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003 弟は真面目で策士?
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弟のアルドは、跡継ぎとして両親から厳しく育てられました。長女の私は基本放置、妹は溺愛、弟は幼少の頃から習い事地獄の末、隣の領地のアーノルト辺境伯様の所へ毎日訓練に通わされていました。
凡人の私には両親の教育方針が良く分かりません。ただ、弟はとても真面目で誠実な子に育ったので、あの両親自らが教えを説くより、辺境伯様の方が適任であったことは確かだと思っています。
ですが、二年前、私と辺境伯令息との婚約話が破談になった時から、弟が通うことはなくなりました。アルドは辺境伯様が体調を崩されたと思っていますが、実際は違います。
そして今は、学園と屋敷だけを往復する毎日を過ごしています。
アルドは、剣の腕も中々だと聞きますが、私が勉強を教えているので成績も上々です。それなりに学園生活を楽しんでいるのかと思いきや、カーティアの存在がアルドを苦しめていたようです。
「ティア姉様は、学園内の裏新聞の称号を、総ナメ状態なんです」
「はい?」
裏新聞って何かしら。真面目な弟が変な道に足を踏み入れていないか不安になりました。
「あ、ベル姉様は女性だから知りませんよね。男性だけで作成している学園内のゴシップ紙みたいなものなんですけれど、国内の情勢から、婚約したとか破棄されたとか。後は婚約が成立しなかった場合も記載されています」
それなら、毎回カーティアの名前が記載されていてもおかしくはありません。
ですが、称号とは何でしょうか。
「それと、毎月、裏アンケート調査があって。ティア姉様はたくさん称号を獲得していて……」
「どんな称号なのかしら?」
「た、例えば……。頭の中お花畑令嬢とか、告白したら即承諾しそうな令嬢とか。それに、婚約不成立記録更新、連続二十五人斬り達成とか。それから、まだまだ――ですが、もうベル姉様に聞かせても良いような称号が出てきませんっ」
アルドはそう言って床に崩れ落ちました。
「あ、アルド。気をしっかり持って」
「まさか、ティア姉様があんな人だったなんて。……僕は、学園に通い始めたら素敵なご令嬢とお近づきになれるかもって期待していたんです。なのにティア姉様のせいで、男女関係なく、みんな僕の事を尻軽女の弟として見るんですよ!?」
可哀想に。アルドは習い事、訓練、屋敷に帰れば食事をして寝るだけの十五年間を過ごしてきました。
学園生活は同年代の貴族と過ごせる憩いの場だと期待に胸を膨らませていたのでしょう。
「カーティアは今年で卒業ですから、きっとその……裏新聞ですか? それも今年いっぱい我慢すれば……」
「あ。確かに。あれは在学生限定のアンケート結果です」
良かったです。アルドの顔に生気が戻りました。
そしてアルドは立ち上がると、急に私の手を取りました。
その瞳には、何故か強い決意が滲んでいます。
「ベル姉様。僕はティア姉様の鼻を明かしてやりたいのです。婚約がまとまらないのは性格のせいかと思っていましたが、まさかベル姉様の縁談を奪っていただなんて。僕は許せません!」
「へっ?」
「ティア姉様なんかより先に、ベル姉様に婚約していただくんです。そうしたら、ロジエ家に婚約の申し込みなんかこなくなるでしょうし、もしかしたら、ベル姉様みたいな女性を目指すようになって、ティア姉様も変わるかもしれません!」
「まぁ……。よく考えたわね」
「はい! それに、ヨハン様が協力してくださるんです」
「えっ。ヨハンって……。ヨハン=アーノルトですか?」
ヨハン=アーノルトは、アルドが通っていたアーノルト辺境伯様のご長男で私と同い年の令息です。学生時代は良きライバルであり、友人でもあり、私の人生を彩ってくれた大切な思い出の方です。
「そうです! ヨハン様は、二年前にもベル姉様に婚約を申し込んでくださったのですよね。ご相談したところ、快諾してくださいました!」
アルドはいつヨハン様とお会いしたのでしょうか。
そう思案している時、扉がノックされ、執事が顔を出しました。
「お嬢様。婚約の申し込みの書状が届いておりまして、旦那様がお呼びです」
父から婚約に関して私が呼ばれるのは初めてでした。アルドは喜び勇み、瞳をキラキラと輝かせて私の手を引きます。
「ベル姉様。僕が力になりますから。気合いを入れて行きましょう!」
