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『会議室は荒天なり 3』

『会議室は荒天なり 3』

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 第三の企画は『スター』だ、と暦川は今や国民的人気を誇るプラチナプロダクション所属の五人組のアイドルグループ『ストーミー』の画像をスクリーンへ映し出す
 だが、これまでの企画同様無理だ! という声は誰からも上がらなかった
 むしろ暦川をどんなに難しい戦況でもスルっと突破しゴールを決めてしまうファンタジスタを見るような視線で見つめていたのだが…
「独自調査によると、文化祭レベルの催しに彼らを呼ぶのは我々が想像していた以上に大変だそうだ。大手スポンサーでも一千万円以上のギャランティーが用意出来なければ不可能と言われた」
 アイドルは事務所の商品、タダでステージをやらせる訳には行かない
 当然、その金額を聞いた出席者からは異議の声が上がり始める
「一千万円! 払えるのかよ」
「もうちょっとレベルを落とせば行けるんじゃないか? デビューしたばっかのグループとか地下アイドルとか」
「なんならストーミー。って最後に句読点打って俺らがコピーで出るしかねーんじゃないの? 」
「バカかお前は、そんなんでごまかせるわけねーだろ」
 様々な意見が出る中で暦川はこの件に関しては策が既にあると言ったが、具体的にここで話すとサプライズにはならないと言い、その上でステージ設営及び警備の責任者として文科系連合会長の高校2年β組藤木 颯太(ふじき そうた)囲碁将棋部部長を指名して無事に第一回の会議が終わろうとしていたのだが…
 全員が席を立とうとした瞬間、会議室のドアが開き揃いの赤ハチマキを締めた数十人の生徒が雪崩れ込んでくる
 そして皆の前に立つ暦川を脇へ押しやり、二人の生徒がスクリーンの前へ
『同好会連合』
 とボロ布にペンキで記された旗のような物を広げ、その会長とおぼしきいかにも虚弱体質な体型でボサボサ髪の上へ電車の車掌が被る制帽を乗せた生徒が前へ仁王立ちになった
 彼は高校3年α組の東海道 一鉄(とうかいどう いってつ)と言い同好会の中では五十人と最大の所属者数を誇る鉄道同好会の会長で、他にあるアイドル、クイズ、マンガアニメ、宝塚、hiphopダンスなどの同好会を取りまとめる連合の会長を自称している
 会議の終盤にそんな彼が現れ、いきなり始めたのは今回の図書室同好会の部活動昇格と文化祭実行委員会に対する抗議声明文の読み上げだった
「この度、同じ同好会の中で図書室同好会だけが生徒会による便宜により正式な部活動へ昇格する事、及び我々の存在を完全に無視した文化祭企画についての抗議を行う! 」
 最初の言葉こそ力強い発声であったが、日頃の声出しが車掌の物真似しかしていない為にスタミナが切れてしまい声が次第に小さくなって行ってしまう
「…で…あるからして……とめないので……ある……って」
 同好会連合に押される形で脇へ寄せられていた暦川はプロジェクター担当の松浦へ指示を出し、抗議文全文を横目で盗み見しながらその場で打ち込ませてスクリーンへ表示させた
 抗議の内容はというと
『他の同好会に比べ、たったの四人の図書室同好会が部活動へ昇格するのはおかしい
 それも我々には活動する部室等が無いにも関わらず、不当に図書室を占拠している事がそもそも許せない
 代表者の暦川が文化祭実行委員長を引き受けただけで、認可されるのはいかがなものか
 また、文化祭に関しても部活動単位での活動のみが企画され、同好会の存在が無視されている事を許さない
 以上の理由で、我々は強く今回の文化祭開催について抗議を行う
 加えて同好会連合の所属者は校内での抗議活動及び他生徒への参加ボイコット呼び掛けを開始する』
 という内容を聞くというよりも読み終えて、生徒会側は騒然となった
 だが暦川は平然としており他に言う事が無いのならば、と会議を終了させて図書室同好会メンバー3名を引き連れ退出してしまう
 その背中を
「待て! 暦川! 逃げるのか! 」
と同好会連合がドタバタと追いかけて来たので暦川は立ち止まり、久しぶりに走った為に息を切らせている同好会連合会長の東海道と向き合った
 通常ならばヤンキーマンガで言うところの番長同士の対決、一触即発状態だが相手が虚弱体質過ぎるが故になんとも緊張感の無い光景である
「東海道連合会長、反対運動をするのならばどうぞご自由に」
「なっ、なっ……何をぉ……」
「正直に言って私に取ってこの文化祭実行委員長という役職は役不足です、更に言えば面倒なのであなたに代わっていただきたい程ですね」
 想定外の発言に言葉を失った東海道に対し、暦川は深く一礼すると再び仲間と共に図書室へ向けて歩を進める
 残された東海道と同好会連合はまるで狐に摘ままれたかのようにその場から動かなかった
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