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015 被害者第一号
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カーティア=ロジエ? ベルティーナと同じ赤茶色の髪をした胸のはだけた下品なドレスを着た女が屋敷に現れた。
誰だこいつ。俺は父と顔を見合わせて固まった。
ロジエ伯爵の話だと、ベルティーナはとても優しい(知ってる)姉で、可愛い(とは思わない)妹の結婚が決まるまでは嫁にいきたがらないから、今日は妹と縁談を進めたく連れて(意味分かんねぇよ)きたそうだ。
途中で心の声が漏れかけたが、多分我慢した。
学生時代、ロジエ伯爵はベルティーナの婚約を渋っていた。ベルティーナは学園内で孤立していたが、それを高嶺の花として捉えている者も数多く、縁談話は俺の耳に届くほど沢山出ていた。というより、アルドを通じて常に最新の縁談情報を収集していた。
だからこそ誰よりも早く最初の縁談に取り付けたのだが、俺が思っていたより、ロジエ伯爵は上手なのかもしれない。
ベルティーナ自身は優秀だが、家格は並み。アーノルトとの婚姻は好条件である筈だが、この狸親父はより良い条件を得たいが為に妹を連れてきたのかもしれない。
優秀なベルティーナを手に入れたければそれ相応の待遇を用意しろとでもいいたいのだろうか。
腹の探り合いをしつつ、謎の妹推しの後、俺はカーティアと二人で庭を散策することになったのだが――。
「きゃんっ。つまづいてしまいましたわぁ~」
右腕に抱きつかれて蕁麻疹が出た。
何だこの拷問は。
「私、昔から病弱でぇ、すぐに転んじゃうんですぅ」
病弱と転倒の繋がりが見えない。どうやったらベルティーナとアルドの間にいて、こんな女が育つんだ。
「俺に触るな。何故お前が来たのだ? 俺はベルティーナに婚約を申し込んだのだ」
「知ってますわ。でも、ベルティーナお姉様は、ヨハン様には私の方がお似合いだって仰ったの」
「ベルティーナが?」
「はい! ほら、ベルティーナお姉様って、何でも一人で出来るじゃないですかぁ? でも、私はそうじゃないんです。ヨハン様みたいな殿方に守っていただかないと生きていけないんですぅ」
それがベルティーナの答えなのか?
確かに、俺は一度もベルティーナに勝てなかった。
万年次席止まり。
そんな俺では夫にできない。そう言いたいのか?
「ヨハン様。私はベルティーナお姉様とは違いますわ。ヨハン様が必要なんです。お慕いしているのですわ」
ベルティーナとは違う?
要するに、ベルティーナには俺は不要で好きじゃないから、妹を寄越したのか。
ベルティーナに自分の思いを伝えたことはない。
そして、ベルティーナから伝えられたことも。
「ヨハン様ぁ。私は――きゃっ」
「失礼する」
無意識の内に、俺は屑女の腕を振り払い、馬小屋を目指していた。
こんな奴等と話していても埒が明かない。
ベルティーナに真意を問う為に、俺はロジエ領へと馬を走らせた。
◇◇
初めてロジエ伯爵の屋敷を訪ねた。
執事に名を名乗り、アルドを呼んだ。
「ヨハン様? わぁ。当家に来られるのは初めてですね!――ひぃっ。何かありましたか!?」
呑気に出迎えたアルドは、俺と目が合うと震え上がり後退りした。
多分、俺は、随分と酷い顔をしていたのだろう。
「ベルティーナに話がある。会わせてくれ」
「は、はい」
◇◇
応接室で待っているとベルティーナが現れた。
今思えば、ベルティーナは顔色が悪く泣いた後だったのかもしれない。
あの時の俺は、後ろめたくてそんな顔をしているのだと思い、顔を合わせて早々に彼女を責めてしまった。
「そんなに俺との婚約が嫌だったのか? ベルティーナ。君の気持ちを教えてくれ」
誰だこいつ。俺は父と顔を見合わせて固まった。
ロジエ伯爵の話だと、ベルティーナはとても優しい(知ってる)姉で、可愛い(とは思わない)妹の結婚が決まるまでは嫁にいきたがらないから、今日は妹と縁談を進めたく連れて(意味分かんねぇよ)きたそうだ。
途中で心の声が漏れかけたが、多分我慢した。
学生時代、ロジエ伯爵はベルティーナの婚約を渋っていた。ベルティーナは学園内で孤立していたが、それを高嶺の花として捉えている者も数多く、縁談話は俺の耳に届くほど沢山出ていた。というより、アルドを通じて常に最新の縁談情報を収集していた。
だからこそ誰よりも早く最初の縁談に取り付けたのだが、俺が思っていたより、ロジエ伯爵は上手なのかもしれない。
ベルティーナ自身は優秀だが、家格は並み。アーノルトとの婚姻は好条件である筈だが、この狸親父はより良い条件を得たいが為に妹を連れてきたのかもしれない。
優秀なベルティーナを手に入れたければそれ相応の待遇を用意しろとでもいいたいのだろうか。
腹の探り合いをしつつ、謎の妹推しの後、俺はカーティアと二人で庭を散策することになったのだが――。
「きゃんっ。つまづいてしまいましたわぁ~」
右腕に抱きつかれて蕁麻疹が出た。
何だこの拷問は。
「私、昔から病弱でぇ、すぐに転んじゃうんですぅ」
病弱と転倒の繋がりが見えない。どうやったらベルティーナとアルドの間にいて、こんな女が育つんだ。
「俺に触るな。何故お前が来たのだ? 俺はベルティーナに婚約を申し込んだのだ」
「知ってますわ。でも、ベルティーナお姉様は、ヨハン様には私の方がお似合いだって仰ったの」
「ベルティーナが?」
「はい! ほら、ベルティーナお姉様って、何でも一人で出来るじゃないですかぁ? でも、私はそうじゃないんです。ヨハン様みたいな殿方に守っていただかないと生きていけないんですぅ」
それがベルティーナの答えなのか?
確かに、俺は一度もベルティーナに勝てなかった。
万年次席止まり。
そんな俺では夫にできない。そう言いたいのか?
「ヨハン様。私はベルティーナお姉様とは違いますわ。ヨハン様が必要なんです。お慕いしているのですわ」
ベルティーナとは違う?
要するに、ベルティーナには俺は不要で好きじゃないから、妹を寄越したのか。
ベルティーナに自分の思いを伝えたことはない。
そして、ベルティーナから伝えられたことも。
「ヨハン様ぁ。私は――きゃっ」
「失礼する」
無意識の内に、俺は屑女の腕を振り払い、馬小屋を目指していた。
こんな奴等と話していても埒が明かない。
ベルティーナに真意を問う為に、俺はロジエ領へと馬を走らせた。
◇◇
初めてロジエ伯爵の屋敷を訪ねた。
執事に名を名乗り、アルドを呼んだ。
「ヨハン様? わぁ。当家に来られるのは初めてですね!――ひぃっ。何かありましたか!?」
呑気に出迎えたアルドは、俺と目が合うと震え上がり後退りした。
多分、俺は、随分と酷い顔をしていたのだろう。
「ベルティーナに話がある。会わせてくれ」
「は、はい」
◇◇
応接室で待っているとベルティーナが現れた。
今思えば、ベルティーナは顔色が悪く泣いた後だったのかもしれない。
あの時の俺は、後ろめたくてそんな顔をしているのだと思い、顔を合わせて早々に彼女を責めてしまった。
「そんなに俺との婚約が嫌だったのか? ベルティーナ。君の気持ちを教えてくれ」
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