卯野の独り言

出産の記憶 ４

　色々ありましたが、ハチとやっと会えた嬉しさの他にも大きな喜びが。
　うつ伏せで寝られる！
　お腹が出始めてからずっと出来なかったうつ伏せがこんなに気持ちいいなんて。
　とまあ、産後の喜びを噛み締める間も無く、新米母としての日々が始まりました。
　授乳のため、決まった時間に新生児室に向かいます。
　遠目から「明らかに大きな子がいるなぁ」と思いながら近づいてみたらハチでした。他の子は軒並み2800グラム前後なのに、ハチだけ3000グラムオーバーでした。
　他の赤子のおじいちゃんでしょうか、ハチを指して「ずいぶん立派な子がおるなぁ、立派立派」と言っていたのが印象的です。
　産後の喜びもあれば地獄もあり。
　何針も縫った局部が痛いです。まるで短い針金が刺さっているような感覚です。
　歩くのもひーこら、座るとんぎゃぁぁぁ！
　病院に備え付けてあったドーナツクッションが大活躍。
　旦那が見舞いの品は何がいいか聞いてきたので、ドーナツクッションと即答しました。
　旦那の他にも、実家の家族も来てくれました。そこで義姉からの「戦いはこれからだよ！」の声に、ゴールだと思っていた自分は目が覚めました。遅い。
　妊娠期間は10カ月足らず、陣痛は１日ちょっと。
　だけど育児はこの先何年十何年と続くのです。産後のナチュラルハイでそのことをスッポーーーーンと忘れていたのです。
　やばい差し入れでもらったＤＳでドラクエやってる場合じゃないやん！
　完全母子別室だったので、入院中はのんべんだらりと過ごす気満々でした。アホです。
　入院中に抜糸もありました。母曰く、「抜糸の前は歩くのもままならないけど、抜糸の後はスキップしたくなるから」
　その言葉は確かにワクワクさせてくれましたが、入院仲間で二人目三人目を産んだという先輩ママの言うことには、「院長の抜糸はベテランなだけあって容赦ないから痛い。若先生（院長の息子）は抜糸も優しくて痛くない」とのこと。
　さあどの先生でしょう。抜糸を迎える他のママさんと、診察室前まで行きます。ドキドキです。
　白い衝立の向こうの処置台。さらにその先の椅子に座っている白衣の姿。あの恰幅の良い姿は……

　院長だぁぁぁぁぁ！

　並んでいる面々に『絶望』の二文字が浮かびます。
　順番を待っている間、時折聞こえてくる「ぎゃあ！」「痛い」の声。怖い怖い怖い怖い。
　そして私の執行の時が来ました。
　容赦なくバチバチと糸を抜いていく院長。痛い痛い痛い痛い！
　一緒にいた助産師さんが「頑張れ！」と手を握ってくれました。私はまたお産をしているのだろうか。
　エグエグと涙を浮かべながらの抜糸も終わりました。
　確かに糸がない分、痛くないし歩くのもかなり楽だし座るのも平気になったけど。
　めちゃくちゃ痛かった。縫った数が多かった分、地獄も長かった……。

　そして真夏の太陽照りつける暑い日、退院を迎えました。