今日一番のアルドの笑顔をいただきました。
ですが、一体どんな手を使って私へ婚約のお話が回ってきたのでしょうか。
凡人の私には両親の教育方針が良く分かりません。ただ、弟はとても真面目で誠実な子に育ったので、あの両親自らが教えを説くより、辺境伯様の方が適任であったことは確かだと思っています。
ですが、二年前、私と辺境伯令息との婚約話が破談になった時から、弟が通うことはなくなりました。アルドは辺境伯様が体調を崩されたと思っていますが、実際は違います。
そして今は、学園と屋敷だけを往復する毎日を過ごしています。
アルドは、剣の腕も中々だと聞きますが、私が勉強を教えているので成績も上々です。それなりに学園生活を楽しんでいるのかと思いきや、カーティアの存在がアルドを苦しめていたようです。
「ティア姉様は、学園内の裏新聞の称号を、総ナメ状態なんです」
「はい?」
裏新聞って何かしら。真面目な弟が変な道に足を踏み入れていないか不安になりました。
「あ、ベル姉様は女性だから知りませんよね。男性だけで作成している学園内のゴシップ紙みたいなものなんですけれど、国内の情勢から、婚約したとか破棄されたとか。後は婚約が成立しなかった場合も記載されています」
それなら、毎回カーティアの名前が記載されていてもおかしくはありません。
ですが、称号とは何でしょうか。
「それと、毎月、裏アンケート調査があって。ティア姉様はたくさん称号を獲得していて……」
「どんな称号なのかしら?」
「た、例えば……。頭の中お花畑令嬢とか、告白したら即承諾しそうな令嬢とか。それに、婚約不成立記録更新、連続二十五人斬り達成とか。それから、まだまだ――ですが、もうベル姉様に聞かせても良いような称号が出てきませんっ」
アルドはそう言って床に崩れ落ちました。
「あ、アルド。気をしっかり持って」
「まさか、ティア姉様があんな人だったなんて。……僕は、学園に通い始めたら素敵なご令嬢とお近づきになれるかもって期待していたんです。なのにティア姉様のせいで、男女関係なく、みんな僕の事を尻軽女の弟として見るんですよ!?」
可哀想に。アルドは習い事、訓練、屋敷に帰れば食事をして寝るだけの十五年間を過ごしてきました。
学園生活は同年代の貴族と過ごせる憩いの場だと期待に胸を膨らませていたのでしょう。
「カーティアは今年で卒業ですから、きっとその……裏新聞ですか? それも今年いっぱい我慢すれば……」
「あ。確かに。あれは在学生限定のアンケート結果です」
良かったです。アルドの顔に生気が戻りました。
そしてアルドは立ち上がると、急に私の手を取りました。
その瞳には、何故か強い決意が滲んでいます。
「ベル姉様。僕はティア姉様の鼻を明かしてやりたいのです。婚約がまとまらないのは性格のせいかと思っていましたが、まさかベル姉様の縁談を奪っていただなんて。僕は許せません!」
「へっ?」
「ティア姉様なんかより先に、ベル姉様に婚約していただくんです。そうしたら、ロジエ家に婚約の申し込みなんかこなくなるでしょうし、もしかしたら、ベル姉様みたいな女性を目指すようになって、ティア姉様も変わるかもしれません!」
「まぁ……。よく考えたわね」
「はい! それに、ヨハン様が協力してくださるんです」
「えっ。ヨハンって……。ヨハン=アーノルトですか?」
ヨハン=アーノルトは、アルドが通っていたアーノルト辺境伯様のご長男で私と同い年の令息です。学生時代は良きライバルであり、友人でもあり、私の人生を彩ってくれた大切な思い出の方です。
「そうです! ヨハン様は、二年前にもベル姉様に婚約を申し込んでくださったのですよね。ご相談したところ、快諾してくださいました!」
アルドはいつヨハン様とお会いしたのでしょうか。
そう思案している時、扉がノックされ、執事が顔を出しました。
「お嬢様。婚約の申し込みの書状が届いておりまして、旦那様がお呼びです」
父から婚約に関して私が呼ばれるのは初めてでした。アルドは喜び勇み、瞳をキラキラと輝かせて私の手を引きます。
「ベル姉様。僕が力になりますから。気合いを入れて行きましょう!」
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ですが、一体どんな手を使って私へ婚約のお話が回ってきたのでしょうか。
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