドのダリアに慣れるのも二年かかりましたの」
アルジャンモドキは私が叩いた手を擦りながら、頷いていた。
「そうでしたか……。あの、元婚約者様とはいかがだったのですか?」
「全てお伝えした上で婚約したのだが。昨日、初めて顔を合わせて、徐々に慣れていってもらう予定が、エヴァを干物女と罵って婚約を破棄してきたのだ」
「本当に、失礼しちゃうわ。でも、きっとそれも必然だったのだわ。アルトゥール様とエヴァを結びつける為の。――だからエヴァ。恥ずかしがらずにアルトゥール様と愛し合っていいのよ」
母が真面目な顔で諭すようにそう言った。
「はい?」
「そうだ。好きなだけ愛し合いなさい」
「お、お父様?」
「まだ陽は高いが気にするな。存分に愛し合いなさい」
愛し合えって何なのよっ。
嫌だって言ってるのに。
アルジャンモドキは恥ずかしそうに頬をかくと、力強く言葉を返した。
「はい。そうさせていただきます。エヴァ、もうしばらく世話になるよ?」
「な、何を勝手なことばかり……。私は……」
「そう恥ずかしがらなくて良いのだぞ。はっはっはっ」
父を筆頭に家族みんな笑い始めた。
駄目だ。何を言っても信じてもらえそうにない。
そう諦めた時、食堂の扉が開かれた。
「ごきげんよう。お父様、お母様。それからお兄様に、エヴァ」
公爵家へ嫁いだ姉が、急に帰ってきた。
父の子供みたいな一言で、私達は揃って朝食を摂ることになった。
私の隣に当たり前に座っているのは、アルジャンの尻尾を持った変態。
私はそれをアルジャンモドキって呼ぶことにした。
メイドのダリアが兄の服を手直ししてアルジャンモドキに渡し、兄より背は高いが細身なそれは見事に着こなしていた。
母もメイド達もその姿に見惚れ、私だけは正気でありたかったけれど、背中に揺れるフワフワの尻尾が魅力的過ぎて目が離せなかった。
触りたいけど我慢我慢。
「では、アルトゥール様は弟君に呪いをかけられたのだね」
「はい。領へ戻ったら弟を磔の刑に処して実権を取り戻します」
「まぁ。頼もしいわ! 騎士団をお貸ししましょうか?」
いやいや。すごく怖い事言ってますよ?
それにお母様。騎士団貸したら宣戦布告になるのではないの? 勝手に戦争始めようとしないでよ。
アルトゥールは母の言葉を聞いても笑っていた。
「はははっ。民は私を選ぶでしょうし、弟を潰すことは容易なことですから、騎士団なんていりません。ただ、この尻尾をどうにかしないと……帰れませんね」
「そうか。どうすれば良いのだ。婿殿の力になりたいぞ」
お父様はちゃっかり婿って呼んでるし。
それを誰も否定しないし。
「エヴァが……。俺を愛してくれたら戻れると思うんです。昨日までみたいに――どうだい?」
笑顔を向けられ私は顔を背けた。
無理。イケメンでも権力者でも人間とか無理よ。
「エヴァ、旦那様に向かって失礼よ。ごめんなさいね。この子、子供の頃に姉と間違われて誘拐されて、それ以来人間不信なのよ」
「えっ? ――そうなのか?」
アルジャンモドキの手が優しく私の手に重ねられ、それを見た兄が驚いて立ち上がった。
「エヴァ。やはり人間嫌いが治ったのではないか? アルトゥール様が触れても、嫌ではないのだろう?」
「い、嫌に決まっているでしょう!?」
私が手を振り払うと、家族みんなニヤニヤし始めた。
「アルトゥール様。エヴァは家族以外の人間に触れられると、過度な緊張状態に陥って動けなくなってしまうのです」
「そうなのよ。これまで家に引きこもり、家族以外との触れ合いは避けて過ごしてきました。メイドのダリアに慣れるのも二年かかりましたの」
アルジャンモドキは私が叩いた手を擦りながら、頷いていた。
「そうでしたか……。あの、元婚約者様とはいかがだったのですか?」
「全てお伝えした上で婚約したのだが。昨日、初めて顔を合わせて、徐々に慣れていってもらう予定が、エヴァを干物女と罵って婚約を破棄してきたのだ」
「本当に、失礼しちゃうわ。でも、きっとそれも必然だったのだわ。アルトゥール様とエヴァを結びつける為の。――だからエヴァ。恥ずかしがらずにアルトゥール様と愛し合っていいのよ」
母が真面目な顔で諭すようにそう言った。
「はい?」
「そうだ。好きなだけ愛し合いなさい」
「お、お父様?」
「まだ陽は高いが気にするな。存分に愛し合いなさい」
愛し合えって何なのよっ。
嫌だって言ってるのに。
アルジャンモドキは恥ずかしそうに頬をかくと、力強く言葉を返した。
「はい。そうさせていただきます。エヴァ、もうしばらく世話になるよ?」
「な、何を勝手なことばかり……。私は……」
「そう恥ずかしがらなくて良いのだぞ。はっはっはっ」
父を筆頭に家族みんな笑い始めた。
駄目だ。何を言っても信じてもらえそうにない。
そう諦めた時、食堂の扉が開かれた。
「ごきげんよう。お父様、お母様。それからお兄様に、エヴァ」
公爵家へ嫁いだ姉が、急に帰ってきた。
